第43話 勝った翌朝も、仕込みはある
権利の訂正が出た翌朝も、林檎はひと箱ずつ剥いた。
蜂蜜は量り、粉はふるう。
世界が変わったような気がしていたのに、皮を剥く手順は変わらなかった。
ニナが予約を読み上げる。
ポールは箱を積み、テオは小石を焼く。
マルタは私の切った林檎を見て、今日は少し厚いと言った。
「昨日の疲れが、指へ来ているね」
「そうかもしれない」
「なら、半分は私が」
私は譲った。
昔なら、大丈夫だと言い張っていた。
午前、予約を取り消した客の一人が戻ってきた。
「疑ってしまって、ごめんなさい」
私は首を振る。
「分からないことがあったら、聞いてください。説明できることをお伝えします」
無理に以前と同じ量を買ってもらおうとはしなかった。
彼女は小さな箱を選んだ。
その箱が、また来る理由になればいい。
常連のひとりは、訂正文を読んでいなかった。いつもの菓子を頼み、最近少し大きさが揃ったと褒めてくれた。
テオが、その日の計量を担当したのだと言う。客は、そうなの、と彼へ笑った。
私たちが長く悩んだ争いを知らなくても、目の前の菓子を喜ぶ人はいる。店の全部が、私の問題を中心に動いているわけではない。
私はその当たり前に救われた。今日のお客様に必要なのは、今日のおいしさと、時間どおりの受け渡しだった。
昼過ぎ、旧店の若い職人が買い物に来た。
向かいの店は品目を変え、独自の商品を増やすという。
「蜂蜜ケーキを作れと言われなくなりました」
彼の笑顔を見て、私は少し安心した。
向かいが潰れなければ自分たちは勝てない、とは思いたくなかった。
夕方、アドリアンが来た。
彼は返済予定を確認し、期日どおりの入金を記録する。
少し早く返せるのではと尋ねると、運転資金を見てからと答えた。
「余裕ができた時ほど、全部使わない方がいい」
私は頷いた。
勝った気持ちで、また無理を始めてはいけない。
その日の最後、ガスパールから厚い封筒が届いた。
今度の表紙には、提携提案、とある。
私はすぐに開かず、先に、最後の林檎を切り終えた。




