第4話
通夜前日の夜、20時半。
新宿区落合の路地裏にある、落合葬儀社の社員がよく利用する安い居酒屋「やきとり たかや」
カウンターの端に3人の男が並んで座っていた。
左から順に——
渡部健一
汗を拭きながらジョッキを傾け、すでに3杯目。
佐藤修二
穏やかな笑顔で枝豆をつまみながら、表面上はのんびりしている。
上原順平
無言でビールをちびちび飲み、ほとんど口を開かない。
渡部が先に口火を切った。
「……今日もまいったよ~
うちの会社、なんで毎日こんな案件ばっかり回ってくるんだろな……」
佐藤が柔らかく笑って答える。
「まあまあ……なんとかなるよ〜。
……ただ、明日ばかりはね……。
ヤバい案件が入っちゃってねぇ……
光明の道って知ってる? あの、ガンガン太鼓叩くやつ……。
故人が信者でね……。夫の喪主は仏式で荒川斎場でやるって聞かないんだよ……」
渡部がジョッキを置いて顔をしかめた。
「は? お前も明日荒川かよ……
俺なんか、彫り師の葬儀でヤクザが大量に来るかもしれないんだけど……
高橋(上司)に『東都系は阻止しろ!』って怒鳴られたけど……、阻止なんかできるわけね~じゃん!」
佐藤が目を丸くする。
「そうだよな〜……
こっちも喪主が『絶対に信者は来させない』って言うから……
でも信者って突然来るだろ?」
2人が同時にため息をついた。
上原だけが無言でビールを一口飲む。
渡部がチラッと上原を見て、軽く肘で突いた。
「おい、上原。お前はどうなんだよ?」
上原はジョッキをゆっくり置いて、低い声で一言だけ。
「……遺産争いだ」
それだけ言って、再び黙ってビールを飲む。
渡部と佐藤が同時に上原を見た。
「……は?」
「……え〜?」
上原は天井を仰いで小さく息を吐いた。
「……後妻と連れ子の次女が、
故人の実の娘の長女を絶縁状態にして、父親の死さえ知らせてなかったんだ。
昨日長女の夫から電話が来て……
『血のつながった娘としてその葬儀は認められない』って……」
店内に少しの間、沈黙が落ちた。
「それで?斎場どこなんだよ?」
「……荒川」
渡部が頭を抱える。
「……おいおい……
俺はヤクザ、佐藤は新興宗教、お前は遺産争い……
落合葬儀社、荒川で三重苦じゃね~か~……。式場は?」
佐藤「雪3」
上原「雪1」
渡部「俺、雪2だぜ~、隣どうしで、しかもうち真ん中に挟めれてるじゃ~ん……」
佐藤が苦笑しながらジョッキを掲げた。
「まあまあ……なんとかなるよ……
……多分……」
上原は無言で自分のジョッキを軽く上げ、
ただ一言だけ呟いた。
「……長い一日になりそうだ」
お読みいただきありがとうございます。
今回はブラックユーモアたっぷりに “葬儀という聖域” でのドタバタコメディーを書いてみました。
いよいよ修羅場と化す通夜の日が近づいてきました。
全7話の短いお話です。
お付き合いいただけましたら幸いです。
18時頃に毎日投稿したいと思っております。
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