第64話:公爵家での生活
「サターン様、今日もいい天気ですよ。カーテンを開けますね」
朝、サターン様の部屋へと向かい、一番に彼の元へと向かう。今日も心臓は動いている、大丈夫だ。
太陽の光は、魔力に良いと聞き、毎日朝カーテンを開けるのが私の日課だ。
眠るサターン様の頬を撫で、そっと寄り添う。私の幸せな時間。
あの事件から、1ヶ月がたった。未だサターン様は目覚めない。それでも今、サターン様は生きていてくれている。ディーズ公爵様やグレース様のお話だと、持って3日と言われていたのだが、彼らの予想は嬉しい形で裏切られている。
きっと今も、サターン様は私を一人ぼっちにしない様にと、必死に生きてくれているのだろう。
そっと彼の唇に、自分の唇を重ねる。おはようの口づけだ。私は毎朝夜、サターン様におはようとお休みの口づけを必ず行っている。
「お嬢様、朝食の準備が整いました。このお部屋にお持ちいたしますね」
「ありがとう、そうしてくれると有難いわ」
侯爵家からやって来た私の専属使用人たちも、今は公爵家でお世話になっている。公爵家の使用人たちとも、随分打ち付けているとの事だ。
食事が終わると、中庭へと向かう。
「マリオネット様、今日もお花を摘みに来たのですか?」
「ええ、そうよ。サターン様とお義父様のお部屋に飾る、お花を摘みに来たの。今日はどのお花がお勧めかしら?」
「そうですね、この季節は、こちらの花々が奇麗ですよ」
「ありがとう、それじゃあ、このお花を頂いていくわ。いつもお庭を手入れしてくれて、ありがとう。サターン様が元気になったら、2人でお茶をしに来るわね」
「はい、お待ちしております」
お花を摘み終わると、庭師に挨拶をして屋敷に戻る。まだこのお屋敷に来て1ヶ月だが、皆いい人ばかりで、すっかり仲良くなった。
さらに…
「失礼いたします、お義父様、ご気分はいかがですか?お花を持ってまいりましたわ。またカーテンを閉め切って。太陽の光を浴びる事は、体にも魔力の回復にも良いのですよ」
「マリオネットか。相変わらず元気だね。私にまで気を使ってくれて、ありがとう。私の事は気にしなくてもいいのに。それに今日は、少し気分もよくてね。
マリオネットがこうやって、毎日私の世話を焼いてくれるお陰かもしれないね」
そう言って笑うお義父様。
この1ヶ月で、ディーズ公爵様ことお義父様は、すっかり弱られてしまった。最近では、ベッドで過ごすことも多い。最初はあまり私が踏み込むのも…そう思っていたが、日に日に弱られていくお義父様を放っておくことなど到底できず、今ではこうやってお節介を焼いているのだ。
「そうはおっしゃられても、お食事を残していらっしゃるではありませんか。あと1口でもよいので、食べて下さい。はい、お口を開けて下さい」
残してあった朝食を、お義父様のお口に放り込む。
「マリオネット、気持ちは嬉しいが、もしこの姿をサターンに見られたら、私は八つ裂きにされてしまうよ。とはいえ、マリオネットが食べさせてくれると、なぜか食欲がわいてくるよ。
サターンがマリオネットに夢中になるのもうなずける。君は本当に、魅力的な女性だよ」
「お義父様ったら、その様なお世辞を。ですが、そう言って頂けますと嬉しいですわ。さあ、沢山食べて下さい」
その後お義父様と少しお話をした後、再びサターン様のお部屋に戻ってきた。そしてサターン様の体を、丁寧に拭く。もちろん、私1人では厳しいので、男性の使用人に手伝ってもらいながらにはなるが。
それでもこうやってサターン様のお世話が出来る事が、嬉しくてたまらないのだ。
お世話が終わると、今度は次期侯爵夫人になるためのレッスンにプラスして、魔力の勉強も行う。
魔力のお勉強は、グレース様も積極的に手伝ってくれているのだ。
「見て下さい、グレース様。この世界のどこかに、魔力を完全回復させると言われる虹色のお花が咲いているそうですわ。このお花があれば、サターン様の意識も戻るかもしれません。
私、探しに行って参りますわ」
私の目に留まったのは、魔力を完全に回復させると言われている、虹色の花に関する記事だ。これさえあれば、サターン様も元気になるかもしれない。
そう思ったのだが…
「マリオネット様、その伝説の虹の花は、この世には存在しませんよ。我々の先祖も、数百年かけて全世界を駆け巡り調べましたが、見つかりませんでしたから」
そう言って笑ったグレース様。存在しない花か…でも、この世界のどこかに、もしかしたら咲いているかもしれない。とはいえ、魔力を持っていない私が、世界中を飛び回り探す事なんて不可能。
ましてやサターン様を残してなど、言語道断だ。仕方ない、魔力回復に良いとされる方法を、少しずつ試すかしないか。




