第2話
渡部は渋々寝台車の手配をし、打ち合わせを始めた。
「では、まずは菩提寺はございますか?」
渡部は事務的な口調を保ちながら尋ねた。
「いえ……菩提寺はありません。父は生前、そういうものを嫌ってましたので」
祐一郎は少し寂しげに答えた。
(坊主が絡んでくると余計に面倒くさいから、ここはいいな……)
ではご導師はこちらで手配ということでよろしいですか?宗派はございますか?
「お経さえ唱えてもらえたら、どの宗派でも大丈夫です」
渡部は心の中でため息をつきながら、次の質問に移った。
「では、安置施設の確保から進めましょう。荒川斎場でよろしいですね?」
「はい、お願いします」
渡部はスマホを取り出し、荒川斎場の安置施設を押さえた。
指が少し震えているのが自分でもわかった。
「本日は……火曜日ですね。通夜はいつ頃されますか?
間、5日くらいみてもらえれば火葬炉も取れると思います」
「では、土曜日通夜、日曜日告別式でお願いします」
(土曜日……東都葬祭の荒川斎場、マジかよ……Xデーだよ……)
渡部は内心で冷や汗を流しながら、素早く予約を入れる。
斎場と火葬炉の空きを確認し、なんとか確保した。
「安置施設と斎場、火葬炉は確保できました。後はご自宅でうかがいますので。ゆっくりと……」
祐一郎に軽く頭を下げ、渡部は霊安室の外へ出た。
廊下の端でスマホを握りしめ、会社に報告の電話を入れる。
コール音が二回鳴っただけで、高橋の声が飛び出した。
「渡部! どうだ、受注取れたか!?」
「……はい。取れました」
渡部は声を低く抑えながら答えた。
「よし! で、斎場はどこだ?」
「それが……荒川斎場で……」
一瞬の沈黙の後、電話の向こうで高橋の声が爆発した。
「バカヤロー!! 東都系は阻止しろって言っただろー! 何年葬儀屋やってんだ、お前は!!」
高橋の怒鳴り声が耳に突き刺さる。
渡部は壁に寄りかかり、冷たいタイルに額をくっつけた。
「すみません……でも、息子さんがどうしても荒川斎場がいいって……」
「どうしても、じゃねえよ! ヤクザ関係の匂いがする案件を東都系に持ってくんじゃねえよ! 取引停止になったらどうすんだよ、お前!」
(……わかってるよ、そんなこと……、取れって言ったのアンタだろ……)
渡部は目を閉じ、胃がキリキリと痛むのを感じながら、なんとか声を絞り出した。
「近親者のみでやりますし、故人は引退して20年経ってるそうですから……大丈夫だと思います」
「思いますじゃねえよ!……ったく、しょうがねえ。何かあったら、お前が全部責任取れよ!」
電話が切れた。
渡部はスマホを握り、壁に額を押しつけたまま動けなかった。
(……どうなるんだ……)
外では、夕暮れがゆっくりと深まっていた。
お読みいただきありがとうございます。
今回はブラックユーモアたっぷりに “葬儀という聖域” でのドタバタコメディーを書いてみました。
全7話の短いお話です。
お付き合いいただけましたら幸いです。
第3話以降は明日から18時頃に毎日投稿したいと思っております。
よろしくお願いいたします。




