第14話:父上の命令~サターン視点~
そんな日々を5年ほど過ごしていたある日。珍しく父上に呼び出された。
「サターン、まだ魔力が体に馴染んでいない様だな。お前の魔力量はかなり多い。魔術師の話では、後1年もすれば馴染むとのことだ」
「父上、その様な話なら、俺はこれで失礼します」
そう言って父上の元を去ろうとした時だった。
「まて、サターン。来月からお前も、貴族学院に入学してもらう。入学手続きもすませてあるから、必ず通う様に」
ニヤリと笑った父上。こいつ、何を考えているのだ?学院に入学するという事は…
「父上もご存じの通り、俺はまだ魔力が完全に体に馴染んでおりません。万が一魔力が暴走する事があれば、貴族学院に甚大な被害が及びます。とにかく今はまだ、人と避けた方がよいかと」
「マリオネット・ファレリス、非常に優秀で、穏やかな性格。人望もあり、兄はこの国の第二王女、レア・レティ・アンデルサンの婚約者。ファレリス侯爵家も今、領地経営がうまく行っており、波に乗っている家だ。
お前の婚約者の候補として、彼女の名前が挙がっている。彼女ならきっと、優秀な世継ぎを…」
「父上、何をおっしゃっているのですか?どうして今、その様な話を!」
「サターンは、彼女に気があるのだろう?私は人間に興味がなくてね、君の母親を愛する事も出来なかった。そのせいで、サターンには辛い思いをしてしまっただろう?父親として、申し訳なく思っているのだよ。
だからせめて、お前が興味を抱いているファレリス侯爵家の令嬢を、お前の妻にと思ってね。なぁに、侯爵には少し脅せば…」
「いい加減にしてください!とにかく俺は、マリオネットを妻として迎え入れる気はない!」
「そうか…それは残念だね…だが、貴族学院には通ってもらうよ。それが貴族の義務だからね。そこでめぼしい令嬢を見つけなさい。もし見つけられなければ、私が決めた相手と結婚してもらおう。
それでいいかい?」
「俺は、貴族学院には…」
「サターン、お前はこの国の貴族だ。貴族たるもの、貴族学院に行く義務があるのだよ。いいね、必ず通うんだよ」
にっこりと笑う父上。この男、一体何を考えているのだろう。とはいえ、父上が貴族学院に通えと言うのだから、聞かない訳にはいかない。
貴族学院…15歳になる貴族が1年間通う事を義務付けられている場所。マリオネットも今年、貴族学院に入学する年。という事は…
まさかこんな形で、彼女に再会する事になるだなんて…
きっと彼女は、俺の存在など忘れて、令嬢や令息たちと楽しく過ごすのだろう。そしていつか婚約者を作って…
考えただけで、怒りがこみあげてくる。
落ち着け、落ち着くんだ!とにかくマリオネットには関わらない様にしよう。それが一番、彼女の為にもいい。
それから、父上の言った通り、この1年でめぼしい令嬢を見つけよう。正直令嬢になど興味がないが、もし自分で探さなければ、きっと父上は無理やりマリオネットを俺の妻にするだろう。
嫌がるマリオネットを、無理やり妻に何てしたくない。何よりも、母上と同じ運命を歩ませたくはない。
マリオネット以外の奴が、どれほど傷つき不幸になろうとも知った事ではない。だが、彼女だけは…
ふと目をつぶると、彼女の笑顔が脳裏に浮かんだ。5年も経ったのに、あの時の光景が昨日の事の様に浮かぶのだ。
マリオネットに会える…
心のどこかで、彼女に会える事を心待ちにしている自分がいるのも確かだ。だがそれ以上に、他の令嬢の様に俺を見て、恐怖で震えあがり、あの真っ黒な靄を出したら…
考えただけで、胸が締め付けられるのだ。
この日以降、俺は不安とわずかな期待が交差する、地獄のような時間を過ごすことになったのだった。




