第11話・火と雷の奇襲・三人との休む
第11話・火と雷の奇襲・三人との休む
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いまは午後三時、戦ってみんなは疲れた。
彩音と奏は並んで手を繋ぎ、楽奈は何の遠慮もなくオレの背中に乗っている。
そのまま、帰還。
魔物出現の影響で地下街には人影がなく、途中、ラーメン屋の前に置き忘れていた奏の新しい本を拾い、誰にも見られることなく支部の秘密通路へ入り、休憩室へと続く回廊に辿り着いた。
「さて……どの休憩室で魔力供給する?」
回廊のパネルに、使用可能な休憩室が表示される。
三人が同時に使えて、落ち着けるサイズとなると――中型が妥当だ。
「ねえ、彩音のアトリエはだめ?」
「……あそこ、お前の作品ばっかりだろ。狭いし……それより温泉のほうが――……む、今は使用中か」
「あ、あの……『星降る公園』が、いいな……」
「いいね、じゃあそれで」
「……異議なし」
決定と同時に、オレたちは星降る公園へ入室した。
*
名前の通り、内部は小さな公園のような空間だ。
ただし時間帯は常に夜に固定されており、魔法の夜空を、いくつもの流れ星が静かに横切っていく。
「何度来ても綺麗だな……魔法で、こんな景色を作れるなんて」
「はい!夢みたいで……とても、落ち着きます」
「むー。彩音なら、このくらい絵で再現できるし?」
「はいはい、彩音さんの凄さは十分知ってるから。拗ねるのはやめようね」
「それで?誰が一番、魔力供給?」
「順番だな……」
オレは三人を見回す。
常に元気でテンション高めの陽葵彩音。
静かに景色を眺めつつ、影の尻尾が機嫌良さそうに揺れる影崎楽奈。
両手を胸の前で握り、落ち着かない様子の月見奏。
(危険度で考えると……彩音は遊びでキスを延長しかねない。奏は後回し。……楽奈が一番、安定してる)
「じゃあ……楽奈が先でいいか?」
「えー、彩音じゃないの?」
「わたくしは……暴走した結果ですから……文句、なし……」
楽奈は小さく、しかし確実に“勝った”のドヤ顔をした。
「……勝者」
「うわ、なにその顔」
「むむむ……」
「はいはい。挑発はそこまで。じゃあ、始めよう」
「……了解」
*
公園のベンチに腰掛けると、楽奈は自然な動作でオレの膝に乗り、正面から抱きついてくる。
そして、何の躊躇もなく唇を重ねた。
彼女にとって魔力供給は日常だ。
自力回復ができない以上、今さら恥じる理由もない。
赤い瞳がまっすぐオレを見つめ、小柄な身体が腕の中にすっぽり収まる。
静かなキス。
舌が絡み、呼吸が重なり、魔力がゆっくりと吸い取られていくのが分かる。
必要量が少ないため、疲労は軽い。
(……信頼されてるな)
彼女の安定した呼吸がその証だ。
「……ふっ……魔力供給、ありがとう。もう、いい」
楽奈は自分の回復具合を正確に把握している。
十分と判断した瞬間、すっと離れた。
二人の唇の間に、細い銀色の糸が伸びる。
「もういいの?」
「……うん。回復した。ごちそうさま」
「それは良かった」
まだ甘え続けようとする楽奈を、彩音が軽く押して制止する。
「はーい!次は彩音の番だね!楽しくいこー!」
「……」
楽奈は無言で席を譲った。
*
彩音がベンチに座り、満面の笑みでこちらを見る。
「じゃ、魔力供給しよっか!朝の『おはようのキス』、まだでしょ?ちゅーして~」
「あれはもう昼だろうか……はいはい、失礼します」
軽く唇を重ねる。
先ほどと同じ程度の、軽い疲労。
だが彩音は積極的で、舌を絡めてくる。
ただし暴走するほどではなく、きちんと制御している。
しばらくして供給が終わっても、彩音はなかなか離れようとしない。
オレは彼女の背中を軽く叩いた。
「ぷはっ。ん?どうしたの?」
「もう十分。ほら、後ろ見て。奏が待ってる」
奏は少し離れた位置に立ち、無言でこちらを見ていた。
それだけで圧がある。
距離を取ったブランコに乗った楽奈は『ぼく関係ない』という顔で揺れている。
「あ、ごめん。夢中になりすぎた」
彩音は口元を拭い、軽やかに席を立つ。
*
奏は丁寧にベンチに腰掛けるが、指先が落ち着かず、明らかに緊張している。
「い、いえ……もう大丈夫です。今回は、やめておきます……」
戦闘では果敢なのに、自分のこととなると途端に臆病になる。
(……ここは、オレから行く)
「失礼するよ」
そう告げて、彼女を抱き寄せ、唇を重ねた。
「――っ!?ん……」
連続供給で疲れているオレに対し、魔法少女としての彼女の身体と比べて天と地とのような力の差がある。
混乱はしているが、拒まない。
長い入院期間の末に覚醒した彼女。
回復しても体格は変わらず、その細さが、密着するとより際立つ。
(……守らなきゃな)
意識が遠のきかけた頃、魔力供給は終わったはずだった。
だが――奏は離れない。
(……嫌な既視感)
次の瞬間、オレはベンチに押し倒され、再び唇を塞がれる。
「ちょ、奏……正気に――っ!」
声は届かない。
視界の端では、彩音と楽奈が遊具で遊んでいて、こちらを見ていない。
(……詰んだ。正気が戻るまで、受け入れるしかない)
……
*
「す、すみませんでした!!また……暴走して……!」
ようやく正気に戻った奏が、深く頭を下げる。
「大丈夫だよ。気にしないで」
「よくやったね、奏ちゃん。普段できないこと、ちゃんとできたじゃん?」
「……えらい、そこまでするなんて」
「うぅ……面目ないです……」
奏は完全に顔を赤くして俯く。
「はいはい、お二人やめとけ。奏ちゃん、これ以上恥ずかしがると爆発するから」
オレは手を叩き、皆の注意を集めた。
「これで今回の任務は終了。報酬は事後処理後に振り込まれる。しばらく休養期間だ。解散!」
こんな短期間で小隊全員が任務参加するなんで、出撃可能のはもう一人もないから、しばらく任務は渡さないだろうか。
「「「はい!」」」
それぞれ、星降る公園から出ます。
「彩音はアトリエに戻るねー。じゃあね!」
「……ぼくは、少し散歩」
「そう言えば、オレは見た、メイン娯楽室で新しいデザートがあったな……」
「……やっぱり、メイン娯楽室で用事がある。おさきに」
楽奈はそう言って、影のように消えた。
「わ、わたくしは寮に……布団に潜って、冷静になります……!」
奏は本を抱え、逃げるように走り去る。
全員が去ると、急に静かになった。
「……疲れた」
「連続で異常事件とか……まだ、レポートもあるし……」
重い足取りで、オレは二階の自分のオフィスへ戻っていった。




