第43話:幸せな時間
「父上、ファレリス侯爵殿、夫人、私共はこれで失礼いたします」
盛り上がる大人たちを他所に、サターン様が私を連れて部屋から出ようとしている。私達の今後の事について話し合っているのに、このまま出てもいいのかしら?
そう思いつつ両親や公爵様の方を見るが、私たちの事など全く気にしていない様子だ。このまま席を外しても、問題なさそうだ。
2人一緒に部屋から出ると、そのまま歩き出したサターン様。
「せっかくだから、今から公爵家を案内するよ。君もいずれ、この家に住むことになるからね」
早速サターン様が、公爵家を案内してくれる。さすがこの国で3本の指に数えられるほどの大貴族だけの事はある。どこをとっても、非常に立派だ。
ただ…
「サターン様、使用人は男性ばかりの様ですが…」
このお屋敷には、女性の使用人がいないのだ。その上、公爵家にしては使用人の数が、非常に少ない気がする。
「俺も父上も、あまり人間が好きではなくてね。極力使用人たちは、俺や父上の目に付かない様に仕事をしているから。一応女性の使用人もいるが、彼女たちは特に俺たちが姿を現すと、姿を見せなくなるのだよ。
俺や父上を怖がっている使用人も多いからね。マリオネットがこの屋敷で過ごすようになるころには、女性の使用人も沢山雇うつもりだし、なにより侯爵家から君専属の使用人たちを、そのまま公爵家で雇えるよう、今君の父親とも話をしているから、その点は心配しなくても大丈夫だよ」
「申し訳ございません、私はそんなつもりでは…」
「分かっているよ、君は優しいからね。俺の様な恐ろしい男を、受け入れてくれてありがとう。俺も父上も、屋敷に興味はないから、これからは君がこの屋敷を好きな様にしたらいいから。
それから、ここが中庭だよ」
サターン様が、立派な中庭に連れてきてくれた。さすが公爵家の中庭だ、綺麗に手入れされているのはもちろん、珍しい花々が咲いている。
「まあ、なんて美しい中庭なのかしら。このお花、この国では非常に珍しいお花なのですよね。まあ、こっちにも」
「そんなに珍しい花なのかい?俺は今まで、全く花になんて興味がなかったら…だが、マリオネットが花が好きなら、もっとたくさん珍しい花を準備しよう。君はいずれ、公爵夫人になるのだから、この庭を好きな様にしていいよ。
この庭は、今日から君のものだ」
「まあ、それは嬉しいですわ。ですが、今のままでも十分素敵なお庭なので。それよりも、今日はお天気も良いですし、せっかくなのでお庭でお茶をしましょう。こんなに素敵なお庭があるのですから」
「お茶か…そういえば貴族はこうやって、庭でお茶を楽しむと聞いたと事がある」
「サターン様は、中庭でお茶をしたことがないのですか?」
「ああ、ない。今までは俺と一緒に茶など飲みたいと思う人間など、いなかったからな。俺もマリオネットと結婚するのだから、少しずつ貴族たちとも関係を築いていかないといけないな。
マリオネットが、この国で肩身の狭い思いをしない様に」
そう言って笑ったサターン様。こんな風に私の事を考えてくれているだなんて、嬉しくてたまらない。
「私はサターン様がいらっしゃれば、貴族世界で生きて行けますわ。とはいえ、サターン様にも、貴族として楽しんでいただきたので、これからはこうやって定期的にお茶を楽しみましょうね」
「君がそれを望むなら」
サターン様が、少し恥ずかしそうに笑う。あまり表情を出さないサターン様も、今日は私に色々な顔を見せてくれる。それが嬉しくてたまらない。
笑った顔のサターン様は、いつも以上に魅力的だ。彼の傍にいられるだけで、私は幸せでたまらないのだ。




