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20 合流

 だらりと横になってミズナギは目を閉じている。肌を寄せ合い少しでも回復をとレイモンドは腕の中に抱き寄せていた。

 あれから戦うことはないものの、ミズナギの疲労は明らかに力の使い過ぎだった。

 ナツキを守るために水を飛ばし結界を張ったり、またレイモンドのためにも細かな対応をしている。ミズナギは自身が何をしているのかは口には出さないが、傍にいるレイモンドには全て分かっていた。

 ベットの上に転がっている細い手を握り、指を絡める。ミズナギは神だから死にはしないが、全力で戦える方が楽ではある。勿論、現状が三割の力しか出せないとしても圧勝はするだろうが。

 レイモンドはミズナギのシャツの背中に手を入れて、なだらかな肌を這う。

 こうして触っているだけでもミズナギは回復する。それでも全快しないのは男の体だからだ。女の体と違い、男は放出させてしまう。だからナツキの体を利用したが、今、ナツキはここにいない。

 肌に唇が触れると、レイモンドの体の中の水が大きく動き出す。レイモンドがこうなればミズナギも同じだ。

「レイ」

 ミズナギが薄く目を開き、両手でレイモンドの顔に触れた。

「ナツキは死に近いぞ」

「……」

 あの日、ナツキを抱いた時、ミズナギの力は大きかった。ナツキはそもそも命の火が弱いのだと分かってはいたが。

「……レイ。もう余計な真似はするな」

 レイモンドは唇を結んだまま目を閉じる。

「我は死なぬ。どれほどいたぶられても、死ぬような目に遭おうともけして。感情に流されず、お前はゲームを終わらせるために残りを狩れ」

 溜息をついたミズナギを引き寄せてベットに押し倒す。今はただ何も考えずに肌を重ねたい。心配と愛情に溺れていたい。

 ミズナギが死ぬことはないと分かっていても、痛みは感じる。腕が千切れれば美しい顔は苦痛に歪む。そんなものは見たくない。ナツキをもう一度抱ければミズナギは全快し、全てを終わらせて天界に帰ればいい。そうすればミズナギの力は全て戻る。ナツキからガワを取り戻す必要などはない。

 ……しかしナツキを抱けば、一度目とは違う。今、死に近い彼女はレイモンドに近い。生と死ならば力の交わりがないため命は産まれない。しかし死と死ならば……。

 それでも……とレイモンドは思う。ナツキには悪いがレイモンドにとってはそれほどまでにミズナギが大切なのだ。

「レイ?」

 潤んでいる瞳が見つめている。もう随分と長く愛しい人をこの手に抱くことを待ち望んでいたのだ。手放すことはもうない。



 雨の中を走るタクシーが止まり、大きな宗教施設の前に男が一人降りた。

 タクシーを見送り、鳶丸は傘を持ち上げる。塀はそこまで高くはないが、あまり無理をする必要もないだろう。うーん、と考えて、さっき乗っていたタクシーの運転手から譲ってもらった煙草に火をつける。

「なんだこりゃ……不味いな。今時のはこんななのか」

 鳶丸は指先に近くなるまで煙草を吸い、雨の中に放り投げた。

「では、参りますか」

 備え付けられたインターホンを押した。少しして女の声が聞こえると鳶丸は少しだけ声色を高くする。

「突然訪問し申し訳ありません。わたくし、輪廻商会の者です。わたくしどもの社員がこちらにお邪魔しておりまして引き上げに参りました」

「……どなたでしょうか」

「はい、三号と申します。ご迷惑をおかけし申し訳ございません。ご確認にお時間頂きましてもよろしいでしょうか」

「ああ!サンゴさん!そうですか、少々お待ちくださいね」

 跳ねたような女の声がして、門が開く。

「どうぞお入りください。サンゴさんは今、巫女様のお相手をされていて手が離せません、よろしければ中でお話ください」

「恐れ入ります。では失礼いたします」

 鳶丸は門を抜けて入り口にいた信徒に中へと通された。施設の奥の大きな広間に三号はいるらしい。

 ……まったく何をしているのやら。鳶丸は施設を確認しながら、時々会う人たちに会釈し進んでいく。信者達の多くは殆どがキラキラしている。居心地の良い穏やかな空気は鬼にとっても気持ちの良いものだ。

 目的の部屋にたどり着くとドアをノックした。

「はい、お待ちください」

 三号の声がしてドアが開く。三号は鳶丸を見るとくしゃっと笑顔になり、すぐに中に引き入れた。部屋は数人で使えるほどに広く、ベットとテーブルセットが置かれている以外は何もない。ベットには真っ白な女がぽつりと座っている。

「鳶丸様、こちらナツキ様です」

 ナツキは真っ白に濁った目で鳶丸を見る。頭を深く下げると鳶丸も頭を垂れた。

「ナツキ様、鳶丸です」

「はい。三号さんから聞いています。……あの、レイモンドさんやミズナギ様はご無事ですか?」

「ご無事です。ナツキ様のことはお二人から聞いています」

 鳶丸はナツキに今までのことを説明した。三号からも話を聞き、状況があまり良くないことを知るとカーテンの引かれた窓辺にもたれて腕を組んだ。

「なるほど……。あの屍人形もどきか」

「はい。私も目の前で見ましたが、あれは……危険ですね。これから巫女としてナツキ様はアレと会う事になるんですが、彼らの話によると神を作ると」

 三号が眉をしかめるとナツキは不安げに俯いた。

「うん。ナツキ様には三号も俺もいます。それと、鬼のゲームに関わりがあるようなので、いずれお二人もここに来るでしょう。その前にアレとの対面となると考えなければいけません」

 ナツキに近づくと指先で頬に触れる。鳶丸は眉をしかめると三号を見た。

「随分と冷たい……」

 漏れた言葉に三号も頷いた。

「ここへ来た時よりも冷たくなっています。出来れば早くレイモンド様の下へ戻し、あの方の水で暖める必要があります」

「そうだな……。しかし、出るには理由が必要だ。ナツキ様は自ら此処へ来た。それが彼らの真実だ。神の巫女たる何かになっている」

 ナツキはうな垂れると顔を両手で覆った。

「ごめんなさい」

「いいえ、ナツキ様のせいではありません。操られている時、人は無防備です。けしてあなたが何か出来るわけではありません。仕方がないのです」

「……でも」

 ナツキの後悔に鳶丸はそっと彼女の頭を撫でた。

「人は間違うのです。間違うことは悪いことではありません」

「……じゃあ、どうしたら……いいの?」

 すがりつくようなナツキの手を三号が握り、優しく微笑む。

「間違ったのなら正してゆけばいいんです。生きている者はそれが許されています」

 ナツキは小さく頷くと微笑んだ。

「さて……」

 鳶丸は両手を叩くと立ち上がり、三号に視線を投げる。

「こっからは俺らの仕事です。アレがなんであろうとナツキ様を守るためにやれるだけやりましょう」

「はい!」

 二人は向かい合うと両手を繋いで額を合わせた。ひそひそと呟き、目を閉じる。その足元に複数の線が走り、波になり円を描く。ゆっくりと円は光を放ち部屋中に広がった。

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