第24話・悪意・襲撃②
第24話・悪意・襲撃②
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「雪菜ねえ、お兄ちゃん~!助けてくれてありがとう、怖かったよ~!」
小夜が飛びついてこようとする。
「そこに止まれ!今はオレに近づくな!」
オレは大声で彼女を制した。
「え、どうして……?アタシ、悪い子した?捨てないで、お兄ちゃん……」
小夜が虚ろな目でよろめきながら近づいてくる。
その様子に胸が締め付けられるが、オレは急いで両手を掲げて見せた。
「違う!キミはいつだってオレの大切な妹だ。絶対に捨てたりしない。悪いのはオレだ……どうやら、オレは魔力に侵食されたみたいなんだ」
「え、本当に?かっこいい爪だけど……禍々しいっていうか、燃えてる!?」
「まあ、そういうことだ。すまない雪菜、妹とこの後のことは任せた。オレは理性が残ってるうちに、地下の隔離施設へ――」
「ちょっとお待ちください」
雪菜が、静かにオレの腕を掴んだ。
「ちょ......!焔があるよ!早く離れて!」
「今のお兄さんは、わたしたちを攻撃する衝動はあるんですか?それとも、その衝動は魔物に対して――『わたしたちを脅かすもの』だけに向かうんですか?」
そういえば……先ほどの魔物を倒した瞬間、破壊衝動が収まった。
腕を這う侵食も止まっている。
そして、一度として雪菜や小夜に向かう気は起きていない。
「……そうみたいだ。それなら、良かった……(あの遊園地の時と同じ。あの焔は、わたしには決して傷つけないはず……なら――)」
雪菜は、何かを決めたように目を細めた。
「それなら、わたしに考えがあります。少しそのままでいてください」
「ん?いいけど……」
次の瞬間――雪菜の顔が、すぐ目の前に。
柔らかな唇が、重なった。
「ん――!?」
「うわ!?雪菜ねえ、いきなり何!?」
雪菜の細い腕がオレの首に回り、逃がさないように抱き寄せる。
《距離の魔法》の影響か、唇と唇の距離は完全にゼロにすらなっている。
甘い吐息が混じり、舌先が絡まるたび、オレの体内から過剰な魔力が――狂暴な衝動ごと――吸い取られていく。
雪菜の長い黒髪がオレの頰をくすぐり、彼女の体温が伝わってくる。
どれだけの時間が経ったかわからない。
ようやく唇が離れた時、小夜が雪菜の肩を引っ張って、ようやく引き離す。
「ほら、雪菜ねえ、そこまで~!今は緊急事態の途中だよ~!」
「……ふぅ。これ以上は、ダメみたいです」
雪菜は頰を赤らめながら、息を整える。
「その……雪菜さん、いきなり何を……?まさか戦いで魔力使い過ぎた、魔力低下の暴走?」
雪菜はゆっくり首を振る。
「違います、これはわたしの意志でやったことです。ほら、両手を見てください」
言われた通り見ると――鎖はほとんど消え、爪先のごく一部黒い焔だけが残っている。
「魔人化は過剰魔力が原因です。魔力を抜けば解除できるはず……だから、こうしました。でも、わたしの魔力は完全に回復しました。この後は、他のみんなに任せます。楽奈ちゃん、お願いできますか?」
「……うん。事情はわからないけど、普段通り魔力供給すればいいの?」
いつの間にか、楽奈がオレの影から現れていた。
まあ、影から影へ移動できる彼女が、一番早く到着するのは当然か。
そのまま、オレの唇に自分のを重ねた。
「うわ、楽奈ねえも!?アタシの目の前に!?」
小夜が騒ぐが、楽奈はマイペースに無視。
「……!?」
短い――しかし、濃密なキス。
楽奈の小さな体がぴったり寄り添い、無表情のままなのに、影の尻尾がぴくぴく動いているのがわかる。
「……魔力が、こんなに豊富……こんな短い時間で、もう完全に回復した?」
楽奈は戸惑いながら、自分の体を確認する。
「はい、ここまで!危ない状況はまだ解除されてないよ、お兄ちゃんから離れてよ~!」
小夜が横から割り込み、オレの腰にぎゅっと抱きついてきた。
近寄るなと言ったのに……まあ、両手の爪はもう元に戻っているし、いいか。
魔物の襲撃で不安だったのだろう。
呼び方も「おにい」から、昔みたいに「お兄ちゃん」に戻っている。
オレは苦笑して、安心させるため、小夜の頭を優しく撫でた。
しばらく、このままでいてやる。
「ありがとう、二人とも。オレはもう大丈夫みたいだ」
地下の隔離施設に閉じ込められる必要がなくなって、本当に良かった。
「はあ、はあ……楽奈ちゃん、早すぎだよ」
「彩音たち、到着しました!みんな大丈夫ですか?ここの戦いはもう終わったみたいですね!」
「うわ、どこまでも爪痕が……うち、無事に合流できて良かった、です」
奏と彩音が駆け込んできた。
葵も一緒――だが、服装が変わっている。
未来風のスナイパー姿。
アニメの魔法少女というより、SFシューターの主人公だ。
「弓月さん、この姿は?」
「あ、その……これはうちの固有魔法の効果みたい、です。局長さんが分析されて、《変化の魔法》って名付けてくれました、です。さっき外で『もっと効率的に遠距離攻撃できれば』って思ったら、全身が一瞬で変わって……『マジカル☆スティック』も狙撃銃になりました!今の装備はFPSゲーム『ギャラクシー・テラー』の主人公で……この銃、すごいんですよ!初めて使うのに、百発百中ですよ!それにそれに……」
葵の早口が止まらない。
宣伝課の連中を思い出した。あいつら、ちゃんと避難できたかな?
彩音も横から口を挟む。
「彩音も役に立ったよ~!絵で階段描いてた!」
奏は小さな声で。
「その……わたくしは、騎士たちを召喚して、魔物を引きつけました」
「みんな、よくやった。オレの失態で危険な目に遭わせて、本当にごめん」
オレは頭を下げた、みんなに謝る。
本来なら局長と音羽と合力で片付くはずだったのに、オレのせいでみんながこの危険な場所に。
「そういえば、残桜さんたちは?」
「……ぼくが説明する。局長は外で魔物を排除してる。コンダクターは支部内部に侵入する魔物、掃討中。『ぼくたちはここで待機』って指示されて、それを伝えるために先に来た」
そういえば、支部内にメロディーが響いている。
あれは、内部で戦うコンダクターの魔法の音か。
「それは良かった。しばらくここで堅守して、待機しよう」
オレは窓から外を覗く。
残桜は鬼のような勢いで高速移動し、符から放つ斬撃で魔物を真っ二つに。
雪菜と半魔人化したオレが合力でギリギリ倒した相手を、あっさり半分に。
あの違法組織所属の元魔人は、光の鎖で繋がれ、後ろに引きずられていく。
地面に高速で擦れて、痛そうだが……回復の符が続くから命は無事だろう。
まあ、自業自得だ。




