第39話 向かいの店主と、同じ卓につく
照合の席には、ガスパール、私、文書士が座った。
ソランジュの確認書と、母の約束の紙の写しを並べる。
原本はそれぞれの手元に残した。
文書士は、確認した範囲を読み上げた。
私の使用権はある。
大商会への譲渡承諾は、どちらの権利者からも得られていない。
セドリックの説明書と、資料に差がある。
「分かりました。商会内の審査へ提出します」
ガスパールは頷いた。
「当店の商品説明も訂正します。リュミエールが無断使用しているという案内は、当商会の見解ではありません」
「そのことを、公開していただけますか」
「はい。訂正文をご確認ください」
勝った、という気持ちはまだなかった。
訂正文の言葉を、一つずつ確かめた。
ソランジュの名を出す範囲も、本人の承諾どおりにする。
訂正文には、事実関係だけでなく、誤った説明に基づく宣伝を訂正する日付を入れた。前の案内を見た人が、どの情報が新しいか分かるようにする。
私は、旧店の商品が全部悪いと読める言葉を削った。あそこで働く職人の味まで、今回の権利の話と混ぜるべきではない。
ガスパールは削除を認め、修正文を出した。相手の商売を傷つけるほど強い文が、自分を守る最善の文とは限らない。必要な説明を、必要なところへ届けることに集中した。
席を終える時、ガスパールが言った。
「向かいの店を閉めさせたいわけではない、とおっしゃいましたね」
「はい」
「私も、営業を続けるために整理しています。店を買ったのは私の判断です。説明を信用した責任まで、全部他人へ渡すつもりはありません」
私は頷いた。
彼と仲良くなる必要はない。
ただ、同じ卓で、確認したことを共有できた。
旧店から戻ると、アドリアンが荷物を下ろしていた。
「お疲れさまでした」
私は資料を持ち上げた。
「終わりに近づきました」
「では、今日は早く閉められますか」
「予約を渡したら」
その返事に、彼は笑った。
勝っても負けても、予約のお客様は待っている。
いつもの仕事が残っていることが、ありがたかった。
最後の客が帰る直前、セドリックが入ってきた。
手には、以前私が返した指輪の箱があった。




