第5話:楽しいです
「サターン様、こんにちは」
翌日、早速サターン様のいる丘へと向かった。今日も静かに本を読んでいるサターン様の横に、そっと座る。よしよし、今日は逃げられない様だ。ただ、私の方は一切見ず、本を読み続けている。
さすがに邪魔をしてはいけないと思い、静かにサターン様を見つめた。近くで拝見すると、やはりとてもかっこいい。すらりの伸びた鼻、大きくて少し吊り上がった瞳。がっちりとした体。全てが魅力的だ。それになんだか、いい匂いもする。
「俺の顔に何か付いているか?」
サターン様が、こっちを一切見ずに呟く。
「いいえ、何もついておりませんわ。ただ、とても素敵な方だなっと思って、見とれておりましたの。サターン様は、私の方を見ていないのに、私の行動が分かるのですか?」
「それだけじろじろ見られていては、さすがにわかる」
そんなに私、じろじろと見ていたかしら?言われてみれば、見ていたかも…
「読書の邪魔をしてしまって、ごめんなさい。静かにしておりますわ」
確かに令嬢として、殿方をじろじろと見るだなんて、はしたない事をしてしまった。せっかくだから、私も本を読もう。そう思い、今人気の恋愛小説を読み始める。
うう…このヒロイン、可哀そう。大好きな人の幸せの為に、自ら身を引くだなんて…
「何を泣いているのだ?」
隣にいたサターン様が、話し掛けて下さったのだ。
「はい、こちらの主人公がけなげで…感動して泣いておりましたの。愛する人の為に身を引くだなんて…そう思ったら、涙が止まらなくて」
「…」
「とはいえ、この後主人公の思い人が、全てを捨てて彼女との未来を選ぶのですよ。その姿がまた素敵で…この小説、何度読んでも素敵ですわ」
既に数十回読んでいる小説なのだが、何度読んでも涙が止まらないのだ。
「既に結果が分かっているのに、そんなにも泣けるものなのか?」
「ええ、もちろんですわ。この小説は既に数十回読んでおりますが、何度読んでも泣けるのです。そうですわ、サターン様もぜひ…」
「俺はそう言う茶番は好きではない」
「そうですか…」
とても面白い小説なのに…でも、男の人は恋愛小説が、あまり好きではないと聞いたことがある。
「そ…そんな顔をしないで…」
「そうですわ、サターン様。私、サターン様と一緒に食べようと、お菓子を持ってきましたの。確かサターン様は、甘いものがお好きではないと聞きましたので。他国から取り寄せた甘くないお菓子ですわ。どうぞ召し上がり下さい」
気を取り直して、サターン様の前にお菓子を並べる。事前情報で、サターン様は全くお菓子を食べないと聞いていたのだ。甘さ控えめで、お塩を使ったしょっぱいお菓子を他国から仕入れた。
きっとこれなら、食べてくれるはず。
ただ、なぜか手に取ってくれないサターン様。もしかして、毒が入っていると思われてるのかしら?そう思い、お菓子を手に取り自分の口に入れる。
「とても美味しいですわよ。それに毒など入っておりませんので、どうかお召し上がりください。こちらは手で食べられるものですので」
さらにサターン様に進めた。ただ、やはり手に取らない。用心深い方なのかしら?それなら!
1つお菓子を手に取り、そのままサターン様の口元に持って行く。
「本当に美味しいですので、騙されたと思って食べて下さい」
その瞬間、一瞬口を開けてくれたかと思うと、急にハッとした表情になり、そのまま立ち上がったのだ。
「俺はその様な、得体のしれない物を食べる気はない。今日はもう、十分だろう。それではこれで失礼する」
そう言うと、こちらを一切振り向かずに歩きだしたサターン様。もしかして私、無礼を働いたかしら?よくわからず、首をコテンとかしげる。
再びお菓子に手を伸ばし、口に放り込んだ。
「こんなに美味しいお菓子なのに、もしかしてサターン様は、人からお菓子をもらう事が、好きではなかったのかしら?それとも手でお菓子を食べるのが、嫌だったのかしら?」
サターン様と一緒にいられるのが嬉しすぎて、少し暴走してしまったのかもしれない。もしかしたら、あ~んがいけなかったのかしら?ちょっとやり過ぎたわね。
明日サターン様に会ったら、きちんと謝ろう。
とはいえ、今日はとても楽しかったわ。あんな風に、サターン様とお話しが出来るだなんて。夢の様だ。
このまま少しずつ、サターン様に近づけたらいいな…




