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先生を助けてください.log  作者:
ANCHOR-β関連記録

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9/28

第9話 自己感覚異常に関する心理面接記録

【文書種別】心理面接記録

【作成日】2146年6月18日

【作成者】白峰中央医療センター 心理支援室

【記録者】臨床心理士 香坂真帆

【対象】白峰学院高等部 2年A組 真柴透

【同席】水野佐和(白峰学院高等部・養護教諭)

【状態】校内支援連携用控え

【備考】本人同意のうえ実施。事件内容に関する司法判断を目的としない。



1. 面接実施理由


対象生徒は、2146年6月14日、白峰学院高等部北棟三階第二準備室付近で保護された。

同日、2年A組担任・深瀬亮平教諭が負傷状態で発見されている。


対象生徒は保護後より、自身が深瀬教諭を傷つけた旨の発話を複数回行っている。

一方で、対象生徒の発話には、現場状況および確認済み情報と一致しない点がある。


本面接では、対象生徒の自己感覚、出来事の把握、身体感覚に関する訴えを確認する。

本記録は医療・支援上の観察記録であり、事実認定を行うものではない。



2. 面接時の状態


対象生徒は、開始時より緊張が強い。

視線は机上または同席者の手元に向くことが多い。

呼名への反応あり。

質問理解は保たれている。


発話は小声だが、応答は可能。

一部質問で沈黙が長くなる。

深瀬教諭の容体に関する質問が本人から複数回あった。


本人からの冒頭発話。


「先生は、まだ病院ですか」

「話せるんですか」

「僕は、謝れますか」


同席者より、深瀬教諭は治療中であり、本面接では容体詳細を扱わない旨を説明。

本人はうなずいたが、その後も入口方向を確認する動作が見られた。



3. 出来事に関する本人発話


以下、面接中の発話を抜粋する。

文意を損なわない範囲で、沈黙、言い直しを一部整理した。


香坂:

「6月14日に何があったか、話せる範囲で教えてください」


真柴:

「僕が先生を刺しました」


香坂:

「第二準備室でのことですか」


真柴:

「分かりません」


香坂:

「分からない、というのは」


真柴:

「準備室だったと思います。でも、いつもの準備室と同じ感じがしませんでした」


香坂:

「何が違いましたか」


真柴:

「空気です」


香坂:

「空気」


真柴:

「においとか、広さとか。あと、机の位置が少し違った気がします。でも、僕は中をちゃんと見たわけじゃないので、間違っているかもしれません」


香坂:

「その時、あなたはどこにいましたか」


真柴:

「中にいました」


香坂:

「準備室の中」


真柴:

「はい。扉を開けたと思ったら、中にいました」


香坂:

「扉を開けた後のことは覚えていますか」


真柴:

「全部は覚えていません」


香坂:

「覚えている部分は」


真柴:

「先生が近くにいました。声がして、手が動いて、先生が倒れました」



4. 自己感覚に関する発話


香坂:

「刺した、という感覚はありますか」


真柴:

「あります」


香坂:

「どんな感覚ですか」


真柴:

「手が重かったです」


香坂:

「重い」


真柴:

「自分の手じゃないみたいでした」


香坂:

「誰か別の人の手のようだったということですか」


真柴:

「分かりません。別の人、というより、僕の手なのに、僕の手じゃないみたいでした」


香坂:

「手以外にも違和感はありましたか」


真柴:

「ありました」


香坂:

「どこに」


真柴:

「腕の動きが、自分で思っているより遅かったです。肩も重くて、息も少し違いました」


香坂:

「息が違う」


真柴:

「息を吸う場所が遠い感じです」


香坂:

「身体が大きい、または小さい感じはありましたか」


真柴:

「分かりません。大きいとか小さいとかじゃなくて、身体の場所がずれている感じです」


香坂:

「身体の場所」


真柴:

「はい。目の位置とか、手を出すまでの距離とか、声の出方とか。全部少しずつ違いました」


香坂:

「その時、自分は真柴透だと思っていましたか」


真柴:

「はい」


香坂:

「では、別人になったという感覚ではない」


真柴:

「別人ではないです。でも、身体は自分のものじゃなかったです」


香坂:

「知らない誰かの記憶を見た、という感じですか」


真柴:

「違います」


香坂:

「違う」


真柴:

「見ていたんじゃないです。僕がやっていました」



5. 視覚・聴覚に関する発話


香坂:

「その時、何が見えましたか」


真柴:

「先生がいました」


香坂:

「深瀬先生ですか」


真柴:

「先生だと思いました」


香坂:

「顔は見えましたか」


真柴:

「見えたと思います。でも、はっきり思い出そうとすると、今の先生の顔と混ざります」


香坂:

「今の先生の顔」


真柴:

「倒れていた先生です。病院に運ばれた先生です」


香坂:

「倒れていた時の深瀬先生と、刺した時に見えた先生が混ざる、ということですか」


真柴:

「はい」


香坂:

「刺した時に見えた先生は、深瀬先生と違いましたか」


真柴:

「違うとは言えません。同じだと思います。でも、見え方が違いました」


香坂:

「見え方」


真柴:

「近かったです。声も近くて、怒っているみたいでした」


香坂:

「深瀬先生が怒っていた、ということですか」


真柴:

「分かりません。怒っていたのか、僕が怖かっただけなのか」



6. 加害自認に関する確認


香坂:

「あなたは、何度も『自分がやった』と言っています」


真柴:

「はい」


香坂:

「誰かに言わされた感じはありますか」


真柴:

「ないです」


香坂:

「誰かを庇っている感覚は」


真柴:

「ないです」


香坂:

「本当は自分ではない、と言いたい気持ちはありますか」


真柴:

「ありません」


香坂:

「では、あなたは自分が深瀬先生を刺したと思っている。でも、自分の身体ではなかった」


真柴:

「はい。両方あります」


香坂:

「矛盾しているとは思いますか」


真柴:

「思います」


香坂:

「それでも、そう感じる」


真柴:

「はい」


香坂:

「知らない誰かがやったことを、自分の記憶だと思っている可能性はありますか」


真柴:

「違うと思います」


香坂:

「なぜですか」


真柴:

「知らない人がやったなら、僕は止められると思います」


香坂:

「止められる」


真柴:

「見ているだけなら、止められると思います。でも、止められませんでした。手が動いていました」


香坂:

「自分で動かした」


真柴:

「動かしたと思います」


香坂:

「思います」


真柴:

「でも、動かし方が分かりません」



7. 死亡認識に関する発話


香坂:

「深瀬先生について、あなたは『殺した』と言っています」


真柴:

「はい」


香坂:

「6月14日時点で、深瀬先生の死亡は確認されていません」


真柴:

「聞きました」


香坂:

「それを聞いて、どう思いましたか」


真柴:

「分かりません」


香坂:

「安心しましたか」


真柴:

「安心していいのか分かりません」


香坂:

「なぜですか」


真柴:

「僕は、死んだと思ったので」


香坂:

「何を見てそう思いましたか」


真柴:

「倒れたところです」


香坂:

「倒れたら死んだと分かるわけではありません」


真柴:

「はい」


香坂:

「血が出ていたからですか」


真柴:

「それもあります」


香坂:

「他には」


真柴:

「音がなくなった感じがしました」


香坂:

「音」


真柴:

「先生の声が、途中で止まって、部屋がすごく静かになりました。それで、終わったと思いました」


香坂:

「医学的に死亡を確認したわけではない」


真柴:

「はい」


香坂:

「でも、あなたは死んだと思った」


真柴:

「はい」


香坂:

「それは、倒れている深瀬先生を見た時の感覚ですか。それとも、刺したと感じた時の感覚ですか」


真柴:

「分かりません」


香坂:

「分からない」


真柴:

「二つあります。倒れていた先生を見た時と、先生が倒れるところを見た時です」


香坂:

「倒れていた先生と、倒れるところを見た先生」


真柴:

「はい」


香坂:

「どちらが先か分かりますか」


真柴:

「分かりません」



8. 学習補助・電脳状態に関する確認


香坂:

「最近、学習補助アプリを多く使っていましたか」


真柴:

「はい」


香坂:

「StudyNestですか」


真柴:

「はい」


香坂:

「それ以外は」


真柴:

沈黙。


香坂:

「答えにくいですか」


真柴:

「分かりません」


香坂:

「使ったか分からない」


真柴:

「使ったかどうかじゃなくて、どこまでがそうなのか分かりません」


香坂:

「どういう意味ですか」


真柴:

「普通の学習補助と、普通じゃないものの違いが、使っている時は分からないです」


同席者注記:

この時点で対象生徒の呼吸が浅くなる。

水を勧め、約二分中断。


再開後、対象生徒は以下を発話。


「勉強したことが、前から知っていたみたいになるのは、怖くありませんでした」

「むしろ、助かったと思いました」

「でも、先生のことは、そういうのと違います」

「覚えた内容じゃないです」

「問題の答えみたいに出てきたわけじゃないです」

「頭の中で見た感じではありません」

「その場所にいた感じでした」


香坂:

「その場所、とはどこですか」


真柴:

「分かりません」


香坂:

「場所の名前は分からない」


真柴:

「はい」


香坂:

「でも、そこにいた感じはある」


真柴:

「はい」



9. 面接者所見


対象生徒は、深瀬亮平教諭を傷つけたという加害自認を維持している。

ただし、発話内容には自己感覚の不一致が伴う。


特徴的な発話は以下。


・「僕がやっていました」

・「自分の手じゃないみたいでした」

・「別人ではないです。でも、身体は自分のものじゃなかったです」

・「知らない人がやったなら、僕は止められると思います」

・「頭の中で見た感じではありません」

・「その場所にいた感じでした」


対象生徒は、自身の発話が矛盾していることを理解している。

質問理解、現実検討は大きく破綻していない。

一方で、事件体験の一部について、視点、身体感覚、出来事の前後関係に混乱がある。


対象生徒は「誰か別人の記憶を見た」という説明に対し、面接中は否定的であった。

一方で、本人の発話は、他者体験の混入、学習補助使用後の疑似記憶、強い急性ストレス反応のいずれとも完全には一致しない。


対象生徒の発話は、身体感覚、視覚断片、深瀬教諭への加害自認に集中している。

事件場面について、場所、周囲の人物、会話内容を具体的に説明することはできていない。

また、本人の生活歴と照合できる追加情報も乏しい。



10. 支援上の留意点

加害自認の有無のみで本人状態を判断しないこと。

「誰かの記憶が入った」等の表現を面接者側から提示しすぎないこと。

深瀬教諭の容体情報を伝える際は、本人の自責反応に注意すること。

学習補助使用歴については、懲罰的確認ではなく医療・支援上の確認として扱うこと。

単独待機を避けること。

面接時、手指の感覚、視点の高さ、声の違和感に関する質問で反応増強あり。


次回面接では、以下を確認予定。


・事件直前の睡眠状況

・学習補助使用歴

・第二準備室へ向かった理由

・深瀬教諭との直近面談内容

・発話中に現れる身体感覚の再確認



11. 記録者補足


本面接において最も注意を要する点は、対象生徒が「自分ではない誰かがやった」とは述べていないことである。


対象生徒は一貫して、以下の組み合わせで語っている。


自分がやった。

しかし、自分の身体ではなかった。


この表現は、通常の否認、責任回避、夢内容の混同とは異なる。

また、本人は深瀬教諭への敵意や攻撃動機を明確には語っていない。


本人の説明をそのまま採用することはできない。

ただし、通常の否認、責任回避、夢内容の混同としても処理しにくい。


継続観察を要する。

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