第7話
通夜式が終了した19時前。
雪の間3(佐藤担当)では、光明の道の信者たちが、それぞれ帰り支度を始めていた。
山田和子も僧侶に怒鳴られ、苦々しい表情を浮かべながらも、信者たちをまとめて帰り支度をしている。
佐藤はようやく肩の力を抜いた。
「はあ……終わった……」
(……なんとか……済んだ……)
雪の間2でも参列者のヤクザたちは2階の通夜振る舞いの席に移動し、渡部と女性スタッフの吉岡佳苗が一息ついていた。
(揉め事が起きなきゃ、ヤクザも何とか職員にバレずにごまかせるだろう……)
一方、雪の間1(上原担当)では、再び修羅場が始まっていた。
後妻側と長女夫婦の怒鳴り声が、扉越しに廊下まで再び響き始めた。
「出て行け! お前らに顔を出される筋合いはないわよ!」
「血のつながった娘が、父親の通夜に出られないなんて、誰が決めたんだ!」
金切り声と罵声が飛び交う中、上原は無言で立っていた。
表情は一切変わらないが、額にうっすらと汗が浮かんでいる。
渡部は仕方なく上原の援護をしようと、佳苗に「何かあったらすぐに知らせに来るように」と言い残して、雪の間1へと向かった。
渡部が仲裁に入ろうと近づいた瞬間——
後妻が興奮のあまり手を振り上げ、
渡部の頰をバシッ! と叩いた。
渡部はその勢いで後ろに押され、足がもつれてよろけた。
その拍子に——
棺台の角に足を引っかけた。
ガタンッ!!
棺台が倒れ棺が大きく傾き、
故人が棺の中から投げ出された。
一瞬で雪の間1が静まり返った。
渡部は床に尻餅をついたまま、
横で床に横たわる故人を見て、顔面蒼白になった。
「……うそ……だろ……」
その瞬間、佳苗が血相を変えて飛び込んできた。
「渡部さん!!
ヤクザたちが……彫り師のオヤジへの花向けだって、棺の周りで入れ墨を出して写真を撮ってます!
もうすぐ閉館だから閉館の案内に職員が来ます!」
渡部は床に座ったまま、絶望の表情で天井を仰いだが、慌ててすぐに立ち上がり、雪の間2へと駆け戻った。
入り口で、閉館案内に来た斎場職員が、顔面を強張らせて中を眺めている。
中では、ヤクザの男たちが上半身裸になり、背中や胸、腕に彫られた龍や牡丹の入れ墨を堂々と晒しながら、棺の周りで記念写真を撮っていた。
フラッシュが何度も光る。
渡部は言葉を失った。
(……マジかよ……
ここで上半身裸で入れ墨大会とか……
勘弁してくれ……)
「……今日で……本当に……落合葬儀社、終わりだ……」
佳苗がとっさに前に出て、必死で笑顔を作りながら職員に説明した。
「あの……この方たちは、故人と生前とても仲が良かった祭り好きの仲間なんです!
神輿を一緒に担いでた人たちで……祭りの人です!祭りの人!反社の人たちではありません!」
職員は不審げに眉を寄せながらも、
「…………そうですか……。
まもなく閉館時間ですので、そろそろ……」
そう言い残し、職員は次の式場へ向かって歩き出した。
佳苗は職員の背中が見えなくなるまで笑顔を貼り付け、
職員が隣の雪の間1に入った瞬間、膝から崩れ落ちた。
渡部もその場に腰を抜かして座り込んだ。
荒川斎場全体に、閉館を告げるアナウンスが流れた。
閉館時間の21時が迫り、ヤクザたちも帰っていった。
渡部と佐藤は最後に喪主を見送り、式場の前で顔を合わせた。
「……マジで死ぬかと思ったよ……
棺はひっくり返るわ、ヤクザは上半身裸で入れ墨出すわ……
今日で落合葬儀社、終わりかと思ったよ……」
「……生き延びた……
なんとか……なった……」
上原も葬家を見送り、無言で戻ってきた。
3人はそれぞれようやく肩の力を抜いた。
渡部が天井を仰ぎながら小さく呟いた。
「……明日、まだ告別式があるんだけどな……」
佐藤が苦笑しながら呟いた。
「まあまあ……なんとかなるよ……
……多分……」
上原は無言で、ただ一言だけ。
「……長い一日だった」
荒川斎場は、閉館の灯りが落ちていく中、
3人の長い一日はようやく終ろうとしていた。
――終わり――
『荒川斎場雪の間1・2・3』をお読みいただき、本当にありがとうございました。
初めてコメディーに挑戦してみました。
いかがでしたでしょうか?
この物語を最後までお読みくださった皆様に、心より感謝申し上げます。
また、新たな物語でお会いできるのを楽しみにしています。
本当にありがとうございました。
ご感想等、いただければ幸いです。




