第24話:助けてくれたのは…
「身持ちも硬いのだね。そう言うところも魅力的だよ。でも大丈夫だよ、近々私たちは、婚約を結ぶことになるのだから。さあ、行こう」
私の手を引っ張る殿下、必死に抵抗するが、男性の力には敵わない。
「どうかお放しください。私と殿下は、まだ正式に婚約をすると決まった訳ではないのです」
「恥ずかしがっているのかい?可愛いな。大丈夫だよ、優しくするから」
この人、何を言っているの?いくら他国の王子であっても、侯爵令嬢でもある私を、無理やり部屋に連れて行こうとするだなんて。
とはいえ、ここには誰もいない。どうしよう、このままだとこの男に連れていかれる。恐怖と嫌悪感から一気に涙が溢れそうになる。
「感動して泣いているのかい?泣いた顔も美しい…本当に、君はどこまでも魅力的な子だ」
何を思ったのか、ゆっくりと殿下の顔が近づいてきたのだ。恐怖からさらに体が強張る。
「止めて下さい…助けて…サターン様…」
「サターン?一体誰の事を言っているのだい?他の男の名前を呼ぶだなんて!そんな口、塞いでやる」
「止めて下さい!」
無理やり私に口づけをしようとした時だった。
「こんばんは、人の声が聞こえたので来てみたら、ぺスタナ殿下ではありませんか。嫌がる令嬢を無理やり襲うだなんて、悪趣味ですね」
「あなた様は…」
黒い髪に黒い瞳、彼は…
「黒い髪に黒い瞳…まさか君が、噂のディーズ公爵…」
「私の事をご存じだったのですね。それは嬉しいな。こんな場所で、ぺスタナ殿下に会えるだなんて、なんだか運命みたいですね…」
ニヤリと笑ったディーズ公爵。
「べ…別に私の事を覚えていただく事はありませんし、運命なんてありませんよ。それでは私は、失礼いたします」
ものすごい速さで、その場を去っていくぺスタナ殿下。
まさかサターン様のお父様が、こんな公の場に現れるだなんて。彼はサターン様以上に、公の場に現れる事を嫌うのだ。
現に私もお会いするのは、初めてだ。
「ディーズ公爵様、お助けいただきありがとうございました」
ディーズ公爵様にお礼を伝えた。それにしても、サターン様はお父様似なのね。本当にそっくりだわ。
「なるほど、サターンが君に好意を抱くのも無理はない…マリオネット嬢、お礼を言うのは私の方だ。君とまた会える日を、楽しみにしているよ」
「それは一体どういう…」
私が話し終える前に、足早にその場を去って行った公爵様。もしかして、私を助けるためにわざわざ来てくださった?
なんて、都合のいい事を考えてしまうが、公爵様が私を助ける理由なんてない。きっとたまたま通りかかって、私が殿下に言い寄られているから、可哀そうになって助けて下さったのだろう。
サターン様のお父様だ、きっとお優しい方に違いないし。
サターン様…
お父様のお姿を拝見したら、なんだかサターン様に会いたくなってきた。やっぱり私は、サターン様の事が…
いいえ、もう彼の事は、諦めると決めたのよ。さすがにぺスタナ殿下はちょっと嫌だけれど、他の令息ならきっといい人がいるはず!
「マリオネット、ここにいたのね。大丈夫だった?」
私の元にやってきてくれたのは、レアだ。
「レア、私…」
レアの顔を見たら、一気に涙が溢れてきた。
「どうしたのよ、とにかく落ち着いて。何があったのか、ゆっくり話して」
レアがイスに座らせてくれた。私はさっきの出来事を、レアに話す。
「私、ぺスタナ殿下が怖くて…でもあの人、きっと私との婚約話を進めてくると思うの。どうしよう、あの人にだけは、嫁ぎたくはないわ。どうしよう、レア」
「落ち着いて、マリオネット。まさかあの男が、そんな男だっただなんて…大丈夫よ、私が何とかするわ。だからあなたは、心配しないで」
そう言ってレアが私を強く抱きしめてくれる。
「ありがとう、レア。私…」
「さあ、マリオネット。帰りましょう。今日は色々とあって、疲れたでしょう。ぺスタナ殿下がまたあなたを探しに来る前に。馬車まで送るわ」
「でも、まだ夜会は終わっていないわ。それなのに勝手に帰るだなんて…」
「そこは私が、上手く話しを合わせておくから大丈夫よ。さあ、もう帰って。ぺスタナ殿下に見つからないうちに」
レアが私の手を引き、馬車に乗せてくれた。
「ありがとう、レア」
「気にしないで。それじゃあまたね」
「ええ、また明日」
手を振ってくれるレアに向かい、私も手を振ったのだった。




