表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/16

拾 天知らぬ雨上がり

本日もよろしくお願いします。


腐臭が琴葉の鼻を突く。

動かなくてはいけないと、本能が言う。


「蒼、葉、帰って、て…… 」


隣の気配が動く。

道にぽたぽた、後悔が溢されていく。

孤影が奥に消えていく。


「これ、で、良かっ、た。こ、れで、良かった、んだよ、ね…… ?」


蒼葉だけは必ず守る、必ず幸せにする。

それが、琴葉の今の全てで、使命、だ。


無造作に、服の切れ端を持ち上げる。手の先が朱に染まっていく。

何か使える物はないかと、 紅色の海の中を(ため)(すが)めつする。

銭も一つ残らず集める。

一つずつ。


そして、見つけた。


ぽっきりと折れた葉捕り網が、数多の骨の近くに、ぽつんと置いてあった。


「…… う、そ」


その葉の葉脈は、雄黄(ゆうおう)色に光っていた。


手に持つ者に恐れを抱かせる、絶対的な強者の輝き、だった。


―― 竜。


隣に、火の葉怪まで光っている。


何故。


使った、はず、なのに。


琴葉の頭の中に、一気に思考が流れ込んだ。


葉怪は燃えないのか。

いや、徒世がそれを知ら なかったわけではあるまい。

火は、自分を説得するためだけの物だったのか。


最初から、竜を捕るために。


確かに、聞こえたのは「竜」という声。「火」は一切聞こえなかった。


竜の口内が紅かっただけで、徒世は、燃えてはいなかった。


―― あの人は、徒世は、こんな私に竜を残したのか。


琴葉は、心から困った。


たった少し、時間を共にしただけの姉妹に、命を賭けられる人に。


―― これじゃ、忘れられないじゃないか。


琴葉は、少し笑って。


竜と火の葉怪を恐々と手に取って、刀の葉怪の隣に挿した。


「凹、凸」


そして全てを、土に埋めた。


合掌。


琴葉は、駆けだした。


復興しよう。


守ろう。


自分に、まだ守れる物があるのなら。


最後までやろう。


―― 私の使命は、皆を守ることだから。


― ― ―

「姉さん、大丈夫かな」

「大丈夫よ、きっと…… 」

「琴葉と蒼葉なら、何だってできるさ」

自分の力が、役に立ちますように。そう、少女は願った。

― ― ―


自慢の足で琴葉は走った。


森を抜け、街道沿いを走っていく。


道端、お地蔵さんの前に座り込んでいる蒼葉を見つけた。


「蒼、葉」

「…… お姉ちゃん」


俯いたまま、蒼葉は答えた。声音には悲壮感が滲んでいた。


「森に、戻ろ、う。早く、江戸に、行こう」


蒼葉の手を強引に引っ張って、琴葉は元いた森へ走る。


「な、何?」


姉に引っ張られるがまま、二人は、さっき戦っていた場所に急いだ。


森は、打って変わって静けさに包まれていた。


琴葉は、深呼吸して、その名を呼んだ。


「竜」


葉が光る。見る人を焼くような、強い光。


人柱を持ってして生まれた、恐ろしいぐらいに強 い光。


金。


葉の周囲を舞っていく。


光がより一層強くなり、琴葉は思わず手から竜を放した。


瞼の裏に、中途半端な形の竜の残像が残っている。


しばらくして、光が弱まるのを感じ、二人は目を開けた。


そこにはあの竜がいた。


琴葉を四つ並べた程度の大きさで、宙に佇んでいた。


「……ぐぅ」と、誕生した喜びを、咆哮で表そうと大きく口を開けたため、 二人は慌てて人差し指を口に当てた。


「…… お姉ちゃん…… あったの? これ…… 」

「うん。行こう。今すぐ、に」


蒼葉は、竜をしばし見つめると、ふぅと一息吐いた。


全てを、今は忘れることにした。


涙でひりひりと痛い目元。


きっと、姉から見たら、自分は酷い顔をしている。


やめよう。


切り替えようと、蒼葉は思った。拙いなりに、必死に。


「竜さん、角、握ってもいい?」


少し前までは憎むべき敵だったというのに、今はこの竜が一番心強い仲間だ。


仇は存在しない。


全く、葉怪とはどこまで神の産物で、憎むことができないのだろうか。


竜は小さめの咆哮で答えた。

可否は分からなかった。


「はいだったら叫んで。いいえだったら、叫ばないでね」


そう蒼葉が言うと、返ってきたのは鳴き声。


二人は二つある角をしっかりと掴んで、騎乗した。


竜の皮膚は硬くて冷たかった。座り心地も良くはない。


滑って落ちるかもしれない。

そう考え、琴葉は風呂敷や手ぬぐいを、二つの角にそれぞれ縛って手綱にする。

背後に蒼葉を座らせ、 しっかりと自分の腰を持つよう言った。


「お姉ちゃん、この荷物吹っ飛ばないよね?」

「心配だった、ら、私が、持っとく、けど…… 」

「いや、大丈夫。自分で持つ!」


何度かこんな会話を繰り返して、安全確認をした。


後ろを振り返ると、細長く、どんどん短くなっていく尾があった。


竜に乗っている。熱のときに見る、悪い夢みたいだ。


喜ぶべきだ。早く行ける分、守れる命もまた増える。


それが、自分たちなりの、仇の討ち方なのだから。


「高く、飛んで。江戸、近くの、森、へ」


大きな咆哮が森を揺らした。


そして、竜は勢いよく空に昇る。


戦いのときの、地面に垂直になる飛び方ではない。

何も言わずとも使役者を案じていることは伝わってくる。

それだけ知能が神に近い生き物、否、妖なのだろう。

葉怪は、竜は。


「お姉ちゃん、大丈夫?」と、琴葉に聞く蒼葉の方が、今すぐにでも酔いそうだった。


それほどの、掴まるだけでやっとの揺れが二人を襲った。


徐々に遠くなっていく森。


宿場町の方では、ぽかんと大きな口を開けているだろう人々が、自分たちの方を指して立ち尽くしているようだ。もうその表情すら見えないので、判断しようもないが。


「もっと、速、く」


あの戦いの最中でも、手紙はずっと、巾着袋の中に在り続けている。


― ― ―

零葉(れいよう)とは、元の書物から、切り離された部分のことを言うらしい。

それを知ったとき、腑に落ちた。この子の名前は、零葉にしようと。

自分の代わりとして。自分の一切れとして。言葉でできた少女を作った。


「零葉。見つけ、て。草葉(くさば)(くさば)の(ひかり)、草葉師、の、組織、を…… 」


もうすぐで、撒いた種は萌え出すだろう。

誤字脱字報告ありがとうございます。

否定的なコメントはやめてくださると幸いです。


これにて第一章は終了となります。

これからは、毎週木曜の19時投稿となります。

(もうすでに完成した原稿をなろうに上げるだけなので、要望あれば日数増やせます。感想欄にてお気軽にどうぞ)


次回、ついに江戸へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ