第16話 破損音声ログ文字起こし
【文書種別】破損音声ログ文字起こし
【作成日】2146年6月24日
【作成者】白峰署 生活安全課/県警サイバー犯罪対策支援係
【対象音声】北棟三階第二準備室付近で取得された音声断片
【推定録音日】2146年6月14日
【状態】一部破損/ノイズ多数/話者推定あり
【備考】本資料は、削除済み音声ファイルの部分復元に基づく文字起こしである。話者名は照合中であり、正式な供述調書ではない。
1. 復元概要
取得元は、白峰学院高等部関連生徒の本人電脳IDに紐づく一時保存領域。
ファイル名は復元不能。
録音開始操作の有無は不明。
自動録音、手動録音、または通話ログ保存のいずれかは判別不能。
録音時刻は、校内認証履歴、北棟三階立入制限発令時刻、救急要請記録との照合により、2146年6月14日15時台と推定される。
音声には、少なくとも二名の人物の発話が含まれる。
一名は成人男性、もう一名は女子生徒と推定される。
以下、成人男性声を【音声A】、女子生徒声を【音声B】とする。
2. 文字起こし
【00:00:02】
[椅子を引く音]
【音声A】
座りなさい。
【音声B】
立ったままでいいです。
【音声A】
瀬名さん。
【音声B】
名前で呼ばないでください。
【音声A】
ここには私しかいません。
【音声B】
だから嫌なんです。
【00:00:19】
【音声A】
落ち着いて話しましょう。
【音声B】
話すことはありません。
【音声A】
あります。
君のために、ここまで来てもらっています。
【音声B】
私のためじゃない。
【音声A】
そう思う状態だから、話す必要があります。
【音声B】
そういう言い方、やめてください。
【音声A】
では、感情ではなく記録を確認します。
【00:00:43】
【音声A】
履歴は残っています。
本版、紹介コード、案内表示。
どれも、君一人の使用では済まない形で。
【音声B】
知ってます。
【音声A】
知っているなら、今のうちに整理しなければならない。
【音声B】
整理って、私を紹介者にすることですか。
【音声A】
君は紹介経路に関わっています。
【音声B】
先生が言ったんじゃないですか。
【音声A】
言葉を選びなさい。
【音声B】
必要な人に、道具を知らせるだけだって。
【音声A】
私は、選択肢の話をしました。
【音声B】
渡したのは私です。
【音声A】
君が選んだ。
【00:01:21】
[短いノイズ]
【音声B】
違う。
【音声A】
違うと言いたい気持ちは分かります。
【音声B】
分かってない。
【音声A】
最初に確認したはずです。
使うかどうか、知らせるかどうかは、本人の判断です。
【音声B】
最初に見せたのは先生です。
【音声A】
私は、必要な情報を示した。
【音声B】
どうして私の履歴を知ってるんですか。
【音声A】
担任として、必要な範囲で生徒の状態を確認しています。
【音声B】
担任じゃない。
監視です。
【音声A】
その表現は正確ではありません。
【音声B】
正確じゃないのは先生の方です。
【00:01:58】
【音声A】
瀬名さん。
君は優秀です。
【音声B】
やめて。
【音声A】
だから、今ならまだ戻せる。
【音声B】
戻せない。
【音声A】
戻せます。
【音声B】
戻せないから呼ばれたんでしょ。
【音声A】
君の扱い方を間違えたとは思っていません。
【音声B】
扱い方。
【音声A】
支援の順番です。
【音声B】
私、人じゃないんですか。
【音声A】
そういう受け取り方をする状態だから、危ないと言っている。
【00:02:34】
[机上の物を動かす音]
【音声B】
消してください。
【音声A】
履歴の話なら、それはできません。
【音声B】
できるでしょ。
先生なら。
【音声A】
できることと、してよいことは違います。
【音声B】
今さら。
【音声A】
今さらでも、線は引かなければならない。
【音声B】
私だけ、線の外に出すんですか。
【音声A】
君だけではありません。
【音声B】
真柴は。
[約3秒無音]
【音声A】
彼の名前を出す必要はありません。
【音声B】
あります。
【音声A】
彼は本版を導入していない。
【音声B】
知ってる。
【音声A】
君は知りすぎています。
【00:03:17】
【音声B】
先生、真柴のことも呼んでましたよね。
【音声A】
面談です。
【音声B】
外部補助の話をするために?
【音声A】
彼には、別の確認があります。
【音声B】
ずるい。
【音声A】
事実と感情を分けなさい。
【音声B】
先生はいつもそう。
言葉を分ける。
同じことなのに、別の名前をつける。
【音声A】
必要だからです。
【音声B】
私は紹介者。
真柴は支援対象。
先生は担任。
【音声A】
実際に、君は紹介経路に関わっています。
【音声B】
先生が使わせた。
【音声A】
私は使わせていません。
【音声B】
じゃあ、何て言えばいいんですか。
【音声A】
知らせた。
確認した。
選ばせた。
【音声B】
同じです。
【音声A】
同じではありません。
【00:04:03】
[衣擦れ音。椅子が床を擦る音]
【音声B】
録っています。
【音声A】
録音を止めなさい。
【音声B】
嫌です。
【音声B】
これを出します。
【音声A】
出せば、君の履歴も一緒に出ます。
【音声B】
分かってます。
【音声A】
推薦も、家庭への説明も、今後の進路も、すべて確認対象になります。
【音声B】
分かってます。
【音声A】
分かっていません。
君は、自分が何を失うかを分かっていない。
【音声B】
先生が失うものは。
【音声A】
ここで話すことではありません。
【音声B】
先生はいつも、そうやって残らない場所に逃げる。
【00:04:45】
【音声A】
瀬名さん。
君は、自分の人生を守る方法を知らない。
【音声B】
先生が守ってくれるんじゃなかったんですか。
【音声A】
守るためには、順番があります。
【音声B】
また順番。
【音声A】
先に出す情報と、後で出す情報を間違えれば、人は救えません。
【音声B】
救うって言えば、何してもいいんですか。
【音声A】
何でもではない。
【音声B】
私を紹介者にするのは、いいんですか。
【音声A】
事実として、君が動いた部分はある。
【音声B】
先生は。
【音声A】
私は教師として、生徒の選択肢を確認した。
【音声B】
最低。
【00:05:19】
[強いノイズ。机に物が当たる音]
【音声A】
渡しなさい。
【音声B】
嫌。
【音声A】
録音を止めなさい。
【音声B】
離して。
【音声A】
落ち着きなさい。
【音声B】
離してって言ってる。
【音声A】
そのまま持っていても、君のためになりません。
【音声B】
私のためって言わないで。
【音声A】
君はまだ、救われたことの意味を分かっていない。
【音声B】
救われてない。
【音声A】
瀬名さん。
【音声B】
救われてない!
【00:05:51】
[録音音量急上昇]
[複数の足音。椅子転倒音]
[判別不能の発話]
【音声A】
危ない。
【音声B】
触らないで!
【音声A】
手を――
[金属音]
【音声B】
いや、違う、違う、違う。
【音声A】
……っ。
[約2秒無音]
【音声B】
先生?
[物が床に落ちる音]
【音声B】
先生、待って。
【音声A】
……。
【音声B】
そんなつもりじゃ――
[ノイズ増大]
【00:06:15】
[遠方で廊下音。足音接近の可能性]
【音声B】
起きて。
起きてください。
ねえ。
[呼吸音。短い嗚咽]
【音声B】
どうしよう。
[音声B、判別不能な小声。複数回]
【音声B】
消さなきゃ。
[布擦れ音]
[機器接触音]
【音声B】
消えない。
なんで。
[廊下側で不明瞭な音声]
【音声B】
誰か来る。
[録音音量低下]
【00:06:47】
[音声が遠くなる]
【音声B】
私は違う。
違う。
違う。
[廊下側の音声。判別不能]
【音声B】
真柴じゃない。
[強いノイズ]
【音声B】
先生、私――
[悲鳴]
【00:06:58】
録音停止。
3. 復元担当メモ
【音声A】は、声紋照合上、深瀬亮平教諭である可能性が高い。
【音声B】は、同校2年女子生徒である可能性が高い。氏名照合は追加確認中。
音声中に「瀬名さん」と呼びかける箇所が複数あるが、録音破損により当該発話の連続性は完全には保証できない。
00:05:51以降、接触音、金属音、転倒音、呼吸音が重なっており、具体的な身体動作は特定できない。
音声中の「金属音」が負傷原因と直接関係するかは、本資料単体では判断できない。
00:06:47付近の「真柴じゃない」は比較的明瞭に復元されているが、前後文脈は不明。
録音停止直前に悲鳴が確認される。悲鳴の話者は【音声B】と推定されるが、断定できない。
4. 取扱注意
本資料は、削除済み音声ファイルの部分復元であり、原音声全体を保持していない。
本資料単体をもって、負傷行為の実行者、凶器の使用者、録音者を確定することはできない。
ただし、以下の点については、既存資料との照合を要する。
・深瀬亮平教諭が「真柴透を面談予定」と説明していたこと。
・同時刻前後に、別生徒とみられる人物との会話が存在すること。
・正規外学習補助の紹介経路について、深瀬亮平教諭と生徒との間に認識の差があること。
・録音停止前に「真柴じゃない」という発話が存在すること。




