第3話:まずはお話しから
翌日
「マリオネット、どこに行くつもり?」
びくりと肩を震わせる。こっそりとサターン様がいらっしゃるであろう、丘に向かおうとしたところを、レアに見つかってしまったのだ。腕を組み、怖い顔で私を見つめるレア。
「あら、レア。そんなに怖い顔をして、どうしたの?」
「どうしたの?じゃないでしょう。あなた今、どこへ向かおうとしていたの?まさか、サターン様の元ではないわよね。あなたの耳にも入ったはずよ。同じクラスのアントニー様が、昨日停学3ヶ月の処分を受けた事を。
先月だって、公爵令嬢のミリアナ様が、停学処分を受けたばかりよ。噂によると、サターン様からの密告らしいわ。とにかく、あなたもサターン様に目を付けられたら大変よ。わかっているの?」
「そうそう、アントニー様が今日からいなくて、本当に快適よね。あの人、ずっと私に付きまとっていて、迷惑だったのよ。いつも威張っていて感じも悪かったし。身分の低い生徒を、顎で使っていたり、言う事を聞かない子たちに暴力をふるっていたのでしょう?自業自得よ。
ミリアナ様だって、いつも私に意地悪をして。人の悪口が大好きで、本当に苦手だったのよね。婚約者がいるのに、学院で不貞を働いていただなんて…停学になって当然よ。
彼らは人として、良くない事をしたから停学になったの。私は真面目に生きているから、大丈夫よ」
そう、彼らは悪い事をしたから、罰を受ける事になったのだ。自業自得。むしろ彼らを告発してくれたサターン様には、大感謝だ。
「本当にあなたは、呑気なのだから…」
レアが頭を抱えてしまった。きっとレアの事だ、私を何が何でもサターン様の元に、行かせないはず。さて、どうやってレアを巻こうかしら?
「レア嬢、ここにいたのですね。先生が呼んでいましたよ」
「先生が?ありがとうございます。すぐに行きますわ。いい、マリオネット、絶対にここから動かないでね。動いたら承知しないからね」
そう言い残し、レアは急ぎ足で去って行った。
これは神様がくれたチャンスだわ。
「あなた、レアを私から遠ざけてくれてありがとう」
レアを連れ出してくれた令息の手を握り、感謝を伝える。
「マリオネット嬢…その…俺は…」
なぜか顔を赤くしてモジモジしている彼に手を振り、急いで中庭へと向かう。早くしないと、レアが戻って来てしまうわ。
どんどん奥へと向かっていくと、丘が見えてきた。よし、今日もサターン様がいらっしゃるわ。
「サターン様!」
笑顔で彼に声をかけた瞬間、サターン様がこちらを振り向いた。ただ、なぜかスッと立ち上がると、クルリと反対側を向いて歩き出した。
「あっ…待って下さい」
レアがいない今がチャンスなのだ。せめてあの時のお礼だけでももう一度…そう思った時だった。
木の根っこに躓いて、豪快に転んでしまった。
ドスリという鈍い音が、響き渡る。15歳にもなって、こんなに豪快に転ぶだなんて、恥ずかしすぎる。それも昨日も同じ様に転んだのだ。その上、今日は足も痛い。恥ずかしさと痛みで、一気に涙が込み上げてきた。だめよ、泣いたら。転んで泣くだなんて、子供と一緒じゃない。
どうしよう、とにかく落ち着かないと。きっとあのままサターン様はどこかに行ってしまったわよね。という事は、ここには私一人。多少みっともない姿でも、問題ないはず。
ゆっくりと体を起こす。すると
あら?誰かの足があるわ。もしかして!
顔をあげると、美しい黒い瞳と目が合ったのだ。まさかサターン様が、私を心配して駆けつけてくれたのかしら?きっとそうだわ。
急いで起き上がり、汚れた制服を手ではらう。
「サターン様、私を心配して様子を見に来てくださったのですね。嬉しいですわ、よろしければ一緒にお話しをしませんか?」
笑顔で彼に話しかけた。やっぱりサターン様は、お優しい方なのよ。そうよ、皆サターン様を誤解しているだけ。




