第30話:覚悟は出来ています
王宮の着くと、陛下や王妃殿下、王太子殿下たちが待ってくれていた。もちろん、ぺスタナ殿下も。
「マリオネット嬢、久しぶりだね。今日君に会えるのを、楽しみにしていたのだよ」
笑顔で私の元にやって来るぺスタナ殿下。その瞬間、夜会の時の記憶が蘇り、恐怖で体が震えそうになるのを、必死に抑えた。
「ぺスタナ殿下、本日はお招きいただき、ありがとうございます。陛下も王妃殿下も王太子殿下も、お出迎えありがとうございます」
令嬢らしく、挨拶をした。私はこれでも侯爵令嬢だ。たとえどんなに恐怖を感じていても、笑顔を作る事くらいは出来る。
「堅苦しい挨拶は後にして、一緒にお茶でも飲もう」
私の手を握ってきたぺスタナ殿下。とっさに振り払ってしまった。
「申し訳ございません。ですが私たちは、婚約者でも何でもありません。特にあなた様は、他国の王族でございます。どうか気軽に私に触れる事は、ご遠慮くださいませ」
「マリオネット嬢は、身持ちが固い女性だったね。陛下や君の父上にも話したのだが、ぜひ君を私のお妃にしたいと考えていてね。もちろん、君が私の元に嫁いできてくれるというのなら、この国に有利な条件で貿易を進めて行こうと思っているよ。
マリオネット嬢には婚約者もいないし、君は侯爵令嬢だ。家の為、国の為に嫁ぐのは当然だろう」
当たり前のように、ぺスタナ殿下がそんな事を言いだしたのだ。
「ぺスタナ殿下、私たちはマリオネット嬢を、政治の道具にしようとは考えておりません。マリオネット嬢、君の気持ちを大切にしたいと、私たちは考えている。だからどうか、自分の気持ちに正直になってくれて構わないよ」
優しい眼差しで、陛下が私を見つめている。お父様もお母様もお兄様も王妃殿下も王太子殿下も。皆私の事を考えてくれている。
私がぺスタナ殿下に嫁げば、我が国にとって莫大な利益が出るはずなのに…彼らの優しさが、私の胸に突き刺さる。
私は侯爵令嬢だ。本来家の為、国の為に嫁ぐのが当然。そもそも私には、決まった殿方もいない。婚約したい殿方だって…
その瞬間、サターン様のお姿が脳裏をよぎった。決して結ばれる事のない人、私が唯一愛した人。
いくら思っても、決して報われない私の思い。
今までずっと、決して結ばれる事のない私の思いを尊重してくれていた両親。彼らの気持ちに応えるためにも、国の利益よりも私の気持ちを大切にしてくれた陛下たちの為にも、私がやらなければいけない事は…
「ぺスタナ殿下、皆様、私、ぺスタナ殿下に嫁ぎますわ。幸い私には、婚約者はおりません。それに気になる殿方も…ですので私は…」
「マリオネット、君は何を言っているのだい?陛下、マリオネットは少し混乱している様です。申し訳ございません、今日のところは連れて帰ります」
「お父様、私は」
「お前は黙っていなさい。ぺスタナ殿下、どうか少しお時間を頂けないでしょうか」
「私は構いませんよ。ですが、きっとマリオネット嬢は、私との結婚を選ぶと思いますよ。マリオネット嬢、君の答えを楽しみにしているよ」
そう言うと、ニヤリと笑ったぺスタナ殿下。その顔を見た瞬間、背筋が凍り付く。やっぱり私、この人の事を受け入れる事は出来ない。
でも…
「ぺスタナ殿下のお心遣い、感謝いたします。マリオネット、帰ろう」
殿下たちに頭を下げ、私の手を引いて足早に歩きだしたお父様。その後ろを、お兄様とお母様も付いてくる。
そしてそのまま、馬車に乗り込んだ。
「マリオネット、どうしてあの様な事を言ったのだい?君はぺスタナ殿下に恐怖を感じていたのだろう?さっきも言ったが、誰もマリオネットを犠牲にしてまで、国益を優先したいと思ってなどいない!」
「そうよ、マリオネット。あなたの幸せが、私たちにとって一番の幸せなの。だからどうか、自分を犠牲にしようとしないで」
「お父様もお母様も、私の事を考えて下さり、ありがとうございます。ですが私には、決まった殿方もおりません。きっと心から愛する殿方を見つける事も、今の私には非常に厳しいでしょう。
それならばせめて、侯爵家や国の役に立ちたいのです。確かにぺスタナ殿下には、今は恐怖を抱いているのは確かです。ですが、嫁いでしまえばきっと、気持ちも落ち着くかと思うのです。
何よりもこの国を出る事で、私の気持ちも少しは落ち着くのではないかと考えております。いつまでも報われぬ恋を追い求めていても、仕方がありませんから」
「だが…」
「お父様、私はもう決めたのです。私は、ぺスタナ殿下に嫁ぎますわ」
※次回、サターン視点です。
よろしくお願いします。




