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7/21

第7話 その商品、売りません


「レオンさん! 大変です!」


朝、店の扉を開けた瞬間、ミロが飛び込んできた。


両手には、いつものように小さな籠を抱えている。


ただし、今日は野菜ではなく、丸めた紙を持っていた。


「どうした、ミロ。そんなに慌てて」


「町の広場に、こんなものが貼ってありました!」


差し出された紙には、王国の紋章が押されていた。


『通達』


王国商務局は、魔王軍への不正な物資供給に関する調査を開始した。


調査対象となる商人は、指定された物資の販売および搬出を一時停止すること。


違反した場合、営業許可の取り消しを含む処分を検討する。


そして、最後に。


――対象商人:レオン商店。


「……なるほど」


俺は紙を読み終え、机の上に置いた。


「なるほど、じゃありません!」


ユリウスが声を上げた。


「営業許可を取り消すと書いてあるんだぞ!」


「まだ取り消されたわけじゃない。検討すると書いてある」


「同じようなものだろう!」


「いや、違う。検討と決定では意味が違う」


「そんな細かいことを言っている場合か!」


朝から元気な勇者様である。


アリシアは洗い終わった皿を棚に置き、紙を覗き込んだ。


「商務局が動いたということは、昨日の件が正式に報告されたのだろうな」


「おそらく」


「どうする?」


俺は帳簿を開いた。


食料の調達状況は、昨日からほとんど変わっていない。


穀物、豆、干し肉、塩。


予定していた量の七割ほど。


注文期限は、今日の夜。


そして、搬出許可は出ていない。


「まずは、商務局に確認する。何が禁止されているのか、具体的に聞いてみるよ」


「それで許可が出なかったら?」


ユリウスが尋ねた。


「そのときは、そのときに考える」


「お前はいつもそうだな!」


「ほかに、いい方法があるか?」


ユリウスは黙った。


俺は苦笑した。


「心配してくれてありがとう。でも、今は慌てても仕方がない。まずは、やれることから片づけよう」


そう言って、俺は店の扉を開けた。


その瞬間。


店の前に、一台の立派な馬車が止まった。


金色の装飾。


磨き上げられた車輪。


側面には、見覚えのある麦穂と天秤の紋章。


ベルク商会だ。


馬車から降りてきたのは、主人のドランだった。


そして、その後ろには、黒い外套を着た男が二人。


「おはよう、レオン君」


ドランは、昨日までとは違う笑顔を浮かべていた。


「今日は、君にとって悪くない話を持ってきた」


俺は、少しだけ警戒した。


大きな商会が、朝一番に小さな店へやってくる。


しかも、王国の通達が出た直後だ。


いい話である可能性は、かなり低い。


「どのようなお話でしょうか?」


「立ち話も何だ。中で話そう」


ドランは、当然のように店内へ入ろうとした。


俺は、扉の前から動かなかった。


「申し訳ありません。開店準備中なので、まずはご用件を伺えますか?」


ドランの笑顔が、一瞬だけ崩れた。


「……相変わらず、商売人らしくない男だな」


「よく言われます」


「では、単刀直入に言おう」


彼は懐から書類を取り出した。


「君が集めた食料を、我がベルク商会で買い取ろう」


「買い取り、ですか?」


「そうだ。穀物も豆も、干し肉も、すべてだ。相場より高く買い取ってもいい」


俺は書類を受け取った。


提示された金額を見て、思わず目を疑った。


相場の二倍近い。


これまで俺が支払った仕入れ代金を差し引いても、かなりの利益が出る。


店の資金繰りに苦労していた身としては、魅力的な条件だった。


「……なぜ、こんな高値で?」


「需要があるからだよ」


ドランは笑った。


「王国軍も、食料を必要としている。魔王軍へ渡すくらいなら、我々が買い取り、王国に供給した方がよほど有益だ」


「王国軍へ供給するのですか?」


「その通り」


「では、買い取った食料は、どこへ運ぶ予定でしょうか?」


「それは商会の仕事だ。君が気にすることではない」


俺は書類を机に置いた。


金額だけを見れば、悪くない話だ。


むしろ、今の俺にとっては救いに近い。


魔王軍への注文を果たせなくても、仕入れ代金を回収できる。


農家にも支払いができる。


店の運転資金も確保できる。


それに、王国との対立を避けられるかもしれない。


「考える時間をいただけますか?」


「もちろん。だが、今日中に返事をしてほしい」


ドランは立ち上がった。


「ひとつ、忠告しておこう。小さな商人が、王国や魔王軍を相手にするのは無謀だ。君には君の身の丈に合った商売があるだろう」


彼は、俺の店を見回した。


「この店を失いたくないなら、賢い選択をすることだ」


ドランたちは、馬車に乗って去っていった。


店内には、沈黙が残った。


     ◇


「……売ればいいじゃないか」


最初に口を開いたのは、ユリウスだった。


「何?」


「食料を売れば、農家にも金を払える。店の資金も残る。王国軍に供給するなら、魔王軍を助けることにもならない」


「そうだな」


「何が問題なんだ?」


俺は、契約書を見つめた。


「まだ、わからない」


「わからない?」


「この条件は、あまりにも都合がよすぎる」


ユリウスは、首をかしげた。


「相場の二倍だぞ。普通なら喜ぶところだろう」


「普通ならな」


俺は、仕入れ帳簿を開いた。


食料を売ってくれた人たちの名前。


それぞれが、何をどれだけ売ってくれたのか。


そして、俺が何を約束したのか。


「俺は、食料を買うときに、何のために使うかを説明した。魔王軍に届けるためだと。そのうえで、売るかどうかを決めてもらった」


「それが?」


「彼らは、納得して売ってくれたんだ。魔王軍を助けたいからじゃない。余っている食料を売りたいから。あるいは、村を襲われるのを避けたいから」


俺は、帳簿を閉じた。


「もし俺が、説明もなく食料を別の相手に売ったら、彼らはどう思うだろう?」


ユリウスは答えなかった。


「もちろん、契約上は俺が所有者だから、売ること自体はできるかもしれない。でも、それで信頼を失ったら、次から誰が俺に食料を売ってくれる?」


「……」


「商売は、今回の利益だけで終わるわけじゃないんだ」


俺は、契約書を持ち上げた。


「それに、王国軍に供給するという話が本当かどうかも確認できていない」


アリシアが静かに口を開いた。


「ドランは、何かを隠していると?」


「断定はできない。ただ、確認する必要がある」


俺は窓の外を見た。


ベルク商会の馬車は、もう見えない。


「この契約書には、食料の最終的な引き渡し先が書かれていない。買い取った後の使い道について、こちらは一切関与できないことになっている」


「だが、商売とはそういうものじゃないのか?」


ユリウスが尋ねた。


「売った商品を、買い手がどう使うかまで、売り手が責任を持つ必要はないだろう」


「その通りだ。すべての用途を確認することはできない」


俺はうなずいた。


「でも、今回は事情が違う。最初から用途を説明し、その用途を前提に集めた食料だからな」


ユリウスは、難しい顔をした。


「……それでも、店を守るためには、金が必要だ」


「そうだな」


俺は苦笑した。


「だから、簡単には決められないんだよ」


     ◇


昼前。


店に、見知らぬ男がやってきた。


茶色の外套を着た、痩せた男だった。


男は店内を見回し、俺に近づいてきた。


「レオンさんですね?」


「はい」


「私は、ベルク商会の者です。主人から、追加の条件をお伝えするように言われました」


彼は一枚の紙を差し出した。


「今回の取引が成立すれば、今後一年間、ベルク商会から優先的に商品を仕入れられるようにします。卸値も、通常より安く設定しましょう」


俺は、紙を受け取った。


これもまた、魅力的な条件だった。


小さな店にとって、仕入れ価格は死活問題だ。


安く商品を仕入れられれば、販売価格を抑えられる。


客も増える。


売上も伸びる。


将来的には、店を大きくすることもできるかもしれない。


「……すばらしい条件ですね」


「そうでしょう?」


男は笑った。


「主人も、あなたの商才を評価しているのです。今回の取引さえ成立すれば、あなたもベルク商会の仲間として、安心して商売を続けられる」


「ひとつ、質問してもいいですか?」


「何でしょう?」


「もし、今回の食料を売らなかった場合、今後の仕入れはどうなりますか?」


男の笑顔が、わずかに固まった。


「それは……通常の取引条件に戻るだけです」


「通常の取引条件というのは?」


「我々も商売ですからね。取引先を選ぶ自由があります」


なるほど。


つまり、今回の取引を断れば、今後の仕入れで不利になる可能性があるということだ。


「わかりました。主人に、検討すると伝えてください」


男は満足そうにうなずいた。


「賢明な判断を期待しています」


彼が帰ったあと、俺は長いため息をついた。


利益を提示し、将来の取引を約束し、断れば不利益が生じるかもしれないと示唆する。


交渉としては、よくできている。


相手の弱みを見つけ、そこを突く。


商売の世界では、珍しいことではない。


だが、俺は、このやり方が好きではなかった。


いや。


好き嫌いの問題だけではない。


ここで一度、相手の都合に合わせてしまえば、次も同じことを求められるかもしれない。


そして、いつか自分の店で、客にも同じことをするようになるかもしれない。


「……それだけは、嫌だな」


俺は、壁に貼られた規則を見上げた。


盗みは禁止。


暴力は禁止。


種族による差別は禁止。


商品に問題がある場合、確認を拒否しない。


どれも、特別なことではない。


当たり前のことばかりだ。


けれど、その当たり前を守るためには、時に利益を諦めなければならない。


俺は、もう一度、契約書を開いた。


そして、余白に書き込んだ。


『食料の最終的な引き渡し先を明記すること』


『当初の用途を変更する場合、売り手の同意を得ること』


『契約内容に変更がある場合、双方の合意を必要とすること』


これで、相手が受け入れるとは限らない。


それでも、俺は条件を明確にしたかった。


     ◇


午後。


俺は、食料を売ってくれた農家を訪ねた。


最初に向かったのは、ミロが紹介してくれた北の村だった。


村の入口では、老人が畑の手入れをしていた。


「こんにちは」


「おや、レオンさん。どうしたんだい?」


「実は、集めた食料について相談がありまして」


俺は、ベルク商会から買い取りの提案を受けたことを説明した。


「……そうかい」


老人は、しばらく黙っていた。


「正直に言うと、金額だけなら、そっちに売った方がありがたい」


「そうですよね」


「この村も、余裕があるわけじゃない。冬に向けて、蓄えを増やしておきたいんだ」


「それは、当然だと思います」


俺は、頭を下げた。


「だから、皆さんの意思を確認したくて来ました。俺は、魔王軍へ食料を届けるつもりで買い取りました。でも、皆さんが別の使い道を望むなら、無理に引き留めるつもりはありません」


老人は、驚いた顔をした。


「……あんたは、損をしてもいいのかい?」


「損は、したくありません」


俺は正直に答えた。


「店を続けるには、お金が必要です。利益も必要です。でも、皆さんに黙って話を変えることはしたくないんです」


老人は、しばらく俺を見つめていた。


やがて、ゆっくりとうなずいた。


「わかった。村のみんなにも聞いてみよう」


その日のうちに、俺は取引した農家を一軒ずつ回った。


答えは、さまざまだった。


「金額が高いなら、そちらに売りたい」


「魔王軍に渡すと約束したから、最後まで届けてほしい」


「村を襲われるのは困るが、王国軍に使われるのも不安だ」


それぞれに事情がある。


誰も、同じ考えではない。


俺は、すべての意見を帳面に記録した。


結果として、ベルク商会へ売却することに同意した人もいた。


反対に、当初の約束どおり魔王軍へ届けてほしいと希望する人もいた。


そして、どちらにも決められない人もいた。


全員の意思をひとつにまとめることはできなかった。


それでも、少なくとも、俺が勝手に決めていいことではないとわかった。


     ◇


夕方、店に戻ると、カウンターの上に一通の手紙が置かれていた。


差出人は、王都商務局。


俺は封を切った。


『調査の結果、現時点では、貴店による食料の販売が直ちに違法であるとは断定できない』


そこまで読んで、俺は息を吐いた。


続きがあった。


『ただし、戦争状態にある魔王軍への大規模な物資供給については、王国の安全保障上、慎重な判断を要する。許可が下りるまで、対象物資の搬出停止を継続する』


つまり、何も変わっていない。


「……そうか」


俺は手紙を机に置いた。


そのとき、店の扉が開いた。


ドランだった。


「返事を聞かせてもらおうか」


彼は、契約書を見ずに言った。


「はい。こちらが、俺の回答です」


俺は、修正した契約書を差し出した。


ドランは目を通し、眉をひそめた。


「最終的な引き渡し先を明記しろだと?」


「はい」


「用途を変更する場合は、売り手の同意を得る?」


「当初の説明と異なる取引になる可能性があるので」


「馬鹿な。そんな条件を飲めるわけがないだろう!」


ドランは契約書を机に叩きつけた。


「我々は、商品を買い取ると言っているんだ。買い取った後の使い道まで、君に指図される筋合いはない!」


「おっしゃる通りです。一般的な商品であれば、そうでしょう」


俺は、静かに答えた。


「ですが、今回の食料は、最初から魔王軍へ届けるために集めたものです。取引の前提が変わるなら、条件も確認したいんです」


「ならば、取引は不成立だ!」


「わかりました」


俺は契約書を引き寄せた。


「今回の買い取りは、お断りします」


ドランは、信じられないものを見るような顔をした。


「……本気か?」


「はい」


「相場の二倍だぞ!」


「承知しています」


「今後の仕入れ条件も、改善すると言ったはずだ!」


「それも、承知しています」


ドランは、怒りに顔を歪めた。


「後悔するぞ。君のような小さな商人が、我々に逆らって生き残れると思うな!」


「逆らいたいわけではありません」


俺は、頭を下げた。


「今回は、条件が合わなかった。それだけです」


ドランは、しばらく俺を睨みつけていた。


やがて、契約書を乱暴に押し返し、店を出ていった。


扉が閉まる。


俺は、椅子に座り込んだ。


「……はあ」


思った以上に疲れた。


正直、今すぐ契約を結んでしまいたい気持ちもあった。


二倍の金額。


将来の仕入れ優遇。


店の経営だけを考えるなら、魅力的な話だった。


それを、自分から断ったのだ。


「レオン」


アリシアが、静かに声をかけた。


「後悔しているか?」


俺は、少しだけ考えた。


「していない、と言えば嘘になる」


「そうか」


「でも、断ってよかったと思っている」


俺は、苦笑した。


「商売人としては、まだまだだな。もっと上手なやり方があったかもしれない」


「それでも、決めたのだろう?」


「はい」


アリシアは、ゆっくりとうなずいた。


「なら、それでいい」


その言葉は、不思議と心に響いた。


     ◇


夜。


店を閉める直前に、ユリウスが帰ってきた。


「レオン! 大変だ!」


「今度は何だ?」


「ベルク商会が、町の商人たちに触れ回っている。お前の店とは取引するなと!」


「……なるほど」


「なるほど、じゃない! このままでは、食料どころか、普通の商品まで仕入れられなくなるぞ!」


俺は、カウンターに肘をついた。


予想していたことではある。


だが、実際に起きると、やはり厳しい。


「ほかの仕入れ先を探すしかないな」


「簡単に言うな!」


「簡単じゃないよ。でも、探さなければ何も始まらない」


俺は帳簿を開いた。


これまで取引した農家。


市場の小さな商店。


町の外の生産者。


一軒ずつ、連絡を取るしかない。


時間もかかるし、手間もかかる。


それでも、ひとつの商会に依存しない仕入れ網を作ることは、長い目で見れば必要だ。


「……レオン」


ユリウスが、静かに言った。


「お前は、本当に店を続けるつもりなんだな」


「もちろん」


「王国に目をつけられても?」


「うん」


「大商会に嫌われても?」


「そうだな」


「魔王軍の注文を果たせなくても?」


その質問には、すぐに答えられなかった。


俺は、帳簿を見つめた。


期限は、今夜だ。


集めた食料は、まだ町の倉庫にある。


搬出許可は出ていない。


このままでは、契約を果たせない。


「……できることを、最後までやる」


俺は顔を上げた。


「それで駄目なら、ヴァルガに事情を説明する。約束を守れなかったことは、きちんと謝る」


「魔王が、そんな簡単に納得すると思うか?」


「わからない」


俺は苦笑した。


「でも、嘘をつくよりはいいだろう」


そのとき。


店の扉が、静かに開いた。


「その通りだ」


低い声。


黒い外套。


頭には、いつものフード。


魔王ヴァルガだった。


「……ヴァルガさん?」


俺は立ち上がった。


「どうして、ここに?」


ヴァルガは、カウンターの前に座った。


「注文の期限が近いのでな。状況を確認しに来た」


俺は、正直に説明した。


食料は集まったが、王国の許可が出ていないこと。


大商会から買い取りの提案を受けたが、条件が合わず断ったこと。


その結果、仕入れ先にも圧力がかかり始めていること。


ヴァルガは、最後まで黙って聞いていた。


「……そうか」


彼は、短く答えた。


「すまない。私の注文が、君の店に迷惑をかけている」


「いえ。注文を受けたのは俺ですから」


「だが、君はまだ小さな店を始めたばかりだ。これ以上、無理をする必要はない」


ヴァルガは、カウンターに銀貨の袋を置いた。


「契約は解除して構わない。集めた食料は、君が自由に売ればいい」


俺は、銀貨の袋を見つめた。


魔王が、こちらを気遣っている。


それは、意外なことだった。


「……いいんですか?」


「ああ。私は、君に店を失ってほしいわけではない」


ヴァルガは、静かに言った。


「私の兵士たちが空腹で苦しんでいるのは事実だ。だが、それを理由に、君の生活まで壊すことはできない」


俺は、しばらく黙っていた。


そして、銀貨の袋を押し返した。


「ありがとうございます。でも、契約は解除しません」


ヴァルガが、目を見開いた。


「なぜだ?」


「まだ、期限が残っていますから」


俺は、帳簿を開いた。


「今夜のうちに、もう一度、搬出許可を求めてみます。それでも駄目なら、約束どおり事情を説明します」


「君は……」


ヴァルガは、何か言いかけてやめた。


そして、ゆっくりと笑った。


「本当に、変わった商人だな」


「よく言われます」


俺は、立ち上がった。


「もう一度、役所へ行ってきます」


ユリウスが、慌てて声を上げた。


「今からか!?」


「今からだ」


「もう夜だぞ!」


「それでも、やれることはある」


俺は上着を羽織った。


「ヴァルガさん。少しだけ、待っていてください」


魔王は、静かにうなずいた。


「わかった」


俺は扉を開けた。


外には、夜の冷たい風が吹いていた。


だが、足は止まらなかった。


約束を守るために。


この店を続けるために。


そして、いつか誰かに言ってもらいたい言葉のために。


――お前がいてくれて、よかった。


俺は、夜の町へ走り出した。

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