第17話・嵐の前の静け・宣伝課
17話・嵐の前の静け・宣伝課
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メイン娯楽室のテーブルを囲んだお茶会は、いつになく重い空気を帯びていた。
みんなが順番に語った覚醒の記憶――彩音ちゃんの復讐、奏ちゃんの捨てられた孤独、楽奈ちゃんの施設での絶望的な逃亡……。
どれも壮絶で、胸が締め付けられるような話だった。
わたしは、静かに紅茶のカップを握りしめながら思う。
(……わたしが一番、普通なのかもしれない)
お兄さんへの想いは、幼馴染だから普通なこと。
遊園地でのあの事件は、確かに特別だけど……知り合いの誰が犠牲にされないで覚醒した魔法少女は、実はレアなことがもう一度認識した。
他の子たちは、ほとんどが「大切な人を失った絶望」、「死の直前」の中で目覚めている。
わたしだけが、守られた側で、守りたい側に回れた――それが、ちょっとだけ、申し訳ないような、誇らしいような……複雑な気持ちになる。
彩音ちゃんは、家族を全て失った後、同じ災害を生き延びたお兄さんと再会して、心の傷を少しずつ癒してきた。
だから、あの呼び捨ての「暁」。
それはもう、家族と同等な、絶対に手放せない存在への信頼なんだろう。
奏ちゃんは、両親に捨てられ、病死寸前で覚醒した。
その後、魔物に襲われたところを、お兄さんが王子様みたいに助けてくれた。
わたしだったら……間違いなく惚れてる。
でも、奏ちゃんの気持ちは違う。
「誰にも迷惑をかけずに、支えになりたい」――そんな、健気で切ない想い。
そして、楽奈ちゃん。
一番、わたしたちの想像外だった。
違法施設で「67番」として育てられ、感情を殺して生きてきた子。
逃亡の末に瀕死の重傷を負い、お兄さんに救われて、初めて名前をもらった。
今、いつもぺったりくっついているのは……安心のため?
ただ、それだけ?或いは……
小夜ちゃんは魔法少女じゃないの一般人だからこそ、いつもお兄さんのすぐ傍にいられる。
妹という最強のポジション。
わたしには、絶対に手に入らない距離感だ。
沈黙が広がった。
みんな、それぞれの遭遇と想いをもう一度整理しているみたいだった。
わたしは、深呼吸して、ゆっくり立ち上がる。
「みんな……わたしの話、聞いてもいい?」
「ん?雪菜ちゃん、どうしたの?急に真剣な顔~」
彩音が首を傾げる。
奏は少しびくっと肩を震わせ、楽奈は無表情のまま、じっとわたしを見上げた。
わたしは、順番にみんなの目を見つめて、言葉を紡ぐ。
「わたし、みんなのことを……ずっと、一緒でいたい。お友達で、仲間で……そして、お兄さんの力になりたい。みんなと同じように、ちゃんと支え合って、戦っていきたい」
一瞬の静寂。
そして――
「それ、最初から言えばいいじゃん~!彩音も同じ気持ちだよ~!」
彩音が即答して、にこっと笑う。
いつものふわふわした調子なのに、目が本気だ。
「はい!わたくしも、賛成です!みんなで……ずっと、仲良く……!」
奏が珍しく声を張って、頬を赤く染める。
「……うん。ぼくも、そう思う」
楽奈の声は小さいけど、影の尻尾がぴくっと動いて、意志の強さが伝わってきた。
「はー?それ最初に言えよー。アタシはもうおにいの家族だし、妹として一生絡み続けるつもりだから~!」
小夜軽いて笑う、応えた。
その瞬間、みんなの心が、ほんの少しだけ、近づいた気がした。
『――♪』
全員の通信デバイスが、同時に鳴った。
この声は緊急集合じゃない、ただの伝言メモだ。
わたしは部外者としての小夜に自分の通信装置を見せて、一緒に画面を覗き込んで、くすっと笑った。
*
『みんなのお茶会を邪魔してごめん……宣伝課から、ファンからの贈り物が安全検査完了したって連絡が来たよ。取りに来てくれると助かる!暁』
二階のオフィスで、俺はため息をつく。
(宣伝課の連中、また徹夜で盛り上がってるんだろうな……)
すぐに返事が来ました、返信は全員『オーケー』だった。
よし、行こう。
必要な書類とキーを手に、宣伝課に向かう。
*
宣伝課の前に着いたら、もうみんな揃っていた……そして、当然のように小夜も混じってる。
「おにいー、遅いよ~?みんな待ってたんだから!」
妹が、にやにやしながら近づいてくる。
この顔、絶対からかってるだろ。
「お前、部外者だろ?なんでここにいるんだよ。メイン娯楽室ならいいけど、宣伝課は部外者は立ち入り禁止です」
オレは妹を捕まえて、自分のオフィスで放置するつもりだが
「えー?だってみんなが『小夜ちゃんも一緒にいいよ~』って言ってくれたんだもん!ちゃんと許可がもらえたからよ~」
雪菜が、慌ててフォローに入る。
「お兄さん、みんなで話し合ったんです。小夜ちゃんの同行に同意していますから、大丈夫です」
「そうかなぁ……?」
「おにいにそんなに信用されないの~?このくらいの礼儀アタシ、ちゃんとわかってるって!」
生意気な笑顔がムカつく。
でも、みんながOK出してるなら……仕方ない、オレはこいつを放せた。
「……わかった。なら、みんな、入ろうか」
「「「「「はい!」」」」」
*
宣伝課は、魔物対策局の中でも異彩を放つ部署だ。
魔物との戦闘とは無縁――ただ、魔法少女の「イメージ」を守るためだけに存在する。
黎明期、魔法少女は魔物と同類だと恐れられた。
「この偽物!どこから侵入した!」「娘を返せ!」
街から追放され、隠れて生きるしかなかった時代。
その苦い歴史を、二度と繰り返させないために。
原初の魔法少女たちが、自らの手で作り上げた部署だ。
今では、戦闘記録の映像編集、小説化、漫画化、アニメ化計画……
魔法少女たちは、本物の英雄だからこそ。
もう普通のアイドルを超えた、国民的憧れの存在になっている。
……ただ、最近はちょっと、熱が過ぎるかもしれない。
「天城氏。おお、魔法少女の皆様も揃いましたか!早いですね!私は山田です、気軽に山田って呼んでください!連日の戦闘記録、見ましたよ!あれはもう、華麗すぎる!連続のイレギュラー対応で、アイデアが溢れすぎてて……!次の動画計画、もう白熱した会議が続いてますよ!それにしても皆様、現物の方が何倍も可愛い!ほら、飴ありますよ、食べて食べて!」
酷い疲労が見えるけど、メガネの奥で目がギラギラ光る職員の山田さんが、飴の山の皿を差し出してくる。
徹夜明けのテンションが、完全に壊れている。
「わ、彩音もらうね~」
平常運転の彩音ちゃんは普通に飴を一つ取って、ぱくり。
楽奈は器用で影の尻尾を操って、チョコを一つ取ります。
「ほら、山田さん。落ち着いて。みんなびっくりしてるよ?」
俺が苦笑すると、彼はようやく我に返ったらしい。
ポケットから会議室のキーを取り出す。
「これは失礼しました……連日の徹夜でハイになってました。ファンからの贈り物は、あそこの会議室に全部置いてあります。名札付きで分類してありますから、混ざらないはずです。それじゃ、私はこれで失礼します。」
山田さんは、踵を返して別室へ消えた。
「みんなー!魔法少女様を近距離見ますと、新たな提案が考案された!」
「「ふうーー!!!」」
開いたドアの隙間から、また熱い議論の声が漏れてくる。
「……なんというか、暴風みたいな人ですね」
雪菜が、ぽつりと言った。
まさに、俺が今言いたかった言葉だった。
みんなで顔を見合わせて、思わずくすくすと笑い出した。




