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ep.2-23 揉みくちゃ

 

 パキラは大きな音を立てて机に突っ伏した。

 周りの者達がそれに驚き大きく肩を跳ねさせると、彼は長く深い溜息を吐き出した。


「……あ、アニキ……すげぇ音したけど……大丈夫か……?」


「卑怯だ……」


 パキラはぽつりと呟くと、再び顔を上げた。


 相変わらず勇者と呼ぶには凶悪な顔――しかし、先程まで下がっていた口端は上を向いてた。


「嬢ちゃん、なかなか言うようになったな」


「あんたは少し口数が減ったわね」


 オリビアがふっと笑みを溢すと、パキラはシオンの方に視線を移した。



「……そうは言ってもこれは簡単な話じゃない。兵士やヴァイスの人間は、あんたらが悪で、女神が善だと信じてる。女神が復活するまでは表立って協力する事はできない」


「分かっている。じゃが、2ヶ月……神が復活するその時まで、なんとか時間を稼いでもらいたい。その後は――」


「ちょっと待ってくれ‼︎アニキはこいつらの言う事信じるのか⁉︎」


「なぜ急に‼︎」


 シネラリアとジェンシャンが声を上げると、パキラは椅子に凭れ掛かって仲間達の方を向いた。

 彼らはパキラの判断に、不安を抱いているようだった。


「こいつらを信じたわけじゃねぇ。俺様の勘を信じる事にしただけだ。俺様の勘が外れた事あるか?」


「女性が絡むと外れてばっかりですな」


 視線がオリビアに向くと、パキラは口をへの字に曲げて仲間達を睨み付けた。


「お前ら失礼だな‼︎」


「失礼ってったって……なぁ?」


「ホントのことだし……」


 机をバンバンと叩いてパキラは不満を口にしたが、仲間達はお構いなしだ。

 パキラは協力する事を決めたようだが、仲間達はそうではない――彼らの説得はパキラに任せるべきかとオリビアがシオンの方を向くと、シオンは懐から誓約書を取り出した。


「青髪の勇者の説得がうまくいかなかった時に備えて用意したものじゃ」


「シオン‼︎」


 誓約書の事はキャットも把握していなかったようで、珍しく彼は声を荒げた。

 内容は創造神に関する話に嘘偽りがあれば命を差し出すというものだった。


「嘘偽りはない。何も問題ないじゃろ」


「だからって‼︎」


 キャットがシオンの肩を掴んで怒鳴りつける姿にオリビアが慌てて止めに入ると、ビンカが誓約書を手に取り破り捨てた。


「必要ねぇよ」


「ビンカ……」


「俺はアニキについていく、その先が破滅でもな。それに、カクタスや黒髪がそっち側についた時点で、いくらヴァイスの人間がいたって敵うわけねぇよ」


 ビンカはちらりとカクタスを見ると、静かに目を伏せ溜息を吐き出した。


「……誓約魔法は必要ない――が、今の話が嘘だった時、俺はエルフを殺すからな」


「なっ……なんでオリビアなんじゃ‼︎」


「選択させたのがこいつだからだ」


 ビンカはオリビアを睨み付けた。


「構わないわ」


 オリビアはその目を真っ直ぐ見つめながら頷いた。

 戸惑いなく頷く彼女に、ビンカ以外の仲間達は顔を見合わせて肩を竦ませた。


「……確かにアニキまで協力するってんなら……俺達でなんとかできる話じゃねぇし……」


「そしたら神からの報酬はどうなるんだ?」


「ジニアお前……」


「報酬は僕が払おう。多少の無茶も聞いてやる」


「黒髪みたいにモテモテにしてもらう事は⁉︎」


 その言葉にパキラは目を輝かせて机に乗り出しながらシオンに問いかけた。

 ――そういえばこいつはこんなやつだった。


 その場にいた者達が呆れた視線を向けると、シオンは深刻そうに目を伏せて首を振った。


「…………それはできん。せっかく救った世界が崩壊する」


「ほ、崩壊……⁉︎」


「良く分かってんな……少しは信用できそうだ」


 仲間達は思わず笑みを溢し、武器を収めて頷いた。


「あんたの話はまだ半信半疑だけど……アニキの決定に従うよ」


「……誓約書まで持って来られてはなぁ」


「はぁ……まったく頭が痛い……」


「報酬がもらえるなら構わん」


 彼らの返答にシオンはホッと胸を撫で下ろす。

 そしてそんなシオンをキャットは叩いた。誓約書の件にまだ腹を立てている様子だった。


「何するんじゃお前‼︎」

「勝手な事するからだろ‼︎クソジジイ‼︎」

「ちょっと‼︎こんな時にまでやめなさいよ‼︎」


 叩き合う2人をオリビアが間に入って止めると、ライラックは大口を開けて笑い、ナスタチウムは煙草の煙を吐いてやれやれと肩を竦ませた。

 オリーはまだ怖いのか、オリビアの側にくっ付いてキョロキョロと辺りの者達を見ていた。


「ねぇ、その人……パルマエの勇者?」


 カランコエの声にオリビアがそちらを向くと、一瞬だけカクタスと目が合った。

 すぐに逸らされてしまった視線に、オリビアは少しだけ安堵してしまった。


「おっ!少年俺の事覚えてるのか!」


「…………ゴースト?」


「そういえばなんで魔王もそんな姿で……」


「私のスキルよ」


 スキルの説明をしながら、オリビアは再び襲ってきた気持ち悪さに自身の服を握り締める。

 その様子に気付いたキャットはシオンの肩を叩いた。


「今日はここまで。シオン、そろそろ時止めるのもきついでしょ」


「ん?別に僕は――」


「シオン」


 オリビアに視線を向けるキャットにシオンはハッとして口を閉じると、パキラもオリビアの顔色が悪い事に気付いて椅子から立ち上がった。


「とりあえず今日はここまでにしておくか。…………クロッカスもお前のとこにいんだろ」


「よく分かったな」


「そりゃな。……あいつ元気か?」


「……元気じゃ」


「そうか、ならよかった。あいつ使ってまた連絡くれ」


「分かった」


「ま、待って‼︎少しだけオリビアと話させてくれない⁉︎」


 オリビアを連れ出そうとするシオンに声をかけたのはデイジーだった。

 オリビアを見つめるその瞳には心配と、再会の喜びが滲んでいる。

 オリビアはその瞳に肩の力が抜けると、心配するシオンに「大丈夫」と声をかけてデイジーの方へ歩み寄った。



「デイジーさ――」


「オリビア‼︎」


 デイジーはオリビアを力強く抱き締めた。

 このまま締め殺されるのではないかと心配になる程だったが、苦しさや痛みよりも――暖かさがオリビアを包んだ。


「アンタその隈‼︎どれだけ無茶したのよ⁉︎寝てないの⁉︎」

「いや……その……」

「オリビア〜‼︎よかったです〜‼︎」

「ぐっ……苦し……」

「オリビア殿は世界の為、俺達の為に……うぉぉぉぉっ‼︎」

「ら、ラークさん待っ……」

「オリビア潰れてない?」


 デイジーだけでなく、タックルするように抱き付くフォティニア、そしてデイジーとフォティニアごとオリビアを抱き締めて滝のように涙を流すラーク――先程まで感じていた吐き気はどこかへと飛んでいき、代わりに圧迫死への不安が彼女を襲った。


 それをカランコエが呆れた様子で眺めていると、リリー達も集まって来た。


「やっと会えた〜‼︎ボロボロじゃんか〜‼︎」

「肌荒れしてますね……よろしければ私のパック分けますよ‼︎」

「俺様にも抱き締めさせろ‼︎」

「お前はあっち行ってろ‼︎」


「ねぇ……オリビア死ぬんじゃない?止めなくていいの?」

「俺はゴーストだから止められないぞ」


 オリビアの姿は助けを求めるように伸ばされた腕しか見えない。

 カランコエがナスタチウムとライラックの方を見たが、彼らは困ったように笑って首を振った。



「少しいいか?」


 カクタスがキャットとシオンを連れてドームから出て行く――それに気付いたのは、オリビアだけだった。




 ――しばらくしてやっと解放されたオリビアは、揉みくちゃにされた事でボロボロだった。

 しかし、表情は来た時よりも柔らかく、どこか嬉しそうだった。


「しばらくは会えないのよね……」


「ボクが転移で会わせてあげてもいいよぉ」


「スロウス……兵士の目があるでしょ……」


「……何かあったらいつでも言って。アタシ達、すぐ駆けつけるわ」


 デイジーの言葉にオリビアはぐっと唇を噛んで泣きそうになるのを堪える。

 深呼吸して気持ちを落ち着けてから頷くと、オリビアは最後にデイジー達を抱き締めた。


「また連絡します」


 オリビアは彼らの背中を軽く叩いてからゆっくりと背を向けた。

 外に出ると、そこにはシオンとキャットの姿しかない。

 ――デイジー達と話した事で、少しだけ期待してしまっていた。


「待たせてごめん。帰りましょうか」


 声をかけると、2人は苦笑を浮かべて頷いた。

 カクタスとは話せなかったが、デイジー達と話せてよかった。

 オリビアは足を前に踏み出すと、それを止めるようにオリーが前に飛び出して来た。


「待ってオリビア!」


「どうしたのオリー」


「あそこ!」


「?」


 オリーが指差した先には、ドームの影から少しだけ見えた赤い髪――オリビアは思わず息を止めて顔を強張らせた。


「……いいの?」


「……話したくないから、出て行ったんでしょ。大丈夫よ」


 オリビアはフードを深く被り首を振った。

 しかし、それに対してオリーは複雑そうな顔をして食い下がった。


「ホントにいいの?」


「何よ、逃げてもいいって言ったのはオリーでしょ」


「だってカクタス……ずっとあんたの事心配そうな目で見てたんだもん……」


 オリーの言葉にオリビアは驚いて顔を上げた。


 シオンとキャットは顔を見合わせると、彼女の背中を押すように軽く叩いた。


「ちょ、ちょっと…………」


「どっちも面倒くさい性格してるよまったく……」

「親に似たんじゃからしょうがないじゃろ」

「うるさいよクソジジイ」


「なに、なんの話――」


「行っておいで、待ってるから」


 彼らは困ったように笑みを浮かべて、ドームの影に隠れるカクタスの方を見た。


『本人がいない所で考えたって、答えは分からない。確認してきな。自分の目で、耳で、あの子の気持ちを』


 キューの言葉を思い出すと、オリビアは少しの期待と、大きな不安を抱えながら――ゆっくりと足をそちらに進めた。

少し改稿しました。

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