第22話・悪意・陽動
第22話・悪意・陽動
==========
コンダクターが指揮席を降りても、旋律は止まない。
螺旋のように空間を駆け巡る音楽が、アリーナ全体を震わせる。
「君がこんなにたくさんの使い魔を連れてきてくれて良かったわ!そのおかげで音符の収集が順調すぎて……第二段階に移る!うんうん、今回は最短記録更新ね!」
魔人と直接対峙したコンダクターの雰囲気が変わった。
バトンがレイピアに変形し、タキシードに音符の紋様が浮かび上がり、モノクロのマントが背中に翻る。
どこからともなくスポットライトが降り注ぎ、彼女と魔人の姿を同時に照らし出す。
これと杖の変形も、先ほど言っていた「楽章」と関係しているのか?
「まあ、この心像共鳴の結界中に、二ノ宮先輩の強さは宙に浮遊する楽章の完成度で決まるの。今回は使い魔が多すぎて、すぐに強化状態になってるの~。普段なら、心像共鳴の空間で敵対対象を倒して音符に変えるか、或いは演奏で音符を増やすだけなのに……今回はこうなっちゃったの」
隣にいた局長が、オレの疑問顔を見て解説してくれる。
「この状態の二ノ宮先輩はかなり強いの。けど、指揮席にいて音符を消費する、魔法で一方攻撃だけで魔人を完全に片付けられるはずなのに……わざわざ降りて対決するのは、後輩たちの前でカッコつけたいだけなの?まあ、この後は歌劇みたいなものだから、みんなで見てての~」
局長は呆れた顔で前方を眺める。
他の魔法少女たちも、最後のコウモリ使い魔を討伐し終えると、中央の決闘を見守る態勢に入った。
先に動いたのは魔人だ。
咆哮と共に、無数に歪んだ角が覆う右腕を振り上げ、爪を連撃で叩き込む。
「邪魔だ!うおおおおーーー!」
コンダクターはレイピアを軽く流し、連続する爪撃を全て受け流す。
一連の鮮やかな金属音が鳴り響き、調和的に背景の音楽に溶け込んでいく。
「おっと、これでお返しよ!」
激昂の旋律に合わせて、剣先が魔人の胴体を連続貫く。
命中と同時に、ドラムの轟鳴が空間を震わせた、浸透する音が魔人に重傷する。
攻防で生まれた音は、すべて曲の旋律に融合し、演奏を乱さない。
「おのれ……魔物対策局!いつも我々を邪魔しやがって!」
魔人の黒い角にひびが入り、再生の魔力が追いつかない様子。
叫び声にも、気力が欠けている。
「これはどうもありがとう!君たちの邪悪がある限り、我々魔法少女は存在するわ!君に事情があるなら、元に戻ってからゆっくり聞く時間はたっぷりあるのよ!」
コンダクターは凛々しく魔人の言葉を受け止め、もう一度レイピアを構える。
「演目もそろそろフィナーレといきましょう!」
オレの目が追えない速度で、コンダクターの姿が朧げに揺れる。
次の瞬間――魔人は宙に浮かび上がっていた。
「『鳴らせ』――」
バイオリンの鋭い旋律が鳴らせた、無形の斬撃が魔人を切り裂く、まるで空間と共に錯覚を生む。
「『響け』――」
トロンボーンの音が響き、同心円状の震波が魔人を粉砕する。
「これでおしまい、『奏で』――」
「ふえー?わ、わたくしですか!?参ります……うわ!?」
「奏ちゃん、それは違うって。」
オレは、杖を構えて飛び出そうとした奏を慌てて止める。
この一瞬の気を紛らわすと、いつしか魔人の落下地点にコンダクターが立ち。
ピアノの荘厳な旋律が流れる、剣先に集中した指向性螺旋の音波と共にが魔人を貫いた。
魔人の全身を覆う甲殻のような角が粉砕し、歪んだ肉体が元に戻る。
その白衣の男が、重く地面に落ちて気絶した。
彼を照らしていたスポットライトが消え、コンダクターの勝利を告げる。
コンダクターは優雅に観客――オレたち全員に向かって一礼。
オレたち、他の魔法少女たち、連絡員たちは、自然と拍手を送っていた。
「みんな、ありがとう!この演目は楽しくては何より!」
背景の音楽が消え、この心像共鳴で作れらた世界が閉幕した。
*
元の世界に戻ると、あれは戦闘の余波で半壊した広い十字路。
戦いが終わった魔法少女たちは、それぞれの連絡員と状況を確認し始める。
待機命令だったオレたち小隊は、楽奈を除いて実戦に参加していないため、疲労は少ない。
楽奈はオレのすぐ傍にぺったり寄り添い、影の尻尾が少し纏いしました。
「……む」
見学だった葵は、怯えるより憧れの目が強い。
どうやら、小隊に正式加入しそうだ。
「これが……魔法少女のお仕事、なんですね……すごい」
残された三人――
「まあ、気にするな、奏ちゃん!」
「うん、ただの間違いだけだよ~」
「うう……」
彩音と雪菜が、顔を赤くした奏を慰める。
局長は元魔人の元へ歩み寄り、封印の呪符で拘束。
有形無形の二重拘束で、指一本動かせない。
近くで見ると、白衣のマークがはっきりわかる。
あれは『二つの翼蛇が螺旋状に絡み合う』の紋様でした。
「で、無駄にこの自分の魔力を使った二ノ宮先輩、なぜまだコンダクターIIの姿で変身解除しないの~」
局長の言う通り、音羽はまだ強化状態のまま、めちゃくちゃ目立っている。
「うん、それは失礼でした。でも、集まった音符が多すぎて、一時的に解除できないのよ、残桜ちゃん」
「む、そんなに魔力が残ってるなら、勝手に使った分返せの!」
「あははは~面白いこと言うわね、残桜ちゃん。でも、そうは出来ないのよ。今の状態は強化魔法の時効がまだ残すみたいなものよ。だからごめんね」
「はあ……まあ、結果が良かったから文句なし、の?」
みんなは一件落着みたいな雰囲気に成る――だが、何が違和感があった。
普段なら、この場の任務完了したことを司令部に発信したのに、司令部からの通信が不気味に静かだ。
「残桜さん」
「なんだの?」
オレは局長と音羽の元へ歩み寄る。
「今すぐ支部へ転移、お願いできますか?勘違いならいいんですが……嫌な予感がするんです」
局長は一瞬考えることもなく、カードケースから符を探す。
「うむ、直感か……昔、征戦してた頃はよく助かったの。いいよ。ちょっとこの元魔人を地下牢に連れて。二ノ宮先輩、これ持てる?」
「それはもちろんよ!」
音羽が元魔人の襟を掴み、みんなの近くに寄せる。
「みんな、帰るよ~!」
「「「「「はい!」」」」」
オレも小隊のみんなを集め、局長が符を掲げて転移を発動した。
*
転移の光が消えた瞬間――目の前に広がったのは、普段の支部ではなかった。
『がうううう――!』
燃え盛る狼の群れが、支部の周りを徘徊している。
入口は破壊され、何体も内部に侵入済み。
その爪にはそれぞれのエレメント・エネルギーが纏い、先日討伐した雷爪炎狼とその亜種の炎狼系魔物だ。
「うちの入職の……初日が、支部が壊れた……」
葵が、みんなの気持ちを代弁するように呟いた。




