第3話・魔法少女のお仕事、コウモリ魔物②
第3話・魔法少女のお仕事、コウモリ魔物②
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『危ない、もう魔物に発見されました!』
変身の際に放たれた魔力の反応を捉えたのか、コウモリ型の魔物の群れがこちらに気づき、警戒するように一斉にこちらへ視線を向け、咆哮を上げてきた。
『『『ガアアアアァァーーー!!』』』
「うわっ、変身途中で先制攻撃なんて……!」
共鳴した咆哮が空気を震わせ、周囲のコンクリートには蜘蛛の巣状のひびが走る。
一般人なら立っていられないほどの衝撃だ。
変身を終えたわたしは急いで通用魔法のバリアを展開し、衝撃波を受け止めた。
「うぅ……うるさい!まあ、コウモリ系だし予想できるけど、いきなり音波攻撃はやめてよね!」
刀を持たない左手を一体の魔物へ向けて狙い、次の瞬間、自分の一歩手前の空間が歪む。
わたしはそこに“現れ”、勢いのまま刀を横薙ぎに振る。
ケーキを切るみたいに、拍子抜けするほど簡単に胴が割れ、魔物は断末魔すらなく消滅した。残骸は空気に溶けるように霧散する。
脆い過ぎでびっくりした。
突然一体が消されたことで、群れのコウモリ魔物は何が起こったのか理解できず混乱している。
咆哮の共鳴が乱れ、音波攻撃の威力が一気に落ちた。
――«距離の魔法»。
これがわたしの固有魔法。
自分と視界内にいる対象との「距離」を操作する、いわば簡易な空間魔法の一種。距離が離れているほど魔力消費が増えるのが難点だ。
以前、局長......原初の魔法少女様から教わった。
通用魔法は魔力を消費して現象を起こすもの。
一方、固有魔法は心の奥底にある“願い”が形になった概念的な力なのだと、もっと強力な効果があり、成長もできる。
この魔法は飛行する相手に対して相性がいい。
最初にやったことは、ターゲットとの距離を一瞬だけ“消し”、強引に自分の元へ引き寄せたのだ。
群れが混乱している今が好機。バラバラに逃げられる前に決める。
もう一体へ狙いを定め、距離を――消去。
今度は逆に、わたしが相手へ距離を縮める。
魔物の視点からすれば、きっとわたしはいきなりに“突然出現した”ように見えただろう。
「てりゃあぁぁー!!」
身体ごと回転し、刀と共に車輪のように回り込む。
一撃で数体のコウモリ魔物をまとめて斬り裂き、落下の勢いを利用して次のターゲットへ移動。
まるで連続転移しているかのように、群れの数を次々と減らしていく。
『ガアァー!』
反撃の音波が飛んでくるが、共鳴していないただの咆哮なら痛くもかゆくもない。
ただし――こういうゴリ押し戦術は、敵が密集している時にだけ有効だ。
散開されたら、さすがに魔力の無駄使いになる。
そして魔物は本能で動くとはいえ、バカじゃない。
残ったコウモリたちが散開を始めたのが、その証拠。
(……いったん高度を落とすべきかな)
幸いここは廃工場の上空。足場になる鉄骨や配管があちこちにある。
近くのパイプラインへ距離を合わせ、そこへ着地する。
「はぁ……疲れた。連続移動は目がくらくらする。でも、相応の成果は出たみたい」
さっきまで空を覆っていた魔物の群れは、今や十数体しか残っていない。
数を確認していると、お兄さんから通信が入った。
『さすが魔法少女・白雪。良い結果だ。残りは十五体だけだ。最後まで気をつけてくれ』
「はい、がんばります!」
正体がバレないよう、任務中は魔法少女名で呼ばれる。
だから、お兄さんが本名で応援してくれないのは……ほんのちょっとだけ残念。
その感情はひとまず脇に置いて、戦いに集中する。
残り十五体。
うん、全部「視界範囲」内。
(……なら、大技で一気にいく)
逃がすわけにはいかないし、魔力消費が多くても仕方ない。
「『距離制限』――わたしとの距離を、十メートル以内に限定!」
距離制限は、対象の行動範囲そのものを縛る拘束技だ。
これで逃げ道は消えた。
発動と同時に、強烈な疲労感が背中にのしかかる。でも、まだ動ける。
パイプラインから飛び降りると、距離制限に囚われたコウモリ魔物たちも強制的に引きずられ、わたしと同じ軌道で地面へ落ちてくる。
飛行の優位を完封した一撃だ。
わたしは着地の体勢を取るが――魔物たちはその余裕もなく、情けない姿勢のまま地面へ盛大に叩きつけられた。
(……なんか、疲れすぎて逆にテンション上がってきた……?)
そういえば、お兄さんとゲームしてる時に似たセルフがあった気が――そうだ
「『魔王の前に逃げ道はない』……ってね。これで今回の任務は終わり、かな!」
『あの、その、魔法少女・白雪さん……忘れたかもしれない、作戦は全部記録されています』
……う。
お兄さんの一言で一気に冷静に戻り、残っている魔物を物凄い勢いで片付けた。
(早く終わらせて……記録も早く止める……!!)
こうして今回の任務は――
わたしの黒歴史を新たに増やしながら幕を閉じた。




