第62話:サターン様の葛藤
「ディーズ公爵、娘はずっと、サターン殿を慕い、彼以外を愛する事など出来ないと思って生きてきました。娘にとって、サターン殿はかけがえのない存在なのです。そのうえ、サターン殿と魔術師の戦いも、目の当たりにしております。
ディーズ公爵のお心使いは、非常に感謝いたします。ですが、どうかサターン殿の傍に、娘を置いてやって頂けないでしょうか。たとえサターン殿の命がもう持たないとしても、最後まで傍にいさせてやりたいのです」
お父様が、必死にディーズ公爵様に頼んでくれている。いつも私の事を、一番に考えてくれるお父様。誰よりも私の事を理解してくれているのだ。
「ディーズ公爵様、私からもどうかお願いいたします。私はずっと、サターン様をお慕いしておりました。今回の戦いだって、すぐ傍で見てきたのです。サターン様は最後のまで、私を守ってくださいました。
だから私も…いいえ、私自身が、サターン様の傍にいたいのです。どうかお願いします。この家においてください。サターン様の傍にいさせてください!」
必死に頭を下げた。このままサターン様と離れるなんて、できない。
「マリオネット嬢、ファレリス侯爵、ありがとう。マリオネット嬢自身がそれを望むのなら、私からは何も言わない。隣の部屋に、マリオネット嬢の部屋を準備してある。サターンが準備した部屋だ。
好きに使ってくれて構わないよ。それじゃあ、私はこれで失礼するよ」
「ありがとうございます、ディーズ公爵様」
公爵様の許可が下りた。これで、サターン様の傍にいられる。
「マリオネット、よかったね。私はディーズ公爵と話をしてくるから。ディーズ公爵はああ言っていたが、サターン殿はきっと大丈夫だ。マリオネットを1人残して、逝ったりはしないよ」
「ありがとうございます、お父様」
部屋から出ていくお父様を見送った。
再びサターン様の手を握る。大きくて温かい。
「サターン様、どうか目を覚まして。お願い」
怖い…もし本当にサターン様が亡くなってしまったら、私は一体どうやってこれから生きていけばいいのだろう。サターン様のいない世界で生きるだなんて、今の私には想像できない。
ポロポロと涙が溢れだす。いっその事、サターン様と一緒に…
その時だった。
急に強風が吹き荒れたのだ。どうやら窓が開いていた様だ。でも、いつの間に?
慌てて窓をしめようとしたときだった。1冊のノートに目が留まる。このノートは?
おもむろにノートを手に取った。
これは、サターン様の日記?
私たちが婚約した以降の日付で、日記がつづられていた。人の日記を見るのは良くない。
でも…
サターン様が何を思い、どう感じていたのか知りたい。サターン様、ごめんなさい。
そっと日記を開く。
“ぺスタナのやつ、やはりマリオネットを諦めていないようだ。どうやら俺と自国の魔術師を戦わせるらしい。その上、この国を攻め込もうだなんて、なんて奴だ。
もし俺が負ければ、マリオネットの友人も家族も、殺されるだろう。そしてマリオネット自身は…考えるだけで、怒りで気が狂いそうになる。マリオネットを傷つけ、悲しませる奴は、誰であろうと許さない。俺は絶対に負けない、負けるわけにはいかないんだ。この戦いに勝って、あの男を八つ裂きにしてやる!“
“今日もマリオネットが可愛すぎた。どうしてこんなにも愛おしいのだろう。この笑顔を守りたい。だからこそ、この戦いに負けるわけにはいかない。だが…俺に本当に勝てるのか?
相手は相当の魔力の使い手の様だ。いいや、弱音を吐いてはダメだ、マリオネットの人生がかかっているのだから。絶対に勝たないと“
“明後日はいよいよ決戦だ。この人の為に、魔力を磨いて来た。何度も作戦を練った。相手の魔力なども徹底的に調べ上げた。
とはいえ、俺があの魔術師に勝てる可能性は、20%だと他の魔術師たちに言われた。たとえ倒せたとしても、俺の命が助かる可能性は、限りなくゼロに近いとの事。
もし俺が死んだら、マリオネットは…“
“明日はいよいよ決戦の時だ。マリネットを見ると、妙に涙が出そうになる。マリオネットの笑顔を、絶対に守りたいのに。死にたくない、マリオネットの傍にずっといたい。だが、もし俺が負けたら…
そう考え、さっきマリオネットに手紙を書こうとした。俺にもしもの事があったら、どうか俺の事を忘れて幸せになってほしいと。だが、書けなかった。マリオネットを思えば、俺から解放させてあげるべきなのだろう。
だが、どうしても無理なのだ。すまない、マリオネット。こんな男に愛されて、君は不幸だ。君を自由にしてあげる事すらできない、愚かな男なのだから。
俺はもう、マリオネットを手放す事なんてできない。だからこそ、何が何でも生き延びる。生き延びてみせる。
そう書いたものの…俺の心は今、複雑だ。いつからこんなに弱くなったのだろう。それでも、君の傍にいたい。永遠に離れたくはない。
だからこそ、絶対にこの戦いに勝たないといけないんだ!自分の為にも!“




