第87話:夫婦で過ごす初めての夜【前編】~サターン視点~
「マリオネット、もう日が暮れかけている。そろそろ部屋に戻ろう。それから、俺たちはもう夫婦になったのだ。
今日から夫婦の部屋に移ろう。既に使用人たちが、引越しを終えている頃だろう」
「夫婦のお部屋ですか…なんだか緊張しますわ」
マリオネットが頬を赤らめ、俯き加減で呟く。その姿もなんともかわいい。あまりにも可愛すぎて、そのまま抱きかかえてしまった。
「サターン様、自分の足で…」
「分かっている、だが、君が可愛すぎて…すまない、部屋まで連れて行ってもいいだろうか」
マリオネットを見ていると、感情が爆発してしまうのだ。そんな俺に、マリオネットが少し困った顔をしている。
「分かりましたわ、もう、仕方がないですね」
そう言って俺の首に手を回してくれた。こうやって俺の我が儘を聞いてくれるところ、本当に優しいな。
今更ながら、マリオネットは美しいし優しいし、令嬢として完璧だ。それに何よりも、人を魅了するオーラを持っている。その素晴らしさは、隣国の王子の目にもとまるほどに。
それなのに、なぜ俺をこんなに愛してくれるのだろう…魔王の生まれ変わりだと皆に怯えられている俺を…
「サターン様、大好きですわ。本当に目覚めて下さり、ありがとうございました」
そう言ってマリオネットがすり寄って来た。この子は、俺の心が読めるのか?そう思うほど、絶妙なタイミングだったのだ。
「俺も愛しているよ。もう二度と1人にはしないから」
マリオネットの頬に自分の頬をくっつける。
そうしている間に、部屋についた。
「ここが夫婦の寝室だよ。あの扉の向こうがマリオネットの部屋、反対隣の部屋が俺の部屋だ。それからあの扉が、食事をするための部屋だよ。基本的にこの部屋を中心に、何でもできるようになっている。
もし気に入らないところがあれば、何でも言ってくれ」
「気に入らないところなんて、ございませんわ。なんて素敵な部屋なのでしょう。既に私物が運ばれているのですね。それにとても広いですわ」
この部屋を気に入ってくれた様だ。よかった。マリオネットの好きな色や好みを、事前に調べておいてよかった。
「それじゃあ、早速食事にしよう。既に準備は出来ているよ」
マリオネット一緒に、隣の部屋へと向かう。
「サターン様…その…お義父様は、ご一緒ではないのですか?お義父様も家族ですし、一緒の方が…」
マリオネットが、少し遠慮しがちに呟く。どうして父上の名前が!一気に怒りがわいてくるのを、必死に抑えた。
分かっている、マリオネットは俺の父親を家族として大切にしている事は。マリオネットはそういう子だ。
分かっているが、腹立たしいのだ。
それでも必死に気持ちを抑える。
「父上は、今日からは別だよ。君の兄上も結婚してから、生活圏は別々ではないのかい?結婚すると、それぞれの生活を大切にするからね。今日からは夫婦水入らずで、2人で食事をするのだよ」
他の家は知らんが、俺は父上と一緒に食事なんてしたくない。確かマンドル殿の家は、侯爵家の隣にたてていたし、きっと食事は別のはず…だと思うのだが…
「確かにお兄様とレアも、お父様とお母様と別々に食事をしていると言っていましたわ。ごめんなさい、私、つい結婚前の気分でいましたわ。
お義父様は大切な家族ですが、一応別世帯なのですよね。承知いたしました、それでは2人で食事を頂きましょう」
よかった、マンドル殿の家も食事は別だったのだな。何でも言ってみるものだ。
早速隣同士に座ると、食事開始だ。
「マリオネット、こっちも食べてくれ。こっちも美味しいよ」
半年の間、気苦労をさせてしまったせいか、少し痩せてしまったマリオネット。少しでもたくさん食べて欲しくて、色々と食事を勧める。
「そんなに食べられませんわ。サターン様の方こそ、少し痩せてしまわれましたので、沢山食べて下さい」
今日はずっとこんな風に、食べさせ合いながら食事をしている。いつも胃に入れるだけの作業の食事も、マリネットが傍にいると、何億倍も楽しい時間に変わるのだ。
今日からずっと、こんな日々が続く、そう思うとなんだか胸の奥が熱くなった。




