↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元トラック運転手の俺、ダンジョン宅配を始めたら攻略クランが俺なしで潜れなくなった  作者: ヲワ・おわり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/22

第14話 紙に時刻を書き出したら、一本はみ出した

『二十一層。できる?』


 電話の向こうで、鵜飼さんが単刀直入に言った。


「十六層まで、昨日できたところです」


『知ってる。だから言ってる』


「二十一層は、また十五往復です」


『ひと月?』


「ひと月です」


 息を吸う音が、受話器越しに聞こえた。


『ひと月、待てない』


 声の調子が、昨日までと違った。


「何かありましたか」


『三十四層で止まってんの、うち』


「はい」


『三年。五年やって、三十四層で三年止まってる』


「補給ですか」


『そう。担げる量で日数が決まって、日数で行ける深さが決まる』


 鵜飼さんが息を吸った。


『あんたが二十一層まで来れたら、うちは二十六層まで行ける。たぶん』


「たぶん、ですか」


『やってみないと分からない。誰もやったことないから』


  *


 俺は電話を持ったまま、部屋の壁を見た。


 紙が、五枚貼ってある。


 第五層。第七層。第九層。第十六層。そして今、六枚目の話をしている。


「一つ、伺います」


『何』


「オルカさんは、いつ潜りますか」


『は?』


「毎日ですか。それとも、週に何日ですか」


『週四。月火木金』


「時刻は」


『朝。六時か七時』


「六時か七時、だと幅があります」


『そこまで決めてないよ、ふつう』


「はい」


 俺は紙に書いた。


 オルカ・月火木金・六時か七時。


『それ、なんの意味があんの』


「こちらが合わせるので」


 電話の向こうが、少し静かになった。


『合わせるって、あんたの都合は』


「俺の都合は、時刻を決めることだけです」


  *


 その夜、俺は紙を全部剥がして、一枚の大きな紙に書き直した。


 模造紙を買ってきた。百二十円だった。


 縦に線を引いて、時刻の目盛りを入れる。三時半から十時半まで、十分刻み。


 横に、系統を並べた。


 第五層。第七層。第九層。第十六層。第二十一層。


 五本。


  *


 まず、所要時間を書き入れた。


 第一層から第五層まで、四十分。第七層まで、さらに二十五分。第九層まで、四十分。


 第十層から第十六層は、降り口が三つある。担ぐ時間を含めて、一時間十分。


 第十六層から第二十一層は、まだ通っていない。地図から推定して、五十分。


 合計を出す。


 往路だけで、三時間三十五分。


 復路は、下りが上りに変わる。荷がない分は軽いが、疲労がある。差し引きで、ほぼ同じ。


 三時間三十五分を、二倍する。


 七時間十分。


  *


 俺は鉛筆を置いた。


 公社の入場は六時。退場の門限は十八時だ。守ろうと思えば、十二時間ある。


 七時間十分なら、入る。


 ただし、それは一本道を往復する場合だ。


 実際には、第五層で枝に入り、第七層で枝に入り、第九層で本道を外れ、第十六層へ降り、第二十一層まで行く。


 枝に入るたびに、戻る。


 俺は枝の分を足した。


 九時間四十分。


  *


 もう一つ、足りないものがあった。


 荷積みと、荷降ろしだ。


 一件につき、十五分から二十分。五件で、一時間半。


 十一時間十分。


 そこに、区間ごとの余裕十分を足す。区間は十二ある。


 十三時間十分。


 門限が、十二時間。


  *


 一時間十分、はみ出した。


 俺は模造紙を見下ろして、しばらく動かなかった。


 三十分早く起きても、入場が六時なら意味がない。門限は延びない。


 選択肢は三つだ。


 一つ、どれかを断る。


 二つ、余裕を削る。


 三つ、第二十一層を諦める。


  *


 余裕を削るのは、やってはいけない。


 余裕がないと、一つ遅れたときに全部が遅れる。二十年、それで潰れた運行表を何本も見てきた。


 余裕を削って回した会社は、最後に事故を起こす。


 断るのが、正しい。


  *


 俺は模造紙の前に座ったまま、鉛筆の尻で机を叩いていた。


 どれを断るか。


 第五層は、新人の四人組。運賃は一番安い。


 第七層は、桑田さん。最初に名指しで頼んできた人だ。


 第九層は、田淵さん。月一回、線香一本、三千円。


 第十六層は、一ノ瀬さんの薬。


 第二十一層は、まだ受けていない。


  *


 断るなら、第二十一層だ。


 まだ受けていない。断っても、誰も困らない。


 そう思って、鉛筆を持ち直した。


 そして、もう一度、数字を見た。


 九時間四十分。


 この数字の中で、一番大きいのは移動時間だ。荷積みでも荷降ろしでもない。


 移動時間は、距離では決まらない。


 速度で決まる。


  *


 俺は別の紙を出して、計算をやり直した。


 第一層から第五層まで、四十分。これは初日の数字ではない。今の数字だ。


 初日は、一時間十分かかっていた。


 道ができたから、四十分になった。


 では、十五往復したあとの第二十一層は、何分になるのか。


 地図から推定した五十分は、道ができる前の数字だ。


  *


 鉛筆で、五十分を消した。


 代わりに、三十五分と書いた。


 もう一度、合計を出す。


 十二時間四十分。


 まだ、四十分はみ出していた。


  *


 俺は模造紙を丸めて、押し入れにしまった。


 それから、新しい紙を出して、一行だけ書いた。


 ・入場を早める方法を調べる。


 公社の門限は、誰が決めたのか。


 規則だとしたら、条文がある。


 条文があるなら、読める。


  *


 その足で、鉄工所に寄った。


 四時二十分。今日はシャッターが開いていた。


「またあんたか」


「おはようございます」


「今日は何だ」


「台車を、軽くできませんか」


 千代さんが手を止めた。


「重さか」


「はい」


「何キロ削りたい」


「三キロです」


「三キロ削って、何が変わる」


「一日で、十二分です」


 千代さんが眉を寄せた。


「……十二分?」


「台車が三キロ軽くなると、坂で押す力が減ります。一区間あたり一分。十二区間で十二分です」


「あんた、それ計ったのか」


「計りました」


 千代さんは台車を持ち上げて、底を見た。それから車輪を回した。


「無理だ」


「はい」


「削れるのは、あと一キロ。それ以上削ると、荷を載せたとき歪む」


「一キロだと、四分です」


「四分で足りるのか」


「足りません」


「じゃあ削る意味ねえだろ」


「四分は、四分です」


 千代さんは、俺の顔をしばらく見ていた。


「……あんた、今なんか変な顔してるぞ」


「そうですか」


「焦ってるだろ」


「焦ってません」


「焦ってる」


  *


 翌朝、六時。


 窓口で、真木さんに訊いた。


「入場開始は、六時ですね」


「そうです」


「これは、何で決まっていますか」


 真木さんが、手を止めた。


「どういう意味ですか」


「条文で決まっているのか、運用で決まっているのかを、伺っています」


 真木さんは、しばらく俺を見ていた。


 それから、引き出しから規則集を出した。


 分厚い。相変わらず、付箋は一枚も貼られていない。


「新藤さん」


「はい」


「あなた、何をするつもりですか」


「五本、回します」


「五本」


「今は四本です。明日から、五本にします」


 真木さんが、規則集を開いた手を止めた。


「時間が、足りないのでは」


「足りません」


「では、どうするんですか」


「だから、伺っています」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。