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元トラック運転手の俺、ダンジョン宅配を始めたら攻略クランが俺なしで潜れなくなった  作者: ヲワ・おわり


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第17話 やり直し七往復。あと何回、と数えながら歩く

 二体目が出た翌日、俺は第十三層の区間を、最初からやり直すことにした。


  *


「やり直すって、何を」


 第七層で、桑田さんが聞いた。


「道をです」


「道は、あるでしょ。そこに」


 桑田さんが足元を指した。


「歩ける道なら、あります」


「じゃあ何が足りないの」


「静かさです」


 桑田さんが眉を寄せた。


「あのさ。あんたの言ってること、半分わかんないんだけど」


「はい」


「でも、水は時間どおり来るんだよな」


「来ます」


「じゃあいいや」


 桑田さんは水のケースを抱えて、奥へ行った。


 誰も信じていない。


 信じていなくても、荷は届く。それでいいと思っている。


  *


 やり直しは、七往復だ。


 第十三層の、崩れた区間だけ。長さにして四百メートルほど。


 一日一回、同じ時刻に、同じところを通る。


  *


 一日目。


 埃が立っている。湧きが三回。


 二日目。


 埃が立っている。湧きが二回。


 三日目。


 埃が立っている。湧きが二回。


  *


 三日目の帰り、鵜飼さんに会った。


「どう?」


「三回目です」


「何が変わった」


「湧きが、三から二になりました」


「それ、誤差じゃないの」


「誤差かもしれません」


「ふうん」


 鵜飼さんは腕を組んで、通路の先を見た。


「あたしも歩いてみた」


「どこをですか」


「あんたの道。九層から十六層」


「どうでしたか」


 鵜飼さんが、通路の先から目を離さずに言った。


「静かだった」


 鵜飼さんは、そう言って舌打ちした。


「意味わかんない。あたしが歩いても静かなんだけど」


「はい」


「あんたが歩いてるから静かなんじゃないの?」


「違うと思います」


「じゃあ何」


「道が静かなので、誰が歩いても静かです」


 鵜飼さんの目が、少し開いた。


「誰が歩いても?」


「はい」


「あんた以外でも」


「はい」


「それ、先に言えよ!」


 鵜飼さんが台車を蹴った。


「痛くないです」


「痛くしてない!」


  *


 四日目。


 埃が、寝はじめた。


 まだ全部ではない。道の中心の、三十センチくらいだけだ。


 湧きは、一回。


  *


 五日目。


 寝ている部分が、一メートルくらいに広がった。


 湧きは、ゼロ。


  *


 六日目。


 俺は歩きながら、足元を見ていた。


 埃が、行きと帰りで同じ方向に倒れている。


 朝、俺が押した方向。


  *


 七日目。


 第十三層の区間に入った瞬間に、分かった。


 空気が違う。


 埃が舞っていない。音が、遠くまで通る。


 俺は立ち止まって、ライトを壁に向けた。


 水滴が、壁にまっすぐ並んでついている。誰にも乱されずに、落ちるべきところへ落ちている。


 戻った。


  *


 この七日間、数えながら歩いた。


 あと六回。あと五回。あと四回。


 二十年、こういう数え方をしたことがある。


 年末の繁忙期だ。三十一日まであと何便、と数える。数えながら走ると、不思議と身体が持つ。


 数えられるものは、終わる。


 終わると分かっているものは、耐えられる。


  *


 七往復。


 浅い層と同じ回数だった。


 俺は歩きながら、頭の中でもう一度計算した。


 第十三層は深い。深いほど回数が要るはずだ。


 なのに、七回で戻った。


 理由は、一つしか思いつかない。


 ――完全に消えていたわけではなかった。


 十二分の遅れで崩れたのは、表面だけだ。下のほうには、二か月ぶんの通行が残っていた。


  *


 その日の夜、模造紙に書き足した。


 ・一度作った道は、崩れても完全には消えない。

 ・三日で消えるのは、表面。

 ・やり直しは、ゼロからより早い。


 書いてから、鉛筆を止めた。


 もう一行、書いた。


 ・ただし、一度も通っていない区間は、ゼロから。


  *


 第二十一層への延伸は、この七日間、止まっていた。


 十五往復のうち、九往復で止まったままだ。


 九往復ぶんは、消えたのか。


 確かめに行くしかない。


  *


「鵜飼さん」


 翌朝、第十六層で俺は言った。


「二十一層、あと何日待てますか」


「なんで」


「七日、止めました」


 鵜飼さんが、指を折った。


「九往復してたんでしょ。七日止めて、消えた?」


「わかりません」


「わかんないの」


「今日、確かめます」


「じゃあ今日わかるじゃん」


「はい」


 鵜飼さんは、少し黙った。


「あのさ」


「はい」


「あんた、毎回そうやって、やってみないと分かんないことやってるわけ」


「はい」


「誰も教えてくれないの」


「教えられる人が、いないので」


  *


 その朝、第五層で新人四人組に水を渡した。


「おはようございます」


「おっす! 今日もちょうどっすね!」


「六時ちょうどです」


「ってか聞いたんすけど、十三層やばかったらしいじゃないすか」


「出ました」


「うわ、マジっすか。大丈夫でした?」


「大丈夫でした」


 四人のうち一人が、遠慮がちに手を挙げた。


「あの、俺ら、十層まで行けるようになったんすけど」


「はい」


「新藤さんの道、使わせてもらっていいすか」


 俺は台車のベルトを締める手を止めた。


「どうぞ」


「え、いいんすか」


「道なので」


「いや、金とか」


「取りません」


「なんで!?」


 四人が顔を見合わせた。


「あんた、それで商売になるんすか」


「荷を運んだぶんは、頂いてます」


「道は?」


「道は、踏んだだけなので」


  *


 その日、俺は第二十一層への道を歩いた。


 九往復ぶんの道。七日間、誰も通っていない道。


 埃は、立っていた。


 湧きは、四回あった。


 やり直しだ。


  *


 その夜、長野に電話をかけた。


 こちらからかけるのは、初めてだった。


『え、新藤さん? どうしたんすか』


「長野さん」


『はい』


「潜りましたか」


『先週から。三層までっす』


「どうでしたか」


 少し間が空いた。


『こわいっす』


「はい」


『あの、正直に言っていいすか』


「どうぞ」


『新藤さんが九層に台車で行ってるって、俺、意味わかってなかったです』


「はい」


『三層で、もう膝が笑いました』


「笑います」


『新藤さんも?』


「初日は、笑いました」


『今は?』


「今日、笑いました」


『今日も!?』


「十三層で、二体出たので」


 電話の向こうで、長野が息を呑んだ。


  *


 地上に上がって、田淵さんに報告した。


「消えてました」


「そうか」


「九往復、消えました」


「また一からか」


「一からです」


 田淵さんが湯呑を置いた。


「なあ、新藤さん」


「はい」


「こういうの、何て言うんやろな」


「何とは」


「毎日通わんと消える道や。名前がないと、不便やろ」


 俺は少し考えた。


 二十年、道に名前をつけたことはない。国道何号、県道何号。誰かがつけた番号を使うだけだった。


「馴らし、でどうでしょう」


「ならし」


「牛や馬を馴らすのと、同じなので」


 田淵さんが、湯呑を持ち上げて笑った。


「あんた、迷宮を牛やと思うとるんか」


「はい」


「はいかい」


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