第55話:愚かな自分
「サターン殿、吐血している様だが、大丈夫かい?このままだと君は、命を落とすよ」
「あなた様だって、かなり出血しているではありませんか。もうそろそろ、限界なのではありませんか?それから、1つ伝えておきます。俺は絶対に死にません。マリオネットをこの世に残して死ぬだなんて、考えられない。
俺はこう見えて、執着心の強い男なのですよ。マリオネットの傍にいるためなら、俺はどんな手を使ってでも生きる。その為にも、あなたをここで抹殺する必要があるのです」
そう叫ぶと、ゆっくりと首だけ私の方を向いたサターン様。
「マリオネット、君は俺の為に今、ぺスタナ殿下の元に嫁ごうと考えているだろう。だが、そんな事はさせない。俺は君がいないと、もう生きていけない。君が傍にいない世界など、俺にとって生きる意味のない世界なのだよ。
俺は絶対に死なない、生きてあの男を倒す。だからどうか、俺の事を信じてくれ」
サターン様の真っ赤な瞳から、1筋の涙が流れた。サターン様が泣いている…私のせいで…彼は何でもお見通しなのね。私はどこまで愚かなのだろう…結局彼を傷つけてばかりだ。
溢れる涙をスッとぬぐうと、真っすぐサターン様の方を見た。
「サターン様、ごめんなさい。私、あなたを信じて待っていますわ。もう二度と、ぺスタナ殿下の元に嫁ぐなんて馬鹿な事は考えません。ですからどうか、デスモン様に勝って下さい。
勝って卒業式に行きましょう。私、サターン様と一緒に卒業パーティに出る事を、楽しみにしているのです。それに卒業式の翌日には、ディーズ公爵家で一緒に私も暮らしだすことが決まっているでしょう?
私、サターン様と一緒に食事をしたり、お茶をしたり、一緒に眠るのを楽しみしているのですよ。楽しい事がこれから沢山待っているのですから」
必死にサターン様に向かって叫んだ。
「そうだね、マリオネットとの暮らしを考えると、今からワクワクするよ」
うっとりとほほ笑むサターン様。
「そんな腑抜けた顔をしていて、大丈夫なのですか?そろそろ体力的にも厳しそうですので、決着を付けましょう」
そう言うとデスモン殿の手から、今までに見た事のないほど大きくて早い靄が飛び出したのだ。
「危ない!サターン様」
あまりにも大きな力に、心臓が止まりそうになる。あんなにも大きな力がサターン様に直撃したら…
ダメよ、弱気になったら。サターン様ならきっと、大丈夫。だって彼は誰よりも強い人だから。私が信じなくて、どうするの?
必死にデスモン様の魔力を受け止めるサターン様。
神様、どうかサターン様をお守りください。どうかお願いします。必死に手を合わせる。
その時だった。
サターン様の手から、今までとは違う眩いばかりのオレンジ色の光が、ものすごい勢いを伴って放出されたのだ。
「何だ、この光は。あり得ない!通常魔力とは、真っ黒いものだ。それなのに、こんな光を伴う魔力など、存在しないはず!一体何が!!ぎゃぁぁぁぁぁ」
サターン様の放った膨大なオレンジ色の光は、一瞬にしてデスモン様を包み込んだと同時に、ものすごい爆風が吹き荒れる。その威力はすさまじく、辺り一面砂ぼこりで全く見えない度に。
「サターン様!」
あれほどまでの魔力を使ったサターン様、大丈夫なのだろうか?
次の瞬間、私を守っていた壁がなくなったのだ。自由に動けるようになったと同時に、一気に砂埃が襲う。
「ゴホゴホ…何なの、ここは…」
こんな過酷な環境で、サターン様はたった1人で戦っていた。そう思うと、涙がこみ上げてくる。だが、今は泣いている場合ではない。
「サターン様、どこですか?サターン様」
必死にさっきまで戦いが行われていたであろう場所に向かって、歩みを進める。どうして返事がないの?どうして私を守っていた壁がなくなったの?
一気に不安が襲う。
そして少しずつ砂煙が落ち着き、辺りの景色が見えるようになった時だった。サターン様の姿が、目に飛び込んできたのだ。




