第12話:初めて感じる温もり~サターン視点~
その女の視線の先には、複数匹の野犬たちがいたのだ。野犬たちは、女に向かって近づいている。
恐怖からか、さらに大粒の涙を流し、震える女。きっとこのままこの女は、野犬に襲われて、最悪命を落とすだろう。
この女がどうなろうと、俺の知った事ではない。
知った事ではないのだが…
「きゃぁぁ、来ないで!お願い、誰か助けて!」
その声を聞いた瞬間、女の前に立ち野犬たちに向かって魔力をぶつけていたのだ。俺は何をしているのだ?どうして勝手に体が動いたのだ?こんな事をしたら、きっとこの女は、さらに恐怖で腰を抜かすだろう。
後々面倒な事になるかもしれないのに…
とにかくその場から早く立ち去らないと!
一切後ろを振り返らずに、その場を立ち去ろうとした時だった。
「あなた様が、私を助けて下さったのですね。ありがとうございます」
背後から女の声が聞こえて来たかと思うと、背中に今までに感じた事のない温もりが襲ったのだ。何だ、この温かい感じは…
驚き女の方を見ると、くりくりの大きな紫色の瞳と目が合ったのだ。さらに彼女は、オレンジ色の光を放っている。何なんだ、このオレンジ色の光は…
温かくて、気持ちいい…
それに体から感じる温もりは、一体…
て、この女、俺に抱き着いているではないか!
慌てて女を引き離した。
「お助けいただき、ありがとうございます。私はファレリス侯爵家の娘、マリオネットと申します。ピクニックに来ていたのですが、護衛と離れてしまって…あなた様は命の恩人ですわ」
嬉しそうに俺に話しかけてくる姿に、俺は息をのんだ。この女、俺が怖くないのか?それとも、俺の正体を知らないのか?
そう思ったのだが…
「あなた様は、ディーズ公爵家のサターン様ですよね?お噂通り、お強いのですね。本当に黒い髪に黒い瞳をしていらっしゃるのね。なんて素敵な方なのかしら?」
この女は何を言っているのだ?俺が素敵だと?ただ、この女から放たれるオレンジの温かな光は、増々強くなるばかり。
この女、本当に俺が怖くないのか?それとも、世間知らずなだけなのか?とにかく、この場から去らないと!
そう思い、そのまま反対側を向いて歩き出した。ただ、俺の心臓は今までに感じた事のないほど、バクバクと動いている。何なんだ、この感情は?俺の心臓は、どうしてしまったのだ?
ダメだ、魔力が暴走しそうになる。落ち着かないと!必死に呼吸を整える。
「お待ちください、サターン様。手を怪我されておりますよ、すぐに手当てをしないと。さあ、こちらに座ってください」
俺の手を引き、その場に座らせると、ハンカチを取り出し俺の手に巻き始めたのだ。その表情は、さっきとは打って変わって真剣そのものだ。何なんだ、この生き物は…
そっとフワフワのピンクの髪に触れた。その柔らかくてサラサラの触り心地に、さらに心臓の音が早くなる。ダメだ、これ以上この女の傍にいると、魔力が暴走してしまう。
「手当はもういい、とにかく、この事は誰にも言うな!それから、あっちの道を真っすぐ歩いていけば、森を抜けられる」
そう伝え、急ぎ足でその場を去ろうとしたのだが…
「お待ちください、これ、私の大切にしているペンダントです。助けて下さったお礼ですわ。サターン様、本当にありがとうございました」
俺の手に紫色の宝石が埋め込まれたペンダントを置くと、にっこりとほほ笑んだのだ。その瞬間、一気に魔力が暴走するのを感じた。
まずい、このままここにいたら、マリオネットまで巻き込んでしまう。
必死に暴走しようとする魔力をおさえた。
「それでは、失礼いたしますわ」
オレンジ色の光を発しながら、笑顔で手を振って俺の元を去っていくマリオネット。本来なら彼女がきちんと戻れるか見守りたいところだが、俺は今、それどころではない。
早く…早くこの近くから離れてくれ…早く…




