第27話:どうしてあなたが?
「どうしてあなた様が、こちらに…」
令息たちの声が聞こえる。ゆっくり瞳を開ける。するとやはり、誰かに後ろから抱きしめられている様だ。ただ、目の前には口を開けて固まるレアの姿が。
ゆっくりと振り返ると、黒い瞳と目が合った。
「サターン様?」
なんと私を抱きしめていたのは、サターン様だったのだ。
「貴様ら、嫌がる令嬢に無理やり絡むだなんて…全員まとめて、消し去られたいのか?」
いつも以上に低い声が響き渡る。
「も…申し訳ございませんでした。失礼いたします」
ものすごい勢いで、令息たちが退散していった。彼らは一体…そう思うほど、素早かったのだ。
…今は令息たちの事は、どうでもいい。
すっとサターン様から離れ、彼に向き直した。
「お助けいただき、ありがとうございました。昨日はあなた様のお父様にも助けていただいたのですが、きちんとお礼を申し上げる事が出来ませんでした。大変恐縮ではありますが、お父様にお礼をお伝え願えますでしょうか。
それでは私は、これで失礼いたします。レア、行きましょう」
きっとサターン様は、私なんかに会いたくはないだろう。それでもお優しいサターン様は、私を助けて下さったのだ。皮肉な事に、私は彼に触れられても全く嫌悪感を抱く事はなかった。それどころか、心地の良さまで感じてしまったのだ。
分かっている、彼をどれほど思っても、決して報われないことぐらい。そのうえ、どうやら私は、昨日の出来事が心に大きな傷となってしまった様で、殿方がすっかり怖くなってしまったのだ。それでも私は、前を向いて進まなければいけない。
そんな思いでレアの手を掴み、歩き出そうとした時だった。ふいにサターン様に手を掴まれた。
「待ってくれ…その…今まですまなかった。その…」
顔を赤らめたサターン様が、何やらブツブツと呟いている。
「マリオネット、サターン様、そろそろ教室に向かわないと。先生が来てしまいますわ」
レアが言いにくそうに話しかけてきたのだ。
「本当だわ。サターン様、教室に向かいましょう。このままでは、授業に遅れてしまいますわ」
授業に遅れては大変だ。急いで教室へと向かい、自分の席に座った。サターン様が教室に入っていらしたからか、皆がざわついている。ずっとおやすみをしていたサターン様が、まさか学院にいらっしゃるだなんて。
もう二度と、学院にはいらっしゃらないのではないかと思っていたのだ。またサターン様に、会えた事は嬉しい。
でも…
やっとサターン様の事を諦めて、前に進もうと思っていたのに。サターン様の姿を見たら、気持ちが揺らいでしまう。
チラリとサターン様の方を見た。すると、バッチリ目が合ったのだ。今までどれほど見つめていても、全く合う事なんてなかったのに!びっくりして急いで目をそらした。
体中が熱くなり、心臓の音が早くなる。やっぱり私、サターン様の事が好きなのね…とはいえ、私がどれだけ彼を思っていても、決して報われる事はないのに…
サターン様は、罪な方ね…
そうよ、いくらサターン様が学院にいらしたからって、私の思いが報われる訳ではない。何を気持ちが揺らいでいるのかしら。もう私は、サターンの事を諦めると決めたのだから、その気持ちを貫き通すべきだわ。
そうと決まれば、サターン様を視界に入れないようにしないと。そう思い、休み時間になるとすぐ、女性用トイレに籠る。ここにいれば、絶対にサターン様のお姿を見る事はない。
そう思ったのだ。そんな私を見たレアが
「マリオネット、どうしたの?もしかして、令息たちが怖いの?あなた、さっき令息たちに囲まれていた時、とても顔色が悪かったものね。私もあなたを守るから、教室に戻りましょう。教室には、サターン様もいらっしゃるし。
珍しいわよね、いつもすぐにどこかに行ってしまうサターン様が、今日は教室にいらっしゃるのよ。一体どうしたのかしら?」
コテンと首をかしげるレア。
「私は別に令息たちが怖くて、ここにいる訳ではないの。私ね、サターン様の事を、諦めると決めたでしょう。でも、サターン様のお顔を見てしまうと、つい気持ちが高ぶってしまって…だから、なるべくサターン様に、会わない様にしているのよ」
「そうだったの…でも、サターン様、あなたを探していた様な…」
「とにかく私は、サターン様を忘れないといけないのよ。レアも協力してちょうだい」




