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荒川斎場雪の間1・2・3  作者: 土御門惟愛


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6/7

第6話

ドーン! ドンドンドン!!

太鼓の音が、廊下全体に響き渡った。

続いて鈴と木魚が加わり、派手なリズムが一気に加速した。

山田和子が両手を振り上げ、信者たちを煽る。

「さあ、光明の讃歌です! 故人の魂を天に送りましょう〜!!」

佐藤は血の気が完全に引いた顔で式場に戻っていった。

(……本当に鳴らし始めやがった……!隣はヤクザの葬儀だぞ……!)

雪の間2の入り口ではヤクザの一人が眉をひそめ、隣の雪の間3を睨みつけた。

式場内でも数人のヤクザたちが不快な表情を露わにし始めた。

渡部は式場から飛び出し、汗だくで佐藤の元へ駆け寄った。

「佐藤! お前んとこ、すぐに鳴らすのやめさせろ!

こっちはヤクザが10人以上来てんだぞ!

揉めたらやべーよ!」

佐藤は笑顔を貼り付けながらも、声が上ずっていた。

「鳴り物は鳴らさないようにって約束取ったんだけど……

 信者が勝手に……」

雪の間1からは相変わらず金切り声が聞こえている。

ドンドンドン!! ガシャン!!

雪の間3からさらに大きな太鼓と鈴の音が響き、廊下全体が振動した。

斎場職員たちが一斉に事務所から出てきた。

雪の間2のヤクザたちが、明らかに苛立った顔で雪の間3を睨みつける。

「おい、なんだこの騒音……

 葬式の邪魔じゃねえか!」

ヤクザの一人が低く唸るように言った。

渡部は額の汗を拭いながら、小声で叫んだ。

「ヤクザと新興宗教が鉢合わせとか……

マジでありえね~だろ……!」

佐藤は笑顔を貼り付けたまま、動けない。

雪の間1では上原がただ、揉める家族になすすべもなく、無言で天井を仰いでいる。

その時、雪の間3から山田和子の大きな声が飛んだ。

「さあ、もっと大きく! 故人が喜ぶように、盛大に鳴らしてあげましょう〜!!」

ドーン!! ガシャガシャガシャン!!

太鼓と鈴の音が一気に大きくなった。

同時に、雪の間2のヤクザたちが動き始めた。

「おい、あっち、うるせえぞ!」

ヤクザの数人が、ゆっくりと雪の間3の方へ歩き始めた。


17時55分。

ドーン! ドンドンドン!!

太鼓の音が廊下全体に響き渡っていた。

その時、女性スタッフたちが、僧侶を案内しながら式場に戻ってきた。

雪の間3に厳しい顔つきの僧侶・円覚院泰山(58歳)が到着した。

彼は山岳修行まであらゆる修行を経験している筋金入りの密教僧だった。

泰山は雪の間3の入り口で、大音量で鳴り物を鳴らす信者と、それを煽る山田和子を一目見るやいなや、

顔を真っ赤にして一喝した。

「こらぁっ!! 何をやっておるか!!

ここは斎場だぞ!! 鳴り物で近隣に迷惑をかけるなど、

言語道断!! やめんか!!」

泰山の怒鳴り声は、太鼓の音をも圧倒した。

山田和子が一瞬ビクリと肩を震わせたが、

すぐに胸を張って言い返そうとした瞬間——

泰山はさらに一歩踏み出し、

山伏時代に鍛えた低い腹から響く声で怒鳴りつけた。

「ここは死者を送る斎場だーっ!!

他の式場に迷惑をかけるなど、あってはならん!

今すぐやめろ!!」

その迫力に、山田和子も信者たちもたじろいだ。

……ドン……

太鼓の音が、ぴたりと止まった。

続いて鈴と木魚も、気まずそうに音を止めた。

佐藤はほっと胸を撫で下ろした。

(……助かった……泰山先生、ありがとうございます……)

雪の間2のヤクザたちは、音が止まったのを見て、ゆっくりと自分の式場に戻り始めた。

斎場職員たちも、事務所に戻っていく。

渡部は額の汗を拭いながら、小声で呟いた。

「……死ぬかと思った……」

「ご導師のご入堂でございます……。ご一同様、合掌をもってお迎えください……」

雪の間1も、僧侶が到着し、上原が開式の式辞を述べると金切り声は静かになった。

上原はマイクを持ちながら、静かに目を閉じた。

(……長い一日だ……)

しかし荒川斎場は、表面的には静かになったものの、

まだまだ不穏な空気が立ち込めていた。

お読みいただきありがとうございます。


今回はブラックユーモアたっぷりに “葬儀という聖域” でのドタバタコメディーを書いてみました。


全7話の短いお話です。

お付き合いいただけましたら幸いです。


18時頃に毎日投稿したいと思っております。

よろしくお願いいたします。

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