第18話:あと少し…~サターン視点~
「お坊ちゃま、大丈夫ですか?すごい汗です。湯あみをいたしましょう」
「いいや…大丈夫だ。これも魔力を受け入れる最終局面を迎えている為の症状だと、魔術師が言っていたからな…」
マリオネットとの時間を楽しむ様になってから、早3ヶ月。最近妙に体が重く、夜寝ているだけなのに、ものすごく汗をかく日々が続いている。魔術師の話では、俺の膨大な魔力を、いよいよ体が完全に取り入れようとしているらしい。
そのせいで、かなり体に負担がかかっているとの事。
だが、ここ数日特に症状が重いため、心配した使用人が、再び魔術師を呼び出した。
「以前にもお話しさせていただいた通り、今が正念場です。お坊ちゃまの魔力は膨大ですので、完全に取り込むために体にかなりの負担がかかってしまっているのでしょう。これからしばらくは、さらに体が辛い日々が続くかもしれません」
なるほど、まだしばらくこの辛さが続くのか。とはいえ完全に魔力を取り込み、自由自在に扱える様になれば、やっとマリオネットと普通に過ごすことが出来る。
マリオネットの顔を存分に見たり、触れたりできるのか。その為の試練だと思えば、多少の体調不良等、大したことではない。
あと少しで、マリオネットと…
考えただけで、一気に鼓動が早くなると同時に、猛烈な痛みと吐き気に襲われた。
「お坊ちゃま、今あなた様の体は、非常に弱っている状態です。こんな状態で感情を高ぶらせると、体への負担が大きくなってしまいます。ただでさえ、先日クマを倒すために、魔力を使ったのですから。
今はとにかく、魔力を使わず安静にしていて下さりと申し上げたのに…そのせいで、あの日半日寝込んでしまわれたでしょう」
先日マリオネットの親友が、クマに襲われそうになったところを助けたのだった。正直体の負担を考えると、あんな女を助ける義理はなかったのだが…マリオネットが泣き叫ぶ姿を想像したら、無意識に体が動いていたのだ。
マリオネットが悲しむ様なことだけは、絶対にしたくない。たとえこの体に負担がかかったとしてもだ。
あの女を助けたせいで、色々と探りを入れられたりもしたが、かなりきつめに脅しておいたから、もう何かをしてくることはないだろう。
「とにかくしばらくは、安静にしていてください。感情が高ぶると、体に負担がかかり、魔力を取り込む時間も長くなってしまいますからね」
そう言って去って行った魔術師。
魔力を取り込む時間が長くなるか…それは困る。一刻も早く魔力を取り込み、マリオネットとの時間を確保したい。その為にも、今は我慢の時だな。
翌日、いつもの丘へは向かわず、そのまま屋敷に戻ってきた。今頃マリオネットは、俺に会いに丘に向かっているだろう。俺がいない事を知ったら、悲しむかな…
マリオネットの事を思うと、胸が痛んだ。だが、今マリオネットに会うと、再び俺の感情が高まってしまう。そうなったら、魔力を体内に取り込む時間も長くなるのだ。
それでも俺は、マリオネットの事がどうしても気になって仕方がない。
こっそり学院に戻ると、まだマリオネットの家の馬車が停まっていた。彼女は学院にいるようだ。教室などを探したが、姿が見えない。一体どこにいるのだろう。
もしかして、丘か?
だが、あの場所には俺はいない。もしかして、あの丘に何か別の目的があるのだろうか。とにかく丘に行ってみる事にした。するとそこには、いつも俺が座っている場所にちょこんと座っているマリオネットの姿が。
もしかして、俺を待っているのか?ゆっくりと彼女に近づく。
すると俺に気が付いたマリオネットの顔が、ぱっと明るくなり嬉しそうにこちらに走って来たのだ。その姿があまりにも可愛すぎて、必死に興奮を抑えた。
「サターン様、来てくださったのですね。今日はもういらっしゃらないのかと思いましたわ」
いつも以上に心地よい光を放ちながら、俺の方にやって来たマリオネット。このままだと、魔力が暴走してしまう。とにかく落ち着かないと!
「悪いがしばらくは、ここに来られない。だからしばらくは、ここにはこないでくれ」
そう伝え、クルリと反対側を向いて急ぎ足でその場を立ち去る。マリオネットが何か言いかけていたが、今は魔力が暴走しない様に抑えるのが専決だ。
それにしても、彼女の顔を見ただけで、魔力が暴走しそうになるだなんて。とにかく、魔力が体に完全に馴染むまでは、マリオネットに近づくのは控えよう。
大丈夫だ、あと少しの辛抱だから…
※次回、マリオネット視点に戻ります。
よろしくお願いします。




