第1話・魔法少女のお仕事
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第1話・魔法少女のお仕事
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百年前、人類は初めて未知の高エネルギー粒子を観測した。
この不可解な粒子は「魔力」と名づけられた。
当初、人々は新たなエネルギーの発見に歓喜した。
しかし、わずか数年で関連研究はすべて中止される。
その理由は、魔力に固有の二つの性質が明らかになったためだった。
ひとつは、魔力が既存の物理法則とは異なる独自の法則に従い、魔力を宿す存在までもが同様の性質を帯びること。
その結果、通常の物理的干渉が著しく困難となる。
もうひとつは、魔力が強烈な感情に反応するという性質である。
この二点から、魔力は科学と最悪の相性を持つと判断され、実用化は不可能と結論づけられ、研究は放棄された。
本来なら、魔力に関する話題はそこで終わり、やがて人々の記憶から消えていくはずだった。
――あの日までは。
魔力で構成された異形の怪物「魔物」が、突如としてどこからともなく出現し、周囲を破壊し始めたのである。
物理耐性を持つ魔物に対し、人類は有効な手段を持たず、文明はわずか数ヶ月で滅亡寸前に追い込まれた。
そんな絶望の最中に現れたのが、世界各地で目覚め始めた「原初の魔法少女」たちだった。
強烈な感情を抱いた彼女たちの肉体は魔力を宿し、魔力は心の奥底にある最も純粋な願望と共鳴して固有魔法として具現化する。
その力は、同じ魔力性質を持つ魔物に対してのみ、有効打を与え得た。
こうして原初の魔法少女たちは反攻を開始し、人類の生活圏を奪還し、廃墟から都市を再建していった。
でも、魔力が存在する限り、魔物の顕現も魔法少女の覚醒も止まることはない。
そこで、生き残った原初の魔法少女たちは「魔物対策局」を設立した。
*
これは過去の記憶、忘れないの記憶
崩壊した遊園地。
虚空から突然顕現した魔物が、背後から迫ってくる。
オレは彼女の小さな手を強く握りしめ、魔物から守る覚悟だけを胸に必死で逃げていた。
彼女はオレの隣に住む幼馴染みで、歳は離れているが昔からの仲だ。
魔物の顕現は完全な事故だったとしても、遊園地へ行こうと言い出したのはオレの方だ。こんな目に遭ったのは、結局オレの責任だ。
だから、彼女だけは必ず守る。
あの魔物は巨大なタコのような姿をしており、幸いにも建物の影に隠れながら走れたため攻撃は直撃しなかった。
当てられないことに苛立ったのか、魔物は触手でジェットコースターのレールを巻き上げ、オレたちの進路へ投げつけてきた。前方は瓦礫で塞がれ、逃げ道は完全に絶たれた。
絶望的な状況の中、オレは思わず彼女を抱き寄せて庇おうとした——その瞬間、腕の中の彼女からまばゆい光が溢れ出した……。
その後の記憶は曖昧で思い出せない。ただ、結果だけは残っている。
魔物の残骸の前に立っていたのは、魔法少女へと覚醒した彼女と、駆けつけた魔物対策局の魔法少女たちだった。
*
ここは魔物の破壊による廃墟から再建された都市——新都。
生き残ったオレ、天城暁は魔物対策局の連絡員になり、今は深夜の高速道路を走って任務地へ向かっているところだ。
連絡員としての役目は、魔法少女と魔物対策局をつなぎ、担当する魔法少女たちの身の回りの世話をすることだ。
必要な時には、彼女たちに生命力や、無意識のうちに吸収した魔力を分け与える役割も担っている。
魔力は精神と密接に関わっており、魔法少女の覚醒も強い精神的刺激とともに発生することが多い。
だからこそ、彼女たちの精神を安定させ、悩み事を聞くことも、日常的な支援の一部となる。
覚醒できなかった一般人である俺にできるのは、魔法少女たちに対して、この程度のことだけだ。
車外の景色を眺めていると、なぜだか昔のことが頭をよぎる。
それは、久々に「彼女と二人きりの任務」という状況が、あの事件を思い出させたのかもしれない。
助手席に座るのは五年前の遊園地事件で目覚めた魔法少女、オレの幼馴染・星野雪菜。
魔力を宿す身体は物理的な老化の影響を最小限に抑えるため、彼女の姿は今も五年前、十四歳のままほとんど変わらない。
青い制服姿の彼女を見ると、どうしてもあの惨劇を思い出してしまう。
かつてオレと一緒に遊んでいた雪菜は、今では立場が逆転し、魔物と戦ってオレを守る側になった。
雪菜が魔法少女になった日から、オレは決めたのだ。魔物相手には無力でも、せめて魔法少女たちを支える存在になろうと——そして連絡員になった。
思考が飛びかけたところで、雪菜の声が現実に引き戻した。
「……こうしてお兄さんと二人だけで任務に出るなんて、なんだか懐かしいね」
「オレもだよ。でも二人だけってのは静かだな。他の子たちが色々あって出撃できない状態だからな」
今回、雪菜と二人きりというのは本当に珍しい。
オレの担当する魔法少女のうち、他の三人が同時に出られないなんて滅多にない。
月見奏は規律正しい生活で、もう寮に戻って眠ってしまった。
影崎楽奈は「水曜日のねこ集会、夜は帰らない」というメモだけ残して消え、今どこにいるか不明。まあ、彼女らしいといえば彼女らしい。
最後の一人、陽葵彩音は地下の休憩室で倒れているのを発見した。見事なまでの魔力切れだ。
魔法少女の魔法は精神状態に左右されるため、リラックスできるよう対策局には様々なテーマの休憩室が作られている。
地下の休憩室回廊は多くの魔法少女の手で作られ、趣味や落ち着く空間を反映した部屋が並んでいる。
彩音の魔法は《絵の魔法》。
そのためアートアトリエ風の休憩室はほとんど彼女の私有のようになっており、おかげでオレはすぐに彼女を見つけられた。
「彩音さん、魔物が発見された。この任務は参加でき……って、うわ」
作品だらけの部屋の中央で、彼女は変身したまま巨大な水彩筆——心像投影で生まれた“杖”を抱えて倒れていた。
彩音が変身すると髪は白く染まり、毛先にカラフルな色が灯る。ベレー帽とエプロン姿も相まって、まさに画家の魔法少女そのものだ。
弱々しい目でオレを見上げた彩音は、救いを求めるように手を伸ばす。
「アカツキ〜……助けて……彩音は、絵に集中しすぎて……ミスって魔力切れ……生命力ちょうだい……魔力補給したい……」
その必死さは少し可哀想だが、任務が優先だし、今無闇に体力を使わせるわけにもいかない。
オレは彼女をお姫様抱っこでベッドに運び、そっと寝かせる。
「任務があるから、今回はダメだ。しっかり眠って、自然回復まで大人しくしてな」
「むむむ〜……けち……」
こうして、小隊で出撃可能なのは雪菜だけになった。
魔物対策局には魔物討伐以外に、魔法少女たちの生活を支援する役目もある。
だから無理に任務を押しつけることはできない。
本来なら戦力不足の際は別の小隊に任せるべきだが、今回の魔物は雪菜自身の判断で「自分の魔法と相性が良い」とのこと。任務続行となった。
話し合いの最中、雪菜はタブレットで情報班からの調査内容を再確認していた。
「相変わらず真面目だな、雪菜さん。何か気になる点でも?強がらなくていいぞ。無理そうなら他の小隊に任せる選択肢だってあるんだから」
雪菜は顔を上げ、少し考えてから答える。
「ええ。今回のターゲットは廃棄工場に棲みついていたコウモリ型の魔物。それと映像を見る限り、数多くのコウモリが飛び回っているけど……あくまで推測だけど、あれは分身のような魔法を使っていると思う。観測でも大きな魔力は感じられない。なら問題ありません。倒します」
そんな他愛ない会話をしているうちに、目的地へ到着した。
廃棄工場の上空では、映像のとおり巨大なコウモリ型魔物の群れが飛び回っている。
魔石を持つ“本体”は、あの群れの中に紛れているはずだ。




