第81話:使用人たちの苦悩【前編】~使用人視点~
「おい、聞いたか?お坊ちゃまが目覚められたそうだぞ。良かったな、きっと心優しいマリオネット様は、相当お喜びになっただろう」
「マリオネット様がこのお屋敷にいらしてから、この屋敷も随分明るくなったからな。旦那様も、すっかりマリオネット様の虜だ。マリオネット様がいらっしゃるだけで、よどんだ空気も一気に爽やかになるし。
給料がいいからこの屋敷で働いて来たが、正直仕事が嫌だったんだよな。でも今は、楽しくてたまらないよ」
「マリオネット様は、俺たち使用人にも優しく声をかけて下さるからね。あんな女神の様な女性が、なぜ公爵家にいるのか分からないくらいだ」
盛り上がる使用人たち。
「あなた達、何を呑気な事を言っているのよ。サターン様が目覚めたのは素晴らしい事だけれど…そのせいで私達、冷や汗をかいたわ」
「お嬢様は少し鈍感なところがあるとは思っておりましたが、あそこまでとは…とにかく、サターン様はお嬢様が可愛くて仕方がないのは分かるのだけれど、あの殺気に満ち溢れたオーラは、何とかならないのかしら?」
「本当よね、公爵様の話になった途端、公爵様に殺意むき出しだったのよ。本当の親子なのに…」
マリオネット専属メイドたちが、真っ青な顔をして話を進める。
「旦那様とお坊ちゃまは、元々お互い興味がないのですよ。ただお2人とも、マリオネット様を大切に思っておりますから…とはいえ、旦那様のマリオネット様を大切に思う気持ちは、実の娘を思う気持ちの様な感情だとは思いますが…
何分お坊ちゃまの嫉妬が酷くて…あれほどまでに嫉妬心をむき出しにして、怒りに満ち溢れた感情を露わにされていらっしゃるのに、その感情が全くマリオネット様は感じ取っていらっしゃらないとは…
話を聞いていて、こっちは心臓が飛び出しそうになりましたよ。とにかくこれからは、極力マリオネット様と旦那様を近づけない方が無難でしょう」
「執事のあなたがそんな事を心配しなくても、サターン様はきっと、お嬢様を公爵様には絶対に近づかせないわよ。ただ…何も考えていないお嬢様が、旦那様に近づいていかないか心配で…」
「そうよね…お嬢様、優しくて思いやりがあってとても素敵な女性なのだけれど、何分非常に鈍いところがあるのよね…もしこれからも、今までのようにお嬢様がこのお屋敷で、公爵様や使用人と接したら…」
使用人たちが固まり、考え込む。
「お坊ちゃまが爆発して、マリオネット様を閉じ込めるかもしれません」
「俺たちも、クビになるんじゃないのか?せっかくマリオネット様という癒しが出来たのに…」
そこへ庭師が、真っ青な顔をしてやってきた。
「俺、お坊ちゃまに殺されるかもしれない…いつも通りマリオネット様が庭にやってきてくれたのだが、俺とのやり取りをお坊ちゃまに見られて…ものすごい殺気を漂わせてたんだよ…
きっと殺される…どうしよう」
「マリオネット様と、仲良かったもんな…大丈夫だ!ああ見えてお坊ちゃまは、そんな事で使用人を傷つけたり理不尽に扱ったりしない…と思う…」
「おい、どうしてそこは、言い切ってくれないんだよ!とにかく、お坊ちゃまがいらっしゃるときは、極力マリオネット様には近づかない様にするよ…でも…マリオネット様の笑顔、癒しだったんだけれどな」
「「「「…」」」」
「…とにかく、お坊ちゃまをこれ以上怒らせない様に、俺たちも手を打とう」
「私達専属メイドも、お嬢様の行動を制限する様に手を尽くしますわ。とにかくこれからも、公爵家が平和でいられる様に、私にできる事をやりましょう」
ここにきて、まとまりを見せる使用人たち。
だが…
「マリオネット様の専属使用人と執事は、すぐにお坊ちゃまの部屋に来る様にとの事よ」
「「「「何ですって」」」」」
一気に不穏な空気が漂う。
「…大丈夫だ、取って食われたりしないし、そもそも君たちは元々マリオネット様のお世話をする人たちとして、この屋敷に来ているのだから。きっと悪いようにはされないはずだよ…多分…」
「とにかく、健闘を祈っているよ」
他の使用人たちから励ましを受けながら、マリオネット専属使用人と執事たちは、重い足取りの中主の待つ部屋へと向かったのだった。




