第57話:救世主登場
私の腕をぺスタナ殿下が掴もうとした時だった。
バチバチッという音と共に
「痛い!」
という、ぺスタナ殿下の悲鳴が聞こえたのだ。もしかして!
サターン様の方を見つめるが、ぐったりしたまま。
「ぺスタナ殿下、私の大切な義娘に触れるのは止めてくれるかい?それにしても、こんなところに2人を連れてくるだなんて」
「ディーズ公爵様!!」
私達の前に現れたのは、ディーズ公爵様だ。その後ろには、数名の男性の姿も。さらに後ろには、陛下や王太子殿下、お父様、他にも数名の高貴な貴族たちの姿も。
そして数名の男性がサターン様の元に駆けつけると、何やら手をかざし始めたのだ。
「旦那様、お坊ちゃまの容態は極めて危険な状態です。とにかく一度、屋敷に連れて帰りましょう」
「治癒魔法はかけたのだよね。それなら、急いで屋敷に連れて帰る必要はないだろう。それにまだ、話しは終わっていないしね」
ディーズ公爵様はそう言うと、ゆっくりとぺスタナ殿下の元にやって来たのだ。さっきまでの威勢はどこえやら。真っ青な顔をして、腰を抜かしている。
「ぺスタナ殿下、こんばんは。腰を抜かしている様だけれど、大丈夫かい?」
「ど…どうしてここに?それにどうしてそこにいる男たちが、治癒魔法を?ディーズ公爵とサターン殿しか、魔法を使えないのではなかったのか?」
「私とサターンしか魔法が使えない?確かに私達本家の人間の魔力は膨大だ。だが、ディーズ公爵家縁の人間には、少しだが魔力を持っている者もいるからね。我が国には今、私とサターンを入れて、8人の人間が魔法を使えるのだよ。
治癒魔法や攻撃魔法程度なら、彼らにも十分使えるよ。それにしても、君の国は随分情報が乏しいのだね。そんな事も、調べられないだなんて。
いいや、調べられないのではなく、調べていなかったが正解か…さて、ぺスタナ殿下、これからどうするつもりだい?頼りのデスモン殿は、もうこの世にいない。
もしかして、あそこにいる少しの兵士たちに戦わせるつもりかい?」
ニヤリと笑ったディーズ公爵様。一瞬公爵様の瞳が、赤く染まったのを私は見逃さなかった。
「た…助けてくれ…命だけは…今すぐこの国を出ていくから、どうか…どうか助けてくれ」
必死に頭を下げるぺスタナ殿下、その姿は、何とも情けない。
「助ける?自分の息子をこの様な姿にされて、許す親が存在するのかい?君を許すつもりはないよ!」
次の瞬間、公爵様の右手から大きな炎が沸き上がった。
「ひいぃぃぃぃ…」
その炎を見たぺスタナ殿下が、泡を吹いて倒れてしまったのだ。どうやら恐怖から気絶してしまったようだ。
「少し脅しただけなのに、この程度で泡を吹くだなんて…この愚か者を連れて行ってくれ。二度と顔も見たくない」
ディーズ公爵様が、クルリと振り返り歩き出した。とはいえ、ここには陛下と王太子殿下、貴族と魔術師のかたしかいない。魔術師の方たちは、サターン様を既に担いでいるし、誰がぺスタナ殿下を運ぶのだろう…
そう思っていると、なんと陛下と王太子殿下、さらに高貴な貴族の当主たちが、ぺスタナ殿下を運び出したのだ。なんて事なの…
私も手伝った方が…
「マリオネット、大変だったな。口から血が出ているではないか?もしかして、怪我をしているのかい?とにかく、早く屋敷に戻ろう」
私の元にやって来たのは、お父様だ。
「お父様、私は怪我などしておりませんわ!サターン様がずっと、魔法で私を守ってくれていたのです。この血は、サターン様に人工呼吸をしたときについたものです。それよりも、サターン様が心配です。
それに…ぺスタナ殿下を皆様に運ばせるのも…」
「魔法でここまで連れてきてもらったから、最低限の人数しか来られなかったからな。本来は騎士たちを連れてくるつもりだったのだが、陛下たちがどうしても来たいとおっしゃって。自ら志願したのだから、ぺスタナ殿下を運ぶのも当然だろう。
さあ、帰ろう!」
「マリオネット嬢、ファレリス侯爵殿、こちらです。数分しか魔法陣はもちませんので、すぐに飛び込んでください」
魔術師の方が何やら難しい絵を描いたと思ったら、急に光り出した。
「今です、皆さん急いで通ってください」
「マリオネット、行こう」
お父様に手を引かれ、その絵の中に飛び込んだのだった。




