第35話:怪しい
翌日
「マリオネット、すまない。急遽私に予定が入ってしまってね。今日の王宮行きは、延期にしてもらえるかな」
「延期ですか?ですが、既に王宮に行く準備も出来ておりますし、貴族学院もお休みしたのですが」
「すまない、今日は家でゆっくり休んでくれ。それじゃあ、行ってくる」
足早に馬車に乗り込んで出かけた、お父様とお兄様を見送った。2人とも、一体どうしたのだろう。せっかく覚悟を決めたのに…
とはいえ、お父様たちが忙しいのなら仕方がない。明日ぺスタナ殿下の元に伺えばいい。そう思っていたのだが…
翌日も、その翌日もお父様とお兄様は、ギリギリになって王宮に出掛けてしまったのだ。
「お父様もお兄様も、何を考えているのかしら。こっちは貴族学院をお休みして、準備をしているというのに!」
「マリオネット、そんなに怒らないで。お父様たちは忙しいのよ。明日はきっと、王宮できちんと話が出来るはずだから」
「お母様、そんな呑気な事をおっしゃって。3日も引き延ばすだなんて。もしかしてお父様とお兄様は、私がぺスタナ殿下の元に嫁がせるのを、阻止しているのではなくって?」
せっかく覚悟を決めたのに、こうもはぐらかされたら、私の気持ちも揺らいでしまう。
「そんな事はないわよ。ほら、そんなに怒っていないで、お茶にしましょう。そうだわ、今日はお天気もいいし、中庭に行きましょう」
私の背中を押すお母様。きっとお母様も、お父様たちの味方なのだろう。このままズルズルと先延ばしにされていても、らちが明かないし、何よりも学院にも行けない。
卒業まで、もう後少しなのに。このまま無駄に休むなんて、勿体ない。あと少ししか、レアや令嬢たちと過ごせないのに。
それに…
ふとサターン様の姿が、脳裏に浮かんだ。ダメよ、もう諦めると決めたのだから。それでも心のどこかで、また彼に会いたい。言葉を交わしたい、そんな感情が沸き上がるのだ。
せめて卒業するまでは、サターン様の事を見つめていたいという気持ちが、溢れる。
ダメだ、そんな気持ちを持っては。私はぺスタナ殿下の元に嫁ぐと決めたのだ。こんな浮ついた気持ちでは、ぺスタナ殿下にもサターン様にも失礼だ。彼との婚約が決まったら、もう二度とサターン様の事を考えるのは止めよう。
もちろん、この気持ちも完全に封印しよう。学院に行っても、決してサターン様に関わる事はしない。それが今の私にできる、唯一の事だ。
そう自分に言い聞かせた。
翌日
「お父様、今日こそは王宮に行かせていただきますから!」
朝からお父様に強く迫った。
「あ…ああ、分かっているよ。そんなに怖い顔をして迫らなくても、大丈夫だ。それじゃあ、行こうか」
拍子抜けするくらい、あっさりと了承したお父様。一体どうしたのだろう?不審に思いつつ、お兄様とお母様と一緒に馬車に乗り込んだ。なぜか3人とも、ニコニコしている。なんだか非常に怪しい。
「どうしてお父様たちは、そんなに嬉しそうなのですか?何か企んでいるのではないですよね?」
「な…何を言っているのだい?私たちが一体何を企んでいるというのだか。とにかく今日は、マリオネットの婚約者が正式に決まる日なんだ。親として喜ばしく思っているだけだよ」
「そうよ、マリオネット。あなた、最近ちょっと様子が変よ。とにかく今日は、あなたの婚約者が決まる大切な日なのだから」
「それならいいのですが…」
何だか怪しい気がするが、今更疑っても仕方がない。今日私は、ぺスタナ殿下と正式に婚約を結ぶのだろう。覚悟は出来ていたはずだが、なんだか急に胸の奥がズキリと痛む。
きっとこの痛みは、気のせいだ、そう自分に言い聞かせ、王宮へと向かった。




