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第20話:発酵術師

 ウェルズの地下に、ようやく静寂が戻った。


 俺たちはその場にへたり込み、大きく息を吐いた。


【浄化された瘴気由来の魔素を吸収しました】


【レベルが上昇しました】


【〈発酵術Ⅱ〉が〈発酵術Ⅲ〉へ成長しました】


【新規称号を獲得しました】


【称号のアクティブ化には授与儀礼が必要です】


 色々とログが出るが、他に気にするべきことが多すぎる。


「お? へへ~ん。どうも活躍しすぎちゃったみたいだぜェ。称号ゲットだ!」


「わ、私も称号、いただきました……!」


「俺も獲得したよ」


「え~、なんだよ。アタシだけじゃねェのか。槍のおっさんもか?」


「ああ。俺は特に何もしてないんだがな」


「いえ、ハンクさんには命を助けられました。感謝してもしきれないです」


「ふん」


 実際のところ、今回は本当に危なかった。


 俺は改めて、さっき立っていた場所――瓦礫の山を見る。


 数秒遅れていたら、命を落としていただろう。


 思わず身震いする。


「本当に、全員無事で良かった。イーストも――」


 上を見ると、イーストが纏っていた白金の泡が収束していき、一つの泡となり身体を包んだ。


 泡は中の影と共に小さくなっていき、最後に弾けると、いつもの小さな精霊姿のイーストが現れた。


 イーストは羽をパタつかせながらゆっくりとこちらへ降りてきて、俺の腕へと収まった。


「イーストも、お疲れ様。君がいなければ駄目だった」


 イーストが片手を掲げてきたので、俺も指で小さなハイタッチをする。


 がさがさ、と天井の伝声口からノイズが走った。


『特別清掃員の皆さま、お疲れ様でございます。上水路の送水圧低下、および揚水ゴーレムの完全停止を確認いたしました。すぐに職員が迎えに参りますので、安全な場所でお待ちくださいませ。ヒーヒヒヒ』


 ぶつ、と伝声が切れた。これにて業務終了だ。


 揚水室はゴーレムによってめちゃくちゃに壊されて、もはや安全な場所があるとは思えないが、文句は言うまい。


 東側――詰め所とは別の入り口に通じる保守門で、錠の外れる音がガチャリと響いた。


 同時に、たくさんの職員たちが入ってくる。


 俺は最後に、胸部が崩れたゴーレムを見上げた。


 感傷に浸ろうかと思ったのだが、復旧までの日数や公費が頭をよぎり、早々に考えるのをやめた。


 職員たちに案内されて地上へ戻ると、すでに日が高く昇っていた。


 中央区の街では、水管理組合の職員やギルド職員、ほかにも見覚えのない制服を着た人々が慌ただしく行き交っている。


 渦中の人物が自分であることを考えると少し胃がきゅっとなったが、それを帳消しにしてくれるのは――


「オオコウジさん!」


「コリィさん。いやぁ、地下施設、大変なことになっちゃいました」


「聞き及んでおります。とにかく、皆さまがご無事で本当に良かった……! ギルドの応接室を開けておりますので、ご案内いたします」


 俺たちは犬耳を伏せっぱなしのコリィさんに連れられ、ギルドの建物へと移動していった。


 救護班による検査と、身体や装備の洗浄を終えたころ。ホッシュが、俺とイリスが詰め所に置いていた普段着を届けてくれ、ようやく着替えることができた。


 俺たちは、ギルドの広い応接室へ通された。


 そこには、磨き上げられた大きなテーブルと、元の世界でも座ったことがないほどふかふかなソファが置かれていた。


 ソファに腰を下ろした途端、身体が深く沈み込んだ。


「うひゃあ~、なンだこの椅子。偉いヤツらって毎日こんなのに座ってンのか? 逆に座りにくいぜ」


 イリスが背中まで沈み込み、起き上がろうと手をわたわたとさせている。


「うーん、さすがにこれはお客さん用なんじゃないかな」


「ふふ、フカフカ鳥の羽毛ですね。なかなか座る機会のない、高級ソファですよ」


 ニナとハンクは浅く腰掛け、運ばれた紅茶を飲んでいる。


 イーストは一人前のサンドイッチを独占しようと、お皿の上に陣取り、むしゃむしゃと食べている。もちろん俺の分だ。


「イーストちゃん、お姉さんになりましたねぇ」


「アタシよりデカくなってなかったか?」


「そういえば、声も初めて聞いたね」


【イースト:サンドイッチに夢中です】


「本人はもう忘れてそうだがな」


 そんな事を話していると、コンコン、とノックが鳴る。


「お休みのところ、失礼いたします」


 コリィさんがトレイに焼き菓子を載せて入ってきた。そして、その後ろからドタドタと――


「押忍! 制御核の魔障反応、消失を確認したっス! 揚水機構の主要部も無事っス! 事故の規模を考えれば、致命的な損傷は避けられたっス! いやぁ、皆さんのおかげっス!」


 無遠慮な足音と大きな声が部屋に響いた。


「ホッシュさん。ゴーレム、あれだけ粉々にしちゃって、大丈夫だったんですか?」


「押忍! バラバラになったのは、制御核を覆っていた石材が中心っス。魔石自体は意外と頑丈っスから! ただ、水管や外装も大きく壊れてるっスから……。今すぐには動かせないっス。普通に直せば、だいたいひと月はかかるっスね!」


 おおう、ひと月か。胃がきゅっと締まった。


「そうですか、これから大変ですね……。職員さんも全員無事でしたか?」


「押忍! 負傷者は軽傷だけっス! コリィ氏とハンク氏がうまく回してくれたおかげで、大きな混乱もなかったっスね!」


 コリィさんの尻尾が、一度だけ横に振れた。


「日の入り前に、現場検分へお付き合い願いたいっス。それまでゆっくり休んでいてくださいっス! では、自分は現場へ戻るっス!」


 再びドタドタと大きな足音を立て、ホッシュは部屋を出ていった。


「私からも、ギルドとしてお話を伺わせてください。まずはオオコウジさんから――」


 それから俺たちは、作戦中に起きたことを一人ずつ順番に聞かれた。


 イリスの盛りに盛った活劇を、コリィさんは半信半疑で聞いていた。とはいえ、今回は大筋で事実だったので、俺も助け船を出してやった。


「なんでアタシの言うことは信じなくて、おっさんの言うことなら聞くんだよ!!」


 と、逆に怒らせてしまったが。


 日の入り前には再び地下へ下り、ホッシュと共に壊れた設備を回りながら、その時どこで何が起きたのかを説明していく。


「押忍! この保守路は、右拳と左拳のどちらで壊されたっスか?」


「ええと……たぶん、左です?」


 戦っている最中は必死だったので、正直まったく覚えていない。


 聞き取りと現場検分が終わる頃には、すっかり日も暮れていた。


 こうして俺たちは、ようやく事後処理から解放された。


「皆で、何か美味しいものでも食べに行こうか」


「そう来なくっちゃなァ! ニジニジマス祭りだ!」


「ふふ、イリスちゃん。この間たくさん食べたばかりだよ」


「ピカピカマスと比べると、微妙な気持ちになっちゃうかもね?」


「なんだよなんだよ、じゃあ、肉だッ!」


「俺も今日は肉がいい。美味い店なら心当たりがある」


「じゃあ今日は、俺が皆にご馳走するよ」


「ッしゃあー! おっさん、太っ腹!」


【イースト:糖分を欲しがっています】


「もちろん、好きに食べてくれ」


 今度こそ、長かった一日が終わった。


 * * *


 一夜明け、街の水場には水音が戻っていた。


 昨日、ホッシュは修復にひと月かかると言っていたはずだ。


 聞けば、昨夜、通りがかった一人の地属性魔法使いが修復を請け負い、崩れた保守路やゴーレムの外装を、あっという間に元通りにしていったという。


 職員たちも夜通し水管と揚水機構を直し、日の出前には試運転まで終えたらしい。


 その魔法使いが要求した報奨は、酒樽三つ。


 世のため人のために行脚をしている人だろうか。


 世の中には、とんでもない人がいるものだ。


 俺たちはギルドの一階奥、昨日とは違った小さな会議室へ集められていた。


「まず、ギャロン一味の捕縛協力に対する報奨です。四名へ、それぞれ銀貨八十枚が支給されます」


 コリィさんが、俺とニナ、ハンクの前へ、銀貨の入った革袋を置いていく。


「こちらがイリスさんの分です」


 ニコニコして両手を差し出しているイリスを前に、コリィさんは革袋を離そうとしない。


「……おい?」


 コリィさんは持っている革袋をそのまま手元に戻した。


「こちら、これまでの未納分の罰金へ全額充当させていただきます」


「はァ!? 全額!?」


 イリスがガタッと椅子から立ち上がる。


「はい。ですが、これで未納金はすべて清算済みとなります」


「そりゃねェだろ~~~!」


 イリスはがっくりと肩を落とした。


 俺もああならぬよう、街のルールを覚えていかなければ。


「続いて、浄化作戦に参加した特別清掃員三名へ、特別報奨として金貨二枚ずつが支給されます」


 今度は俺とニナ、イリスの前へ布が敷かれ、金貨二枚が置かれた。


 金貨一枚は銀貨百枚。つまり、銀貨二百枚分だ。


 イリスがごくりと生唾を呑みこんだ。


「お、おい、コリィ……さん。これは、差し引かれねェよな……?」


「はい。すべてイリスさんのものです」


 イリスが金貨に飛びつき、俺の目の前に掲げてきた。


「だーっはっはっは! 見ろ、おっさん! アタシは金持ちだァ!」


 立ち直るのが早い。それに、俺たちの前にも金貨が置かれていることを忘れているようだ。


 報奨金の清算を終えた俺たちは、そのままステータス鑑定室へ案内された。


「レベル、二十一」


 ギルドのステータス鑑定員の声が響く。といっても、後に控える称号授与式ほど形式ばったものではない。


「す、すごいです、おじさん!」


 ニナとイーストが後ろから、俺のステータスが表示された金属板を覗き込む。


「すごいのかい?」


「あのハンクさんですら、さっき二十になったばかりですよ! おじさん、さすがです!」


「どのハンクさんだ。俺を基準にするな」


 ハンクは相変わらずの仏頂面だ。


 イーストは俺の周りを何周かくるくると回ってくれた。


「アタシの水魔法が、一番すげえはずなンだけどなァ~」


 そうぼやくイリスは、四人の中では最低の十二。ニナも十四だった。


「レベルが全てではありません。確かに魔力総量を増やす要素の一つではありますが、それも鍛錬と比べると影響は小さいです」


 ウェルズへ来た初日にも聞いた説明を、コリィさんが改めてしてくれた。


 レベル一のままラスボスを倒す、なんて縛りプレイもできそうだな。


 だが、この世界にはボスもいなければ、リセットボタンもない。


 そう。ただ俺たちは、配られたカードで勝負するしか――


「筋力十二。耐久十三。敏捷九。魔力二十五。身体能力は成人男性の平均域。魔力は少し高めですね。戦闘スキルの登録はありません」


「お前は、少し鍛錬でもしてみたらどうだ?」


「……そうします」


 ニナがくすくす笑い、イーストも口元を押さえている。


 とはいえ、昨日あれだけ走り回り、全身が悲鳴を上げていたわりに、今朝は思ったほど身体が重くなかった。


 ほんの少しずつだが、レベルが上がった恩恵もあるのかもしれない。


「その他のスキルは、〈毒魔法Ⅰ〉〈毒鑑定Ⅱ〉〈発酵術Ⅲ〉以上です」 


「魔力量はアタシがダントツだな!」


 実際、イリスは四十五で四人のトップ。ニナも三十八と高く、俺とハンクは二十五前後。


 筋力と耐久はハンクが二十五と二十で首位だが、ニナも筋力二十三で肉薄している。毎日重い小麦粉を運んでいるだけのことはある。


 対して、イリスは耐久九。


 どうやら、魔力へ全振りしたような能力値らしい。


「オオコウジさん、魔力二十五もあれば、立派な鑑定員として務められますよ」


「コリィさん、その件なんですが……先日の話、受けさせてください」


 コリィさんが尻尾を振り、にこりと笑った。


「はい、もちろんです。よろしくお願いしますね、オオコウジさん」


 まずは検毒員として、持ち込みの荷物や食材を〈毒鑑定〉する仕事に就きながら、他にもできることを模索していくつもりだ。


 なお、所属は商業ギルドだ。


「それでは、授与室へ参りましょう――」


 俺とニナは、二度目となる儀礼用の上着に袖を通した。今回は、イリスとハンクも一緒だ。


「ハンク、前へ」


「……ああ」


 少し返事が固い。緊張しているのだろうか。


 ハンクは部屋の中央にある台座の前まで行くと、片膝をつき、立てた膝へ腕を置き、静かに目を閉じた。


 こういう所作ひとつひとつに、大人が滲み出るのだ。俺も学ばねばならない。


 話し声が消え、部屋はしんと静まり返った。


 カンッ!


 儀礼官の杖が床を打ち、力強い音が耳を叩く。


 丸い部屋の壁に、ひとつずつ明かりが灯っていく。


「世界が見届けし功績を、ここに証す」


「己が使命を守り、人々を導けり。遠き窮地へ風のごとく馳せ、崩れ落ちる石より命を救いし者」


「汝、ハンクへ――称号〈風槍《かざやり》の守護者〉を授ける」


 世界に祝福され、部屋中に鐘の音が響く。


 守護者。


 自分では何もしていないと言い切った男の働きを、世界はそう呼んだ。

 

 ハンクの足元に光が集まり、足輪となって顕現する。


【称号〈風槍の守護者〉が授与されました】


【報奨〈追風《おいかぜ》の足輪〉を獲得しました】


【救援へ駆ける時、敏捷に大きな補正がかかります】


 ハンクが静かに目を開き、参列席へ戻ってきた。


 続いて呼ばれたイリスにも、同じように功績が読み上げられた。


【称号〈奔流で活路を開きし者〉が授与されました】


【報奨〈澄み水の革袋〉を獲得しました】


【大量の水を蓄え、重さを感じることなく持ち運べます】


「だーははは! よく見てンじゃねェか!」


 いつも通り豪快に笑いながらも、現れた革袋は両手で大事そうに抱えていた。


 次に呼ばれたのは、ニナだった。


【称号〈紅炎と白炎の担い手〉が授与されました】


【報奨〈火守りの胴衣と手袋〉を獲得しました】


【火仕事の際、熱と炎から身を守ります】


 ニナは現れた胴衣と手袋を、胸元へ大事そうに抱えた。


「ふふ、お父さん、称号二つ貰ったよって言ったらびっくりするだろうなぁ」


 今度フレッドに会った時、娘を危ない目に遭わせやがって、と怒られないといいなぁ。


「オオコウジ・ユタカ。台座の前へ」


 最後に、俺の番だ。


 ハンクの所作を思い出しながら、台座の前で片膝をつく。


 ハンクほど様にはなっていないだろうが、立てた膝へ腕を置き、静かに目を閉じた。


 カンッ!


 儀礼官の杖が床を打つ。


「世界が見届けし功績を、ここに証す」


 閉じた瞼の向こうが、少しずつ明るくなっていく。


「目に見えぬ命を見出し、仲間とこれを育みし者。荒ぶる巨像に抗い、街の地下に満ちた災いを清めし者」


 ずいぶん立派にまとめてくれている。


 だが、この流れには覚えがあった。


「汝、オオコウジ・ユタカへ――称号〈街の地下を浄化槽にした者〉を授ける」


 荘厳な鐘の音が、部屋いっぱいに鳴り響いた。


 やはり、そういう呼ばれ方になるらしい。


 世界は相変わらず、格好良い言い方を選んではくれない。


 けれど、今度は前より素直に受け取ることができた。


 足元に小さな光が集まり、革袋を象っていく。


【称号〈街の地下を浄化槽にした者〉が授与されました】


【報奨〈フローラの革袋〉を獲得しました】


【魔素を帯びた種菌や培養試料の菌叢を、採取時に近い状態で保ちます】


 革袋を手に、皆のもとへ戻る。


 イーストが当然のように、俺の肩へ降りてきた。


 儀礼官が杖をもう一度床へ打った。


 壁の灯がひとつずつ消え、授与式は静かに幕を閉じた。


 儀礼用の上着を返し、皆で城門へ向かった。


 朝の城門前には、モルトン村へ戻る荷車が待っていた。


 ニナとハンクの荷物は、すでに荷台へ積まれている。


「二人とも、本当にお世話になりました。ニナとハンクさんがいなければ、今頃どうなっていたか」


「ふん。お前が盗賊の類じゃなくて良かったよ」


「最初はびっくりしちゃいました。突然森の中にいたんですもん。ふふふ」


 いきなり丸焼きにされかけたことは、今でもよく覚えている。


「また、遊びに来ますね。今度は、パ、パン……を、ひぐっ、イーストちゃん、にも……」 


「あぁ、いつでも来てくれ」


「お、おじざぁん!! ぜ、ぜっだい、おいじい、パンを、持ってぎますがらぁ~~~」


 ニナがついにわんわんと泣きだしてしまった。


 イーストは俺の肩から飛び立ち、小さな両手でニナの涙を拭おうとしていた。


 やめてくれ、俺まで泣いてしまう。歳を取ると涙腺が弱くなるんだ。


「ニナ、大丈夫。俺たちはこの街で待っているよ」


「びえ~~~~~ん」


 イリスは両手を頭の後ろで組み、ニヤニヤと見ている。


 イーストは名残惜しそうにニナから離れ、俺の肩へ戻ってきた。


「行くぞ、ニナ」


 ニナはハンクにそっと背中を押され、荷車へ向かっていった。


 ニナの泣き声が少しずつ遠ざかる。


 ハンクは振り向き、こちらに歩いてくると、無言で右腕を差し出した。


 俺も右腕を上げ、互いの前腕をぶつけ合う。


 どんっ、と鈍い音がした。


 加減のない一撃に、俺は一歩よろめく。


 顔を上げると、ハンクが歯を見せて笑っていた。


 俺も、同じように笑い返した。


 そうして、ニナとハンクはモルトン村へと帰っていった。


 * * *


 数日後。


 俺はギルド会館二階の素材鑑定室で、鑑定机に広げられた見覚えのあるデスベアの毛皮を眺めていた。


 札には「採取地:モルトン村・北の森」と書いてある。


「オオコウジさん、その次はこちらの熟成チーズと干し肉を。それが終わったら三階の薬師ギルドでポーションの毒鑑定依頼が四件。夕方に一件、商業区へ入ってすぐの開店を控えた飲食店で、衛生講習の依頼が入っています」


「わかりました。すぐに終わらせますね」


 コリィさんはぱたぱたと尻尾を振り、にこりと笑顔を返すと、忙しそうに次の現場へと向かって行った。


 俺はデスベアの毛皮の鑑定結果を札に書き記し、鑑定済みのトレイに置いた。


 続いて、用意されたチーズの匂いを嗅ぎ、外観や形状、保存状態を確認していく。


「こら、イースト。触っちゃだめだよ」


【イースト:お腹が空いたようです】


「気持ちはわかる。よし、じゃあポーションの鑑定を終えたら、昼食にしようか」


 イーストはくるんと縦に回った。

 

 発酵術師が何なのか。


 今なら少しくらいは、胸を張って答えられる気がした。


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