第37話:私の婚約者
「マリオネット嬢には既に婚約者が決まっているとおっしゃっておりますが、その方は一体誰なのですか?もちろん、私にも知る権利がありますよね?」
ニヤリと笑ったぺスタナ殿下。彼も実際私に婚約者などいないのではないか、そう思っているのだろう。
「もちろんです。実は今日、王宮に来てくれているのですよ。彼を呼んでくれ」
近くにいた使用人に、お父様が声をかけた。私の婚約者になる方が、今日来ている。一体どんな人なのだろう。とはいえ、誰が婚約者だろうと問題はない。ただ…私と婚約をさせられるだなんて、気の毒だな…
面倒ごとを押し付けられて…せめて私と婚約してくださった方には、精一杯尽くそう。私の残りの人生をかけて。
その時だった。使用人と一緒に、1人の男性が入って来たのだ。
「えっ…」
部屋に入って来たのは、何とサターン様だったのだ。どうして彼がここにいるの?もしかして私の婚約者になる方は、サターン様?いいえ、そんなはずはないわ。もしかしたら私、サターン様が恋しすぎて、幻を見ているのかしら?
他の殿方をサターン様に見間違えるだなんて、さすがに失礼すぎるだろう。とはいえ、何度も何度も目をこすり、再度見直すのだが、どう見てもサターン様に見えるのだ。
「黒い髪に黒い瞳…この前会ったディーズ公爵殿にそっくりな姿…ま…まさかあなたは…」
「お初にお目にかかります、ぺスタナ殿下。私がマリオネットの婚約者に内定したサターン・ディーズです。どうぞお見知りおきを」
恐怖からか真っ青な顔をしているぺスタナ殿下に、笑みを浮かべて挨拶をするサターン様。
待って!今サターン様の口から、私の婚約者に内定したと言った?もしかして私を心配して、わざと婚約者のふりをしてくれているの?一体何が起こっているの?
「マリオネット、よかったわね。あなた、ずっとサターン様に好意を抱いていたでしょう?幸せになるのよ」
困惑する私の横で、レアが目に涙を浮かべてほほ笑んでいる。
「レア、これは一体…」
「マリオネット」
困惑してレアを見た瞬間、グイっと腕を引っ張られたのだ。そして体中を覆う温もりが、全身から伝わった。温かくて落ち着く…ずっと求めていた温もり…
「サターン様、どうしてあなた様が、こちらにいらっしゃるのですか?私の婚約者というのは…」
「そのままだよ。君は近いうちに、俺と婚約する事が決まったのだ。既に親同士の顔合わせは済んでいる。今まで辛い思いをさせて、すまなかった。もう何も心配しなくてもいい、さあ、こっちにおいで」
空いていたソファに、サターン様と並んで座る。私の肩を抱き、ずっと抱きしめてくれているサターン様。これは夢かしら?私の願望が夢になって現れているのかしら?不安になり、そっと顔をつねる。
痛い…どうやら夢ではなさそうだ。
「マリオネット、何をしているのだい?自分の顔を傷つけてはいけないよ」
私が頬をつねった事に気が付いたサターン様が、つねった場所にそっと触れた。その瞬間、痛みが一気に引いていく。
サターン様の方を見ると、今まで見た事のないほど優しい顔をしていた。一体何が起こっているのだろう。彼がこんな風に、私を見つめてくれるだなんて…
そっと彼の肩に自分の頭を乗せた。この時間が、ずっと続けばいいのに…あまりの幸せに、涙がこみ上げてくる。
「サターン様、これは夢でしょうか?夢なら覚めないでほしいです…」
「夢ではない。現実だ。とはいえ、今までの俺の行いを見たら、信じられないのも無理はない。マリオネット、本当にすまなかった。これからは必ず君を守るから。
ぺスタナ殿下、私とマリオネットは、近々正式に婚約を結ぶ予定です。申し訳ございませんが、殿下の婚約者は他を当ってください」
サターン様がぺスタナ殿下に向かって、はっきりと告げたのだ。




