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婚約者に店を売られたので、従業員全員と向かいに新しい店を開きます  作者: 渋谷 爽月


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45/50

第45話 大きくする前に、守りたいもの

 マルタは最初に、賛成できる点を挙げた。

 設備が整うこと。販路が広がること。技術を教える仕事が増えること。


「でも、二か月では、今の店を空けられない」


 テオは顔を上げた。


「僕が全部できれば」

「あなた一人に、全部をさせる店ではないでしょう」


 彼は黙り、頷いた。

 ポールは、店舗間の運搬に必要な時間を書いた。

 ニナは接客を教える人と、休日の交代要員を挙げる。


 私は、利益の見込みだけを読ませなくてよかったと思った。

 夢は、負担の欄を書き足すと小さくなるのではない。

 実行できる形に、少し近づく。


「今回は、この日程では受けません」


 私は結論を出した。


「ただ、半年後に向けて人を育てる計画を提案します。今の店が私かマルタ一人の不在で止まらなくなってから、次へ進みたい」


 全員がその場で安心したわけではない。

 テオは、自分の力不足が理由なのかと聞いた。

 私は首を振った。


「店の仕組みが、まだ育っていないのよ。私も含めて」


 新人を迎える案には、マルタが条件をつけた。忙しい日の間に、ついでに教えることにしない。練習の材料費も確保する。

 私は仕込み表に、指導の時間を先に入れた。利益が残ったら育てるのでは、いつまでも後回しになる。

 テオは自分が覚えた手順を、初めて読む人にも分かるよう書き直すと申し出た。

 半年後の店は、今日より人が増えるだけではない。人に教えられる仕事が増える。その準備が始まったことを、私は図面の裏へ書き残した。


 ガスパールへの返事には、再検討できる条件を添えた。

 彼は年の祝いへの出店は別案で進めるが、後日相談する余地は残すと答えた。

 機会は、少し遠くなった。

 それでも、店は明日も開く。


 帰り際、マルタが言った。


「断ったことより、次の準備を始めたことが、大事だね」


 私は新人を募るための紙を出した。

 経験者でなくてもいい。教える時間を、先に確保する。


 その時、アドリアンから便りが届いた。


『地方への試験便を、三週間後に出すことにしました』


 私は紙を持ったまま、笑った。

 彼も、自分の夢を、予定に変えたのだ。


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