第30話・建て直すの日々・ドクター
第30話・建て直すの日々・ドクター
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転移先は、魔物対策局本部前の広場。
五月の陽射しが木漏れ日となって降り注ぎ、蝉の声が遠くに響く。
涼しい夏風が、穏やかに頰を撫でた。
「ここが……中央区」
葵は初めての場所に、好奇心と緊張が入り混じった目で周囲を見回す。
制服の裾をぎゅっと握り、肩を少し縮こまらせている。
「キミは初めて中央区に来たんだろ?」
「はい……お父さんは仕事で来てるけど、うちは初めてで……うん?」
葵が、何かを発見したように指を差す。
「あの……まるでゲームに出てくる魔王城みたいの、何でここにあるんですか?」
確かに、現代都市の景観に異様に浮く黒い城。
尖塔が空を突き、威圧的な存在感を放っている。
「あれは魔王アウグロスに自称した魔物の城だ。この地を取り戻す戦いで、最大の脅威だった。原初の魔法少女全員が参戦して、残桜局長だけが生き残った代償で討伐したんだ。今は破壊出来ない、そのまま残ってて……中央区の観光名所みたいなもんになってるよ」
「そうなんですか……学校で歴史は習ったけど、本物を見ると想像以上に大きい……」
葵は興味深げに目を輝かせ、スマホを取り出して写真を撮ろうとする。
少し頰を赤らめ、興奮を抑えきれない様子。
「城の下で魔王城饅頭ってのが売ってるよ。登録終わったら食べに行くか?」
「饅頭……登録終わったら、考えます、です」
「じゃあ、そうしよう」
話しながら、オレたちは本部の正面玄関に到着した。
*
本部の外観は、13区支部と似た白を基調とした清潔な建物。
事前に連絡済みだったので、受付でIDカードを提出する。
「すみません。13区から来た連絡員の天城です。新人の魔法少女を連れてきて、予約していた登録手続きをお願いします」
「はい、かしこまりました。天城さんですね。準備はできております。二階の第一応接室へご案内します。こちらのロボットについてお進みください」
受付員が端末を操作すると、球型のドローンが浮かび上がる。
表面に『ついてきてください』の文字が投影された。
「なんか……かわいい、ですね」
葵が、緊張を紛らわすように小さく呟く。
「ああ。行こうか」
ドローンを追って二階へ。
応接室のドアを開けると、白衣の女性が待っていた。
「こんにちは、お二人とも。入って入って~。君が天城暁連絡員さんで、後ろに隠れてるのが弓月葵さんね。私は北条理恵。普段は開発部だけど、今日は登録担当よ」
北条先生は、疲れたような口調で微笑む。
メガネの奥の目は、すでに葵を観察し始めている。
「13区、最近大変だったみたいね。あちこちも人手不足で、私もこっちまで呼び出されちゃって……まあ、心理学と医学の免許は持ってるから、安心して。さ、座って座って」
促されて、オレたちはソファに腰を下ろす。
葵は緊張で肩を強張らせ、膝の上で手をぎゅっと握りしめている。
「うう……緊張します……」
「ほら、肩の力抜いて」
オレが小声で声をかけると、葵はこくんと頷いた。
北条先生は資料をめくりながら、葵をじっと見つめる。
「ふむふむ……覚醒時の報告と固有魔法のデータは読んだわ。杖が髪飾りで、攻撃性が低い性格の具現化ね。《変化の魔法》は変身にさらに変身を重ねる二次変身系……『今の自分じゃダメだ』という無力感の表れかしら。初対面で確信したけど――自信不足、人見知り、勇気が少し足りないタイプ?」
分析されるほど、葵の肩が落ちていく。
「やっぱり……うち、魔法少女に向いてない……」
「ん?そんなことないわよ。アクセサリー系の杖を持つ子は、心が優しくて正義感が強い子が多いの。固有魔法も『他人の仮面を被り、その力を模造する』、自分の不足を補う形で現れるけど、結局は自分の力。気にせず変身しちゃえばいいのよ。この分析は心理検査の一部。トラウマや危険思想があれば治療が必要だけど……君にはそういう傾向がないから、普通に登録できるわ」
「え……本当に?」
葵の顔が、ぱっと明るくなる。
北条先生はくすっと笑い、資料にサインを書き込んだ。
「北条先生、言い方もう少し優しくした方が……」
少し回りくどいけど、登録は順調に進んだ。
「資料はこれでOK。次は身体検査ね。弓月葵さん、これから医務室に行きましょう。天城暁さん、ここからはプライバシーだから、終わったら連絡するわ。葵さん、借りるわよ」
「は、はいです!先輩、また後で!」
葵は緊張しながらも、軽く手を振ってくれた。
オレは二人を見送る――が、北条先生が振り返る。
「あ~、うっかり忘れてた。ボスが君を呼んでるから、開発部に行け」
「オレを?どうして?」
「私にはわからないわ。伝言だけよ。それじゃ」
北条先生はさらりと去っていった。
*
開発部――魔法少女や連絡員の戦いを支える道具を開発する部署。
オレが使う魔弾も、ここで生まれた魔石兵装の一つだ。
「お邪魔します……って、誰もいない?」
部屋に入ると、様々な器材や材料、意味不明の発明品が散乱しているが、人影はない。
「それもそうか。みんな別の仕事で――」
「それもそうだよ~!みんなは色んな仕事で不在だから、僕だけだよ~!やあ、予想より早いね!理恵くんがちゃんと伝えてくれて良かった~!忘れたなら自身で呼び出すけど!」
後ろから、元気過剰の声。
振り返ると、オレより頭一つ分小さい幼女が立っていた。
オーバーサイズの白衣を着て、白い髪をポニーテールにまとめている。
「どうもどうも!僕は原初の魔法少女・ドクターだよ!残桜ちゃんの式神として復活して、前線からは引退。今は毎日発明三昧の生活さ!そして、暁くんみたいな稀なケースと出会えて、長生きして良かったね~!」
う、話についていけない。
「そういえば、暁くんが使ってるのは僕が改良した魔石兵装・タイプ:魔弾二式だろ!弾薬補充が必要?それそれ~」
「うわ、他人の体に触るなって、くすぐったい!」
ドクターは勝手にオレの腰のホルスターから銃を引き抜き、マガジンを確認する。
「うわ、2発だけ残ってるじゃないか!いま補充するよ!これはさらに火力アップした魔石兵装・タイプ:魔弾三式!火力過剰なんて言わせない、火力は多いほどいいんだから~!」
楽奈よりマイペース。
完全に自分の世界で動いている。
「補充終わり!ほら、お返し!ここに立ってないで、入れ入れ~!僕の研究室に行こう!」
「お、おう……」
ドクターはスキップするように歩き、白衣の裾を翻す。
銃を返され、オレは仕方なく後を追う。




