第26話・悪意・余響
第26話・悪意・余響
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「魔物の掃討、お疲れ様です。残桜さん、音羽さん」
長い時間はかからなかった。
魔物掃討を終えた二人が、オレたちと合流した。
「魔力の使い過ぎはないの?残量は大丈夫ですか?」
「ふふ、自分を心配してくれるの?ありがとうの~。そんなに魔力を使っていないの。《符の魔法》は『効果と発動条件を設定し、相応の魔力を消費して符を作る』ものだから、杖の強化効果を展開するだけで魔力を食うの。今回は現場で対策用の符を作る必要がなかったから、事前に用意した斬撃符、爆発符、強化符だけで充分だったの。まあ、その代わり、腰のカードケースが一つ空っぽになっちゃったけどの~」
オレのせいで負担をかけたのに、局長は軽く笑って答える。
隣にいた音羽に、肘で小突く。
「……あそこの承認欲求バカが勝手に魔力を無駄遣いしなければ、もっと残ってたはずなの」
「やあ、厳しいお言葉だな。私の魔法がどれほど広範囲でも、あのイワシみたいな数のコウモリなら、必ずすり抜ける使い魔が出るわ。後輩たちの安全を考えると、あれは最善だったんじゃない?」
「はあ、先輩はいつもそうだの……でも、先輩も知ってるでしょう?魔物を討伐することは、魔法少女の成長に関わるの。あんなに大量を先輩一人で半分以上倒しちゃったら、美味しいことが取れなくなっちゃうじゃないの。地下に避難した職員たちの救出はどうなったの?」
まるでその言葉を待っていたかのように、音羽は自信満々に胸を張る。
「ああ、もちろん大丈夫よ。私はすでに地下避難所で職員みんなを救出したわ。途中で怪しい機械を見つけたから、そのまま壊しておいた!司令部の職員たちは、大体出撃した皆様と連絡が取れてるはずよ」
「あ、本当に電波戻った!さっき魔物に襲われた頃、圏外で焦ったよ~!」
小夜がスマホを確認して、嬉しそうに騒ぐ。
オレは、さっきの会話で気になった言葉を無視できなかった。
「魔物の討伐が、魔法少女の成長に関わる……?」
「ああ、そうともの。これはあくまで自分の経験則だけど、正しくはわからないの。魔法少女が強くなる方法は、『魔物を討伐して自分の存在を強化する』、『固有魔法の概念を再解釈する』、『時間経過による心の成長』――この三つだろうの。その中で一番手っ取り早いのは、魔物を討伐すること。どうせこの魔物だらけの世界じゃ、目標に困らないからの~」
「だから、市内で魔物が顕現した時は、他の魔法少女たちに任務を割り振るんですね……」
「人は無意識に空気中の魔力を吸収するの。だから新都内は魔力が薄いから、顕現する魔物も外に比べて弱いの。だから今のシステムじゃ、魔物はみんなの成長の糧になるの。まあ、今の件とは関係ないから、しばらく置いといての。暁……」
局長は、地面から焦げた残骸を拾い上げ、注意深く観察する。
「君、魔人化したかなの?」
その質問に、オレは一瞬フリーズした。
「はい、そうです。鎖と焔、両方顕現しました。でも、異変は前腕までで停止。わたしと楽奈ちゃんが魔力を抜いてくれて、元に戻りました」
雪菜が、オレの代わりに答える。
局長と短く視線を交わした。
「……え、そう、なんだ?」
楽奈は無表情なのに、影の尻尾がぴんと立って、本当に驚いているのがわかる。
「え!?暁、大丈夫?彩音もちゅーする?」
「あの、もしわたくしでお役に立てるなら、何なりとおっしゃってください……!」
「え、えーー!?魔人化って、あのバケモノみたいな……本当に大丈夫ですか!?」
オフィスにいたみんなが、それぞれの反応を爆発させる。
「はい、雪菜の言う通りです。オレは彼女たちのおかげで制御できました。もう大丈夫です」
局長は、確認するようにオレの周りをぐるぐる回って観察。
「ふん~自分の目でも、異変部位は見えないみたいの。これを持っていけ。体に常に貼っておいての。これは吸魔符。発動条件は『完全に魔人化する直前』で作動して、過剰魔力を吸い出して貯蔵するの。このことは後で調査するから、これで安全装置みたいな御守りみたいなものよ」
手を掲げ、作ったばかりの符をオレに渡す。
「これじゃあ、自分はこの男を本部の詢問室へ。必ず知ってる情報を吐き出させるの~」
残桜は、光の鎖で縛った元魔人を引っ張る。
「ほら、先輩はこの場で待機するの。追加のテロがあるかもしれないから、警戒して。自分は先に帰るの~」
「了解しました!できる限り、みんなを守ってみせるわ!」
転移符を使って、局長は元魔人を連れて消えた。
*
安全のため、オレたちは半壊した支部から外へ出る。
雪菜と彩音のおかげで、順調に脱出できた。
別の魔法少女小隊たちは次々と帰還し、それぞれの反応で現場は少し混乱。
オレも他の連絡員と情報共有し、不安がる魔法少女たちの感情を落ち着かせる。
音羽は魔法で穏やかな音楽を流し、現場の混乱を抑えるのに大きな効果を発揮していた。
魔法を使うのは普段より簡単だったが――その後は、長い復興の道のりが待っていた。
*
「はあー」
本部の地下、幽闇の詢問室。
静寂の中で、自分のため息がはっきり響く。
目の前の男――自分が煩悩の根源だった元魔人は、すでに息絶えていた。
「まんまとやられたな……」
自分は巫女服の裾を軽く持ち上げ、全身に貼った無数の符の中から、腹の部分の一つを確認する。
燃え尽きた符――『身代わりの符』。
自分が致命傷を受けた時、条件発動して無効化するもの。
燃え尽きたということは、自分はもう一度、死んだことになる。
もう一枚の符を切り取る。
『記録符』――一定威力以上の魔法を受けた時に発動し、情報を記録するもの。
「『遅延発動・砕魂』か……自分に波及したみたい。上手く隠蔽してこいつに仕込んで、用が済んだら口封じのための完全な捨て駒扱い。わざわざ魂まで砕くなんて、自分の魔法にある程度理解してる証拠ね。でも、完全に理解されてないみたい。自分の魔法で式神を作れる対象は魔法少女限定なのに、そこまでする必要はないのに……この魔法は貰おうっと」
はあ、今わかったのはこの螺旋状の二翼蛇のマークだけ。
「でも、魂ダメージが……耐性がないなら一撃で絶命する危険なもの。その魔法を使える奴が敵の一員で、隠蔽テロを実行し、更に魔物を武器として調達できる……楽奈ちゃんの話から、魔力研究もしてる。この情報は、別国の魔法少女組織にも伝えるべきかな」
情報共有すべきは――ヨーロッパの狩龍集会と魔女集会、アメリカのヒーロー連合、北欧で真龍と戦争中のユグドラシル攻略組、教会勢力のパラディン……
ああ、もうめんどくさい。
まだ仕事が増えた。
この現実を前に、自分は静かに絶望した。
「自分は遠征したわずか2日なのに……休暇が取りたい……の」




