第20話・悪意・魔人
第20話・悪意・魔人
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「魔人って……なに!?」
警報が支部全体に響き渡り、空気が一瞬で張り詰める。
連絡装置が振動し、司令部からの緊急指令が次々と届く。
葵はまだ部外者同然の立場。魔人のことを知らないのは当然で、目を丸くして慌てふためく。
「魔人というのは……男性が魔力の影響で変異した怪物なの」
残桜が、落ち着いた声で説明を始める。
「男性の身体には魔力を蓄える器官がないの。通常なら、血に残る魔力以外は空気に漏れ出るだけ。でも、高濃度の魔力空間に長時間いたり、ある事情で魔力が排出できない状態になると、肉体が変異するの。魔人になると、欲望と共鳴した固有魔法みたいなものが覚醒して、空気中の魔力を吸収して回復できる。欲望のままに暴れ回るの~」
俺も補足する。
「普通の魔物と違って、本来は人間だから一定の知能がある。だから危険度は段違いだ。全員出撃で迅速に制圧しないと、被害が広がる」
葵は信じられないという顔で、ぽかんと口を開けた。
「うそ……全然知らなかった……」
「それはそうだろうの。一般人に『周りの人が突然怪物になる可能性がある』なんて知られたら、疑心暗鬼が広がっちゃうの。だから情報は操作してて、一般人が知ってるのは『人型の魔物が出た』くらいだけなの~」
「まあ、安心して。魔人化は魔力切れで解除できるの。みんなで集中攻撃して、再生が追いつかないくらいに追い込めば元に戻る。記憶も少し処理して、普通の生活に戻れるから」
「そ、それなら……良かった、です」
葵は少し肩の力を抜いた。
その時――宣伝課のドアが勢いよく開き、ファンからの贈り物を整理していた小隊の四人と小夜が飛び出してきた。
「お兄さん!司令部の指示は!?」
「暁~!彩音たちはどこに集合するの~?」
「あの……がんばります!」
「……うん、やる」
「おにい、なんが今緊急事態だろ?アタシはどうすりゃいいの?」
急に八人になった騒ぎになる。
俺は連絡装置を確認し、みんなに伝える。
「今回の件で、俺たちの小隊は周辺待機だ。先日の出撃でみんなの疲労が残ってるから、精神的な負担を考えての指示らしい」
そして、一人ずつ指示を出す。
「まずは小夜、お前は二階の俺のオフィスに避難してくれ」
「はいよ~。じゃあみんな~アタシはおにいのゲーム機を遊んで、みんな武運を祈ってるからな。がんばれー」
小夜はゆるい足取りで去っていく。
「雪菜、彩音、奏、楽奈、そして新人の弓月さん――五人で俺について指定座標に待機。途中で弓月葵さんをフォローしてくれ。彼女は見学だけ、戦闘参加はなしだ。正式な紹介は後になるけど、みんなよろしく」
葵はまだ正式登録前。戦闘現場を見てから、戦うか日常に戻るかを決めるのが一番だ。
「う、うちは弓月葵です!先輩の皆様、よろしくお願いします!」
憧れの魔法少女たちと一緒に行動できる興奮で、人見知りが吹っ飛んだ自己紹介した。
「葵ちゃんね。わたしは星野雪菜、魔法少女・白雪。よろしくね」
「おお、新人だ!陽葵彩音――同時に、魔法少女・マイスターだよ~!よろしく~」
「わ、わたくしは月見奏、魔法少女・フランです。よろしくお願いします、葵ちゃん」
「……魔法少女・シャドウ。真名は影崎楽奈。ぼくも、ようやく後輩ができた♪」
よし、全員に指示完了。現場へ移動――と思った時、視線を感じた。
「自分に指示がないの、暁~?」
「いやいや、残桜さんは局長ですよ?この魔物対策局全体の上司に指示なんて、冗談はやめてください」
「む、つまらないの。ほら、連絡装置貸しての~」
残桜はぴょんと跳んで俺の腕を掴み、画面を覗き込む。
「ふむふむ~あの大きな十字路か。みんな、自分に近づいて。転移で一気に行くの~」
「え、いいんですか?」
「一人も七人も変わらないの。早く変身して、転移するぞ~」
残桜はカードケースから符を選び、掲げる。
白い光が俺たちを包み、重力のない浮遊感が全身を満たした。
*
《正午・十字路》
浮遊感が消え、光が引いた瞬間――耳に飛び込んできたのは戦闘音だった。
魔物の咆哮、魔法の炸裂音、連絡員の采配、そして――魔人狂った笑い声。
「この魔物の咆哮……聞き覚えがある……」
「うん、わたしも……」
視界が回復すると、そこは商業ビルに囲まれた広い十字路、けどいつもの繁華は消えた。
上空と前を覆う無数のコウモリの大群が、まるでイワシの群れのように螺旋を描いて飛び回っている。
中心に魔人を守る使い魔だろう。
コウモリは脆い。別小隊の魔法少女たちの遠距離攻撃で次々と落とされている。
なんが、前線で魔石に作られた赤い刃の刀を振るう、変な連絡員が「クハハーーー!」と高笑いしながら、大量のコウモリを連続薙ぎ払う。
優勢は明らかにこちら。
しかし――魔人の固有魔法かもしれない、討伐されたコウモリは魔石から次々と蘇る。
まるでアンデッドのように、終わらない。
「ねえ、雪菜さん。あのコウモリ、廃棄工場のやつとそっくりじゃない?」
「はい、間違いありません」
白雪に変身した雪菜は手を掲げ、《距離の魔法》で一匹を引き寄せ、反撃も出来ないまま握り潰す。
落ちた砂のような魔石も杖の刀で両断する。
「脆さも同じ。でも、この蘇生は……」
「へえ~。これが彩音、じゃなくて今はマイスターだけ……マイスターが参加できなかったあの任務の目標か~」
マイスターに変身した彩音は、興味深そうに戦場を観察。
「わたしたちには脆いけど、その魔力の物理耐性が残す限り一般人には十分脅威です。この数は危険です、わたくしはそう思う」
フランに変身した奏は、十字銀杖を構え振りする、他人の為になら、弱気な普段とは別人のような鋭い目になる、戦意が高まる。
「……このタイプなら、使役者を倒せば終わる――」
シャドウに変身した楽奈の言葉が、途中で凍りついた。
次の瞬間――魂を凍らせるような殺意が、楽奈から溢れ出す。
コウモリ群の隙間から、元凶の姿が現れた。
あれは白衣を纏い、身体のあちこちに螺旋状の角が生えた、完全変異の魔人。
「この服のマーク……ぼく、知ってる!ぼくたちを捕らえた、あの違法組織の関係者だ!」
「ほう~?これは見逃せないの~。自分の手から逃げた組織が、愛する魔法少女後輩たちを実験動物扱いしてた一員だなんて……良かった、良かったの~。必ず捕らえて、『お話』しなくちゃの~あん!?杖よ、『日月輝扇』、『太陽ノ輝』!」
残桜の笑顔はニコニコに変わらないけど、空気が歪むほどの圧力が放たれる。
『太陽』の紋様が輝く折扇が現れ、残桜は臨戦態勢。
楽奈も杖のナイフを自分の影に沈まれ、そして影を伸ばし、巨大な鎌を形成。
二人して、不気味に笑う。
「「フフフッ~」」
「「怖い!」」
俺と葵は完全にシンクロして叫んだ。
葵は俺を盾に、残桜の反対側に隠れる。
……あの魔人、もう長くは生きられないな。




