第19話・嵐の前の静け・弓月葵の災難
第19話・嵐の前の静け・弓月葵の災難
==========
「落ち着いて。ここは魔物対策局の廊下だよ。オレはここの職員、天城暁。キミの名前は?」
まずはこの子の緊張を解かないと、話が進まない。
「……魔物対策局、のお方?うちは、葵。弓月葵、です。16歳、高校一年生……。ほんとに、うち、魔法少女になったんですか?」
「そうだよ、弓月さん。詳しい説明は後で専門の職員がしてくれるから、安心して」
葵は、まだ警戒した目で俺の後ろに立つ局長をちらりと見る。
全部局長のせいだけど、このままじゃ進展しない。
俺は残桜に目配せして、フォローに入る。
「あそこに立ってるのは確かに局長で、原初の魔法少女の残桜さんだ。先ほどのことは……まあ、彼女の趣味悪いイタズラみたいなもの。キミを食べる気なんてないから、安心して」
「あれは緊急避難なの。手で持ったら握りつぶしちゃうかもだから……うむ、すまんの」
残桜は弁解するつもりだったらしいが、最後は素直に頭を下げた。
「残桜さん、次は影響の少ないイタズラを選んでくださいね」
「……む、反省しておるの」
葵も少し落ち着いた……と思った瞬間。
「え、原初の魔法少女!?本人!?あ、あの、サインください!紙とペン持ってるから、待って――え、鞄どこ!?」
興奮が爆発した。
先ほどの震えはどこへやら、残桜の前まで駆け寄る。
「自分はキミだけ保護したから、鞄は現場に残ってるかもしれないの。事後処理部隊が回収して届けるはずだよ。サインは後でするの~」
「ほ、本当ですか!?やったー!うち、ずっと魔法少女のこと応援してて、生きたヒーローに会えるなんて……すっごく嬉しいです!」
「お、おう……ありがとうの」
イタズラした相手から純粋な好意をぶつけられて、残桜も珍しく戸惑った顔。
俺に「助けての~」と視線を送ってくる。
俺は唇の動きだけで「自業自得」と返した。
*
「最近、学校でも魔法少女の話題がいっぱいで……本人に会えて興奮しちゃって、ごめんなさい……」
葵は、先ほどの失態を残桜に頭を下げて謝る。
「まあ、気にするでないの~……暁、後で覚えとけ」
うわ、あの目は本気の殺意だ。
とりあえず置いといて。
「弓月さん、魔物に遭遇した時のことを、教えてくれないか?」
「うん、いいよ。でも、上手く話せるかな……ちょっと不安だけど」
葵は、少し恥ずかしそうに微笑んで、語り始めた。
*
――うちはこの春、13区の高校に入学した普通の高校生。
ちょっと人見知りだけど、クラスのみんな優しくて、毎日楽しく過ごしてた。
先日、地下街で魔物災害があっただろう?
学校が臨時休校になったから、友達三人で遊びに行く約束してたの。
住宅街で合流して、商店街に向かって歩いてた。
おしゃべりしてる途中で、突然警報が鳴り響いた。
『魔物警報!魔物警報!魔物顕現の前兆を確認!至近の避難通路へ急いでください!』
その直後、目の前の空間が歪んで――巨大な目玉の魔物が現れた、無数の触手がうねってて、気持ち悪い……
「早く逃げて!」
でも、友達が怖がって足が動かない。
「ご、ごめん……足が……」
「うう……」
うちが一番反応できたから、友達を守らないとって思った。
「バケモノ!こっちだよ!」
スマホのフラッシュを開けて注意を引いて、走り出した。
でも、距離が詰まらない。
足が急に動かない。
目玉の魔物がどんどん近づいてきて――
絶体絶命で、近くに落ちてた枝を振り上げた。
最後の抵抗のつもりだった。
その瞬間、身体に力が溢れてきて。
足が動くようになった。
いつの間にか、朝アニメで見たみたいなピンクのフリフリ衣装を着てて。
手に持った枝が、ピンクの杖に変わってた。
無意識に主人公の技を叫んでた。
「マジカル・スラッシュ!」
杖からピンクの斬撃が飛び出して、触手を何本か切り落とした。
『―――!』
魔物が無音の咆哮を上げて、触手を槍みたいに突き出してきた。
「やだ……うん?」
両手で防御しようとしたら――
突然、天から巫女服の幼女が降ってきて、魔物を踏みつけて地面に埋め込んだ。
「うむ、魔力の波動を感じて来たけど……ゲイザーか、珍しいの」
魔物の上に立って独り言みたいに呟いて、こっちを見たと思ったら――
次の瞬間、目の前に現れてた。
「おや?知らない顔ね、覚醒直後かなの?とりあえず、確保の!」
符みたいな紙が飛んできて、身体に貼られたグラス玉のようなものに閉じ込められた――食べさせたから後の事はわからない。
*
この後のことは、自分で話すの。
地面から葵ちゃんを確保したのグラス玉を拾って口にくわえた。
その直後、ゲイザーが地面から抜け出して、自分が獲物が奪われたに誤解かもしれない、怒って自分に襲いかかってきた。
ゲイザーはあの大きな目で視線を降りた相手に様々なデバフをかける厄介な魔物なの。
葵ちゃんとその友達も足止めデバフで逃げられなかったみたい。
「自分に異常状態をかけるの?いいだろうの。杖よ、来いの――『日月輝扇』、『月ノ輝』!」
折扇が手元に現れ、開くと月の紋様が浮かぶ。
「それ~の!」
扇を振ると、腰のカードケースから呪符が数枚飛び出し、ゲイザーを包囲した、符陣を展開した。
相手から受けた異常状態を倍返し、さらに杖で増幅して自分もさらにデバフを押し付けるの。
「どうしたの~?自分より強い相手に呪いをかけるなら、呪い返しも覚悟しなさいの?もう降参したの?フフッ、杖を使うまでもないかもの~」
ゲイザーは浮遊の力も失って地面に倒れ込んだ。
自分は軽くデコピンで粉砕した。
後の事と葵ちゃんのお友達は到着した魔法少女小隊に任せて、葵ちゃんを保護して支部に向かったの。
*
葵と残桜の話を順番に聞いて、俺はそれを記録した。
「これで事件の全容がわかりました。説明ありがとうございます、残桜さん、弓月さん。この記録は担当部隊に送信します」
「いいえいいえ、役に立って良かったですの~」
残桜は、ふと思い出したように拳を手のひらに叩きつける。
「あ、そう言えば~。あのゲイザー、野外のネームド級の強さに近いかもしれない。それに、断末魔の代わりに極太のビームを撃ってきたの。符陣で吸収して魔力変換したから、消費した魔力を少し回復できたけどの~」
「おい、残桜さん!それ、記録にない行動パターンですよ!?すぐに追加情報を――」
「悪い悪いの~。危なくない相手だったから遊び気分で戦っちゃって、うっかり忘れてたの。それじゃ、葵ちゃんのことは任せたの。自分はイレギュラーの現場を視察――」
謝る気ゼロで誤魔化そうとした瞬間――支部全体に響く警報が、言葉を遮った。
この支部全体が響いた警報はオレたち関係者で一番聞きたくない警報パターン。
『緊急事態発生。魔人出現を確認。全魔法少女は担当連絡員のもとへ集合。出撃準備を。』
「え、何!?」
「視察は後にするの。これは……自分も出番のようだの」
残桜の表情が、一瞬で真剣なものに変わった。




