第65話:レアが訪ねて来てくれました
午前のレッスンも終わり、午後はサターン様を見つめながらティータイムだ。
「サターン様、このお茶、とても美味しいですわ。早く目を覚まして、一緒にお茶がしたいです」
決して帰ってくることはないが、それでもサターン様に向かって話しかける。よく考えたら、昔はこうやって一方的に、私がサターン様に話しかけていた。なんだか懐かしい。
あの時は、まさか私が公爵家でお世話になる事になるだなんて、夢にも思っていなかった。
どんな形であれ、大好きなサターン様のお傍にいられるという事は、幸せな事なのだろう。
「お嬢様、レア夫人がいらっしゃっております」
「まあ、レアが!すぐに行くわ」
あの事件以降、レアとも一切連絡を取れていなかった。きっと心配をかけていた事だろう。急いでレアの待つ客間へと向かう。
「レア、久しぶり。心配をかけてごめんね。忙しいのに、わざわざ来てくれたのね、ありがとう」
「マリオネット、元気そうでよかったわ。中々来られなくてごめんなさい」
私の姿を見るなり、飛びついてきたレア。
「そんな事はいいのよ。それよりも、来月にはお兄様との結婚披露パーティを控えている時期なのに。私の為に、時間を作ってくれたのね」
既にお兄様と籍を入れ、我が家で生活を始めているレア。来月には結婚披露パーティも控えている。なれない夫人としての生活に加え、パーティの準備もある中、わざわざ私を訪ねてきてくれたのだ。
「お義父様もお義母様もお優しいし、披露宴の準備も順調だから、そこまで忙しくはないのよ。それにもっと早く、あなたの顔を見に来たかったのだけれど…ディーズ公爵家はその…なんというか…敷居が高くて、中々来られなかったの。でも、勇気を出して来てみたら、意外と普通のお屋敷なのね」
「まあ、そうだったの。確かにディーズ公爵家はあまり社交の場に出ていないから、敷居が高いかもしれないわね。そんな中、来てくれてありがとう」
「それで、サターン様の容態はどうなの?」
「まだ意識は戻らないけれど、生きてくれているわ。きっといつか、目覚めてくれるはずよ。私はそう信じているの」
「そう…マリオネットは強いのね…」
「私は強くなんてないわ。最初は辛くて、たくさん泣いたのよ。もしサターン様が命を落としたら、そう考えると、怖くてたまらなかった。でもね、サターン様の日記をたまたま見つけたの。サターン様の日記を読んで、泣いていてはいけない、私も強くならないと!
そう思ったの。だからね、私はどんなことがあっても、サターン様の傍で、彼が目覚めるのを待ち続けるつもりよ。たとえ一生目覚めなかったとしても、サターン様から離れるつもりはないわ」
もう1ヶ月も眠り続けている。このまま一生目覚めないのかもしれない。それでも生きてくれているだけで、私は嬉しいのだ。
「サターン様はきっと、目覚めるわ。だってあの人、マリオネットへの執着がすごいのですもの。マリオネットには話していなかったけれど、昔私もサターン様に、助けられたことがあったの。
貴族学院主催のピクニックで、私の近くに大きなクマが倒れていたでしょう?あの時助けてくれたのが、サターン様よ。
あなたの親友でもある私にもしもの事があったら、マリオネットが悲しむからという理由で、助けてもらったみたい。それくらいマリオネットの事を、サターン様は大切にしているのよ」
「まあ、あの時レアを助けてくれたのは、サターン様だったのね。知らなかったわ」
「それだけではないわ、サターン様は、あなたに近づく令息や嫌がらせをしていた令嬢たちを、排除していたみたいなの。なんだかんだ言って、マリオネットはずっとサターン様に守られてきたのね」
そう言って笑ったレア。
「そうだったね…私、ずっとサターン様に、守られてきたのね…」
ずっと嫌われていると思っていたあの頃、でも、あの頃から私は、ずっとサターン様に守ってもらっていただなんて。本当にサターン様は、私にとって、ヒーローの様な方だ。




