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21 思惑

 雨が小降りになったものの足元を流れる水は嵩を増している。イツカは隣を歩くカシミヤを見た。彼はやはりどこかおかしく疲れもみせない。イツカが息を乱しているというのに、正常のまま。

 そういえばとレイモンドの話を思い出す。鬼のゲームがなんちゃら話していたが、実際のところ、右から左でよくは聞いていなかった。が、目の前の男はどうやらそれらしいというのが分かって……少し複雑な気持ちになる。

 確か三人殺すとかそんな話をしていた気がする。こんな気の良さそうなおっさんが?まさか……。

 カシミヤの目がこちらを向くとイツカは肩を大きく揺らした。

「すいません……俺、疲れてきてて」

「そうでしょうね。こんな雨です。足もとられますし」

 カシミヤは笑うとすっと膝をついた。

「どうでしょう?私があなたをおぶるのは?」

「え?……いや、そんな」

 動揺するイツカの腕を持ち上げて、カシミヤは背中にひょいと乗せた。

「わっ……」

 軽々とおぶされて驚いたが、彼の顔は平常なので降参した。

「すいません」

「いいえいいえ」

 背中に揺られながらカシミヤの首に視線を落とす。顔は普通の色をしているが、首はまだらで死斑が出ている。

 ……やっぱり……この人。

 まだ少し暖かい背中を見ながら呟く。

「カシミヤさん……」

「なんですか?」

「……死んだ時、悲しかったですか?」

 カシミヤは一瞬言葉を失くしたが微笑を浮かべた。

「……そうですね。苦しかったんですよ、とっても。怖くて苦しくて……助けて欲しかった。けれど自分が出来ないことが悲しかった。悔しかった」

「うん……」

「死んだらね、どこへ行くか考えてたんです。天国にいけるのか?とか。そうしたら案の定地獄でした。未練や多くの事を抱えているとそっちに行くそうです。あ、内緒にしてくださいね?怒られちゃうので」

「あはは」

「そこで鬼に言われたんです。あなたはゲームの参加者になりましたって」

「ゲーム?」

「そうです。地上に降りて三人を殺す。そうすれば私の勝ち。そんなゲームですよ」

「……あの三人ってもう決まってるんですか?」

「いいえ。私は恨んでいるといえば恨んでいます、でもそうでもないことが分かっていて。それで私が出来ることをまずやろうと思いまして。子供を迎えに行く……と」

「ああ……なるほど。あの、子供さんって……確かまだ会ってないですよね?」

 イツカの問いにカシミヤは首を捻る。

「……はい。まあ、顔を見れば分かるんじゃないかと思います」

 どこか曖昧な答えにイツカは言葉を濁した。

「……会えるといいですね」

「ええ」

 雨は次第に強くなっていた。しかしカシミヤの足は止まらず、水が増していても問題がないようだ。イツカは疲れていたのか、うとうと船を漕ぐとそのまま寝てしまった。こてんとイツカの頭が落ちたのでカシミヤは横目に微笑む。

 その優しさは小さな子供に向けられるように暖かかった。




 暗がりの中で蠢く者たちが息を漏らしている。狐の顔をした男は欲を満たすと上に乗っていた女を放り出して、少し離れた場所にいた赤ん坊を抱き上げるとすうと眠りについた。その瞬間、男の体はぶくぶくと太り、元のでっぷりした体に戻る。

 疲れて倒れていた女たちは、傍にいたはずの男を捜して辺りを見回したが、赤ん坊を抱いているでっぷりした男に気付き、キャアと悲鳴を上げて部屋を出て行った。

 男と赤ん坊だけになった部屋で、赤ん坊はすうっと目を開ける。涎をたらしながら眠る男の顔を見て、小さく動くと男の腕の中から転げ落ちた。

 やはり体はあまりうまくは動かない。両手足をバタバタさせてみるも重く、落ちた瞬間に後頭部を強打したため、ずきずきと痛んだ。

 赤ん坊は小さく舌打ちをして、動くのを止めた。どちらにしろやはり動けはしない。この体は不自由だ。といっても先ほどの男の体はあまり居心地が良くない。できればもっと……。

「うん……」

 胡坐をかいて寝ていた男が目を覚まして、自分が全裸であることに気付くとすぐさま服を着る。そして床に転がっている赤ん坊を抱き上げると苦笑した。

「……ああ、悪かった。痛かったねえ」

 赤ん坊はそれを聞いて口を開いた。

「巫女は?」

「え?」

 男はきょろきょろと辺りを見回すと、肩を降ろした。どうやら赤ん坊が話しているとは思っていないらしい。

「おい、お前」

 赤ん坊は先ほどより少し低い声で言った。

「巫女はどうした?」

 青い顔をして男が赤ん坊を見下ろす。その額には汗が浮かんでいる。

「何を驚いている?お前は我が誰だか忘れたのか?」

「そんな!滅相もない!わかっております!神様!」

 赤ん坊を抱いている手が震えている。これは畏怖かそれとも。

「我が呼んだ巫女はどうした?」

 男は背筋をぴっと伸ばして、頭を何度も下げた。

「はい、施設におります。今はまだ疲れておられるようで……」

「呼んで来い。あと若い男もだ」

「はい?」

「おらんのか?」

 ええと……と男はしどろもどろ声にした。

「若い男はおりません……殆どが老人で私が一番若いかと……」

 赤ん坊の小さな舌打ちに男は目を見開いた。

 まさかここまで違うとは思いもしなかったんだろう。今まではただの赤ん坊で喋りもしなかったのだから。

「……私では……役不足でしょうか?」

「お前では子が成せんからな」

 男はやはりと笑うと赤ん坊に微笑みかけた。

「あなたのお体は私が作ったのです。だからご心配はいりません」

 ……この男はアホなのか。赤ん坊は目を細めると男を見る。自信満々の顔は自分が神にも相応しいというわけなんだろう。しかし背に腹は変えられん。

 赤ん坊は溜息をつく。

「仕方ない……善処しよう」

 どちらにしろこの赤ん坊の体は棄てる必要がある。中にいる虫が悪さをしていて、いずれ食いつくす。あの双子すら融けて形をもたなくなる。

 この男の中に入り、だらしない体はともかく、自由に使える体は欲しい。

 まあ……どちらにしろ長くはもたないが。

「巫女を連れてきたら我を呼べ」

 赤ん坊はすうっと目を閉じた。すうすうと寝息を立てて腕に抱かれている。男はホッとしたのか息を吐くと赤ん坊の腫れた頭を撫でてやり、笑った。

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