第2話・魔法少女のお仕事、コウモリ魔物①
第2話・魔法少女のお仕事、コウモリ魔物①
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現場へ到着したオレは、魔物に気付かれないよう建物の影に車を停めた。
あらためて前方を見上げると、その光景は異様だった。
魔物の謎が多いけとこの点はわかった、周囲の魔力が一点に集中して顕現する存在だ。
その性質上、顕現には大量の魔力が必要となるため、通常は一体だけ現れるのが普通だ。
……にもかかわらず、目の前に広がるのは空を覆うほどのコウモリ型魔物の群れ。
明らかに“異常”だ。
任務開始前、雪菜に最終確認を取る。
一般人であるオレは魔力をまともに感知できない。
設備も魔力との相性が最悪で、魔力反応に探知出来るけど、正しい数字に測れない。
だからこそ、現場に来た魔法少女が自身の魔力感知で状況を判断する必要がある。
「雪菜さん、ここで感じる魔物の魔力はどうだ?」
雪菜はそっと目を閉じ、短く息を整えて集中した。
「……うん、一つだけ気になる点がある。分身の理由かもしれないけれど……あの群れ、魔力の波長が全部同じです。
でも、数のわりに強い魔力を感じない、全部の魔力を合計すれば弱い魔物一体分、かな?……大丈夫。問題ありません」
「わかった。雪菜さんがそう判断するなら信じるよ。無理はしない、約束だぞ。……じゃあ、任務開始前に装備を最終確認する」
「うん、約束する。お兄さんは本当に心配性だから……危なくなったらちゃんと逃げるよ。だから大丈夫」
雪菜は素直にうなずき、オレの指示に従って装備を整える。
オレは腰のホルスターから拳銃を取り出し、赤い弾丸が装填されているか確認した。
普通の銃弾は魔物に効果がない。ただ衝撃を与えて動きを鈍らせる程度。
だが、この赤色弾丸——“魔弾”は、生産系魔法を持つ魔法少女が魔物のコアである魔石を素材に作り、魔力を込めて作られた特別もの。
魔物に対して確実に有効打となる、オレにとって唯一の攻撃手段。
しかし魔弾は希少で、携帯できるのは三発だけ。
使いどころは慎重に選ばなければならない。
準備を終えた雪菜が車を降りる。
「行ってきます」
「……気をつけて」
雪菜が離れたのを見て、オレはブレスレット型通信機で本部に任務開始を連絡した。
前線に無闇に出れば、魔法少女の戦いの邪魔になる。
連絡員であるオレができるのは、後方で戦場の状況を観測し、助言を送ることだけだ。
通信状況を確認し、息を整える。
*
『こちら暁。雪菜さん、聞こえるか?』
「きゃっ……!び、びっくりした……は、はい、通信正常です……!」
耳元の通信機から急にお兄さんの声がして、心臓が跳ねた。
でも、ちゃんと返事できた自分はちょっと偉いと思う。
わたしは一人、廃棄工場へこそこそ移動していく。
……ほんと、みんな自由すぎる。
任務が普通に出撃してほしい。
これじゃ、お兄さんに迷惑がかかるじゃない。
でも、タイミングが悪かったのも事実だ。
奏ちゃんは夜が弱いから仕方ない、もし起こるするとまだ自分を無理する。
楽奈ちゃんは「水曜日のねこ集会」で深夜は帰らないのもいつものこと。
彩音ちゃんは……うん、完全に彩音ちゃんが悪い。
だけど、そのおかげで、久しぶりに“お兄さんと二人だけの任務”。
……文句なんて、あるわけない。
少しテンションが上がって、昔みたいに制服姿で来てしまった。
でも、お兄さんの視線から少しだけ罪悪感が感じた、その表情が胸に刺さる。
あの目……きっとまた遊園地のことを思い出したんだ。
何度も言っているのに。
あれはお兄さんのせいじゃない。
魔物に遭遇したとき、足がすくんで動けなかったのはわたし。
お兄さんが引っ張ってくれたから、生き残れた。
むしろ、足を引っ張って追いつかれたのは、わたしのせい——
それに......
だめ。今は集中しなきゃ。
十分距離を取った。ここで変身する。
心の奥にある“杖”を呼び出すと、次の瞬間、手の中に重い武器が現れる。
鞘に収まった刀だ。
柄を握り、静かに抜く。
「——抜刀、変身!」
体の中心から魔力が駆け巡り、姿が一気に変わる。
長い黒髪は氷のように透き通る蒼色へ。
制服は雪の紋様をあしらった動きやすい和服へと変化する。
「魔法少女・白雪、参上!」
刀を構え、わたしはコウモリ魔物の群れへ駆け出した。




