↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者に店を売られたので、従業員全員と向かいに新しい店を開きます  作者: 渋谷 爽月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/50

第40話 元婚約者の最後の提案

「やり直そう」


 セドリックは、箱を机へ置いた。

 私は開けなかった。


「店のことも、誤解が多かった。君のお父上とも話した。結婚すれば、権利の説明を整えられる」


 言葉の最後で、私は彼の顔を見た。


「結婚して、過去の説明を正しかったことにするのですか」

「今後のためだよ」


 彼は、ここが以前より狭いと言った。

 設備が足りないとも。

 もっと大きい店を用意できると、約束した。


「向かいの店を売る前にも、私のためと言いましたね」

「だから、今回は相談している」

「では、私の返事を聞いてください。結婚しません」


 彼は箱を押した。


「そんなに僕が嫌いになったのか」


 嫌いだと言えば、傷ついた顔をされる。

 まだ好きだと言えば、戻れると思われる。

 私は、その二択から離れた。


「一緒に人生を決める相手として、あなたを選びません」


 彼は、昔一緒に出かけた日のことを話した。私はその日の川辺と、帰りに買った花を覚えていた。楽しかったことまで、嘘だったことにする必要はない。

 ただ、楽しかった記憶があるからといって、次の人生を同じ相手へ預ける必要もなかった。


「その日は、私も嬉しかったです」


 そう答えると、彼は一瞬期待した顔になった。


「でも、今日の返事は変わりません」


 私は続けた。良い記憶を認めることと、戻ることを、同じにしたくなかった。


 奥で、ニナが紙を整える音がした。

 私には仲間がいる。けれど、この返事を言うのは私だった。


「僕がいなければ、誰が君の面倒を見る」


 私は机に置いた帳簿を見た。

 給料、返済、仕入れ。自分で決めた数字が並ぶ。


「必要な時には、助けを求めます。あなたに世話をしていただくために、結婚することはありません」


 セドリックは箱を引き戻した。

 去る前に、商会の審査で不利な説明をしないでほしいと言った。


「確認した事実を、お伝えします」


 私はそう答えた。

 扉が閉まってから、膝の力が抜ける。

 ニナが椅子を寄せた。


「座ってください。今の返事、立ったまま言った分だけ疲れます」


 私は座り、深く息を吐いた。

 指輪はなかった。

 それでも、私の手は空っぽではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。