第23話・悪意・襲撃①
第23話・悪意・襲撃①
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「フハハハハーー!!ざまあみろ!組織はお前ら魔物対策局の動きを完全に読んでたんだよ!魔人が現れたら全員出撃する――その隙を突く!あの実験場の元責任者である俺が魔人になって、お前たちを釣り出す餌になったんだ!これは、あの施設が壊された復讐だ!」
いつ目覚めたのか、拘束された元魔人がペラペラと喋り始めた。
だからオレたちは、一瞬で状況を理解した。
残桜の表情が、怒りを超えて、無に近いものになる。
支部は作られた当初から、このような事態を想定して設計されている。
建物全体が魔法少女たちの固有魔法で強化され、魔物程度では容易に壊せない。
職員たちは地下の緊急避難所へ誘導される手順が確立されている。
――だが、小夜は違う。
彼女は職員じゃない。
避難所の場所など知らない。
この襲撃に、逃げ場がない。
思考より先に、身体が動いていた。
「小夜ッ……!」
オレは支部へ、全力で走り出す。
視界が歪む。
地下街でのあの戦闘の最後――彩音に魔物が最後の反撃を仕掛けた瞬間と同じ感覚。
時間の流れが遅くなり、周囲の魔物の動きがスローモーションのように緩慢になる。
考える暇はない。
この恩恵を利用して、魔物の群れの隙間を縫うように進む。
遠くから仲間たちの援護が飛ぶ。
回避不能な攻撃を放とうとする魔物は、影の武器、描かれた奇抜な兵器、光束で妨害する。符、音符――次々と瞬殺された。
突然、背中に軽い衝撃。
本来は攻撃が命中しに思うけど、この感覚は――
「お兄さん、小夜ちゃんのことが心配ですよね、お供します」
「《距離の魔法》か!すまない、雪菜さん……巻き込んでしまった」
「大丈夫です。わたしも、一緒に救援しましょう」
こうして、オレと雪菜は、破壊された支部の入口から内部へ飛び込んだ。
*
このオフィスに侵入した魔物たちは、目的もなくただ破壊を繰り返す。
あれは爪が嵐が纏う、燃えた大きな狼の魔物。
(ヤバい、ヤバい!これマジでヤバいって!お兄ちゃん、助けて……!)
アタシは息を潜め、おにいの机の下に身を縮めて隠れていた。
こうなったのは、少し前のこと。
みんなとお別れして、おにいのオフィスで待機中。
ソファーに寝転がって、おにいのゲーム機で遊び、冷蔵庫から見つけたジュースを飲んでいた。
突然、部屋中の照明が赤く変わり、アラームが鳴り響いた。
支部襲撃の警告放送が流れる。
この急変に、アタシはゲーム機を放り投げ、一人でオフィス中をうろうろ。
「どうしよう、どうしよう!?」
とりあえず、侵入される前にドアをロック、おにいに連絡を――
「え、なんで圏外!?ここ都市の中心なのに!?」
スマホも役立たず。
窓越しに外を覗くと、燃え盛る狼の群れが支部を囲んでいる。
「ひぃーー!魔物、どうして!?」
完全に孤立。
逃げ場なし、連絡なし。
何もできないから、机の下に隠れて救援を祈るしかなかった。
時間が経つほど、状況は悪化する。
ドアの方向から、重い衝突音が何度も響く。
何度か試した後、諦めたのか――衝撃音が止んだ。
(……魔物、去った?)
安堵したのも一時、嵐に纏う爪がチェーンソーのようにドアを切り裂き始めた。
今は、ただ悲鳴を堪え、見つからないよう祈るだけ。
だが、祈りは通じなかった。
隠れていた机が粉々に砕かれ、アタシの姿が露わになる。
「ひぃーー!近寄らないで!」
手の届く範囲のものを魔物に投げつける。
多少の足止めにはなったが――
狼の巨大な口が、アタシの目の前に迫る。
「小夜!!!」
――その絶体絶命の瞬間。
一番聞きたかった声が、響いた。
「お兄ちゃん!」
*
支部内部は、破壊の痕跡だらけだった。
崩落した通路、引き裂かれた壁、散乱した机や書類――
徘徊する魔物に注意しながら、オレと雪菜は慎重に進む。
雪菜の《距離の魔法》が大活躍した。
通路を塞ぐ崩落物を、反発で一瞬で吹き飛ばす。
崩壊した階段も、先に転移移動でその後オレを連れて一気に上階へ。
「ありがとう、雪菜。」
「ええ、お兄さん。小夜ちゃんを……早く!」
二人は息を合わせ、オレのオフィスに急ぐ。
爪痕で引き裂かれたドアを見た瞬間、心臓が一瞬止まる錯覚に襲われた。
――中では、小夜が炎狼系の魔物に襲われていた。
巨大な口が、妹の目の前に迫る。
「小夜!!!」
「お兄ちゃん!」
「うっ……!こっちに『来い』!」
雪菜が先手を打つ。
《距離の魔法》で魔物を強引に引き寄せ、鋭い牙が小夜を噛むのを防いだ。
魔物の反撃――爪と杖の刀が鍔迫り合う。
だが、爪に纏う嵐のエネルギーが雪菜を押し込み、この体勢は長く持たない。
(クソ……炎狼系は火を消さないと厄介だ。残り魔弾は2発……この状況で――)
その瞬間。
(……なに、これ!?)
両手に、黒い焔と鎖が絡みつく。
わけのわからない手甲のようなものが現れ、不気味に大きな異形の爪が陽炎と共に存在感を放つ。
黒い焔はゆっくりと、確実に腕を這い上がり、侵食していく。
拳銃は使えないが――
(まさか、魔人化……!?でも、この状態なら体に魔力が宿る。つまり――)
「ハアアアアアーー!!」
オレは、破空の音を立てて爪を振り下ろす。
魔物が無防備に認定した体を、引き裂く。
空中に黒い焔の軌跡が残り、鎖の印が傷口から延焼のように蔓延していく。
雪菜が正面を抑えているため、魔物は左右からの攻撃に対応できない。
オレの爪は予想以上に深く食い込み、大きなダメージを与える。
(これ……魔法少女の固有覚醒みたいだ。本能で、使い方が少しわかる……)
毎回の攻撃が鎖の印を辿り、全身に伝播。
黒い焔も、この燃え盛る狼に効いていた。
(でも……攻撃するたび、気分がいい!……違う!オレはただ、小夜を守るためだ……!理性、理性を保て……これ以上長引かせたらダメだ。早く終わらせる!)
手のひらから黒い鎖を生成し、絡み合った鎖で槍を形成。
それを投げて魔物の動きを封じ、回避を制限する。
「いまだ、雪菜!」
「はい!首を狙って『来い』!そのまま真っ直ぐ――首切り!」
突然の空間移動で、魔物の首が不自然にねじれる。
杖は心の具現化、即ち《距離の魔法》の効果対象――刃と切断対象の距離を負数に設定すれば、何でも切れる。
「魔力集中――『切断』!」
雪菜の刀が閃き、魔物の首を斬首。
反撃の隙を与えず、魔石の回収も放棄して両断した。
魔物の体は魔力に還り、消えていく。
オフィスに、静寂が戻った。




