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婚約者に店を売られたので、従業員全員と向かいに新しい店を開きます  作者: 渋谷 爽月


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第44話 二号店を出しませんか

 提案は、街の西側への出店だった。

 ローデン商会が店舗と設備を用意し、リュミエールが商品と製造指導を担当する。

 売り上げに応じた支払い。店名を使う範囲も、明記されていた。


「前回より、ずっと分かりやすいですね」


 私が言うと、ガスパールは苦笑した。


「前回の反省は、しました」


 今の店を売る条件ではない。

 うまくいけば、融資の返済も早まる。従業員の給料を増やせるかもしれない。

 私は胸が高鳴るのを感じた。


「開店予定は、二か月後ですか」

「年の祝いに間に合わせたいので」


 厨房へ目を向ける。

 マルタが指導に出れば、今の店の製造が減る。

 テオだけへ任せるには、まだ教えることがある。

 私が二店舗の管理をすれば、開発や接客は誰が担うのだろう。


「検討のお時間をいただきます」


 ガスパールが帰った後、私は紙に利益の見込みを書いた。

 数字は魅力的だった。

 その横へ、必要な人と時間を書く。

 こちらは、足りなかった。


 私は二号店の図面を、二階の机へ広げた。今の店より広い厨房。大きな窓。家賃の負担も、一部を商会が持つ。

 嬉しくて、もう菓子を並べている自分を想像した。そんな時ほど、欠けているものが見えなくなる。

 私は図面へ、立つ人の名前を書いてみた。空いた場所を、自分の名で二度埋めそうになって止まる。私は二人にはなれない。

 夢を見ないためではなく、夢の中で働く人を消さないために、翌日の打ち合わせへ図面を持っていくことにした。


 アドリアンにも書面を見てもらった。

 彼は条件を確認したが、反対も賛成もしなかった。


「融資の条件が、あなたに拡大を急がせるものになっていないか、それは確かめたいですね」

「返済のために、受ける必要はありません」

「なら、あなたの店の計画として考えられます」


 私は紙を二枚に分けた。

 今、開く計画。

 半年後、人を育ててから開く計画。


 翌朝、五人で相談する時間を取った。

 大きくなれる機会と、大きくなるべき時は、同じとは限らなかった。

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