第35話 助けを求めるのも、店主の仕事
朝の打ち合わせで、全員へ資料を見せた。
分かっていることと、まだ確かめていないことを、別の紙にする。
「店を続けることには、今のところ支障はありません。ただ、二日ほど外へ出る時間が必要です」
ポールが配達表を直す。
ニナは問い合わせの返事をまとめ、テオは仕込み量をマルタと確かめた。
「私がいない間、無理な注文は受けないでください」
「店長がいる時も、受けませんよ」
ニナに言われ、皆が笑った。
私も笑えた。
午後、契約の照合を頼んだ文書士が来た。
彼女は書類を読み、質問を細かく分けた。
「共同経営を終えたことと、創作した配合の扱いは、別に確認しましょう。お二人の間に残した書面があるか。承諾した相手と範囲はどこまでか」
母の娘だから全部私のもの、とも、共同制作だから使えない、とも決めつけなかった。
私は知りたいことを、少しずつ正確な言葉へ直せた。
文書士は、私へ昔の連絡を思い出せる範囲で尋ねた。母が亡くなった後、父から預かった紙。セドリックに見せた帳簿。私が署名したもの。
私は思い出せない日付を、正確なように答えかけてやめた。
「時期は分かります。でも、その日だったかは、記録を見ないと」
彼女は、その答えでよいと言った。分からない欄を空けておけば、後から資料を探せる。曖昧な記憶を確定させてしまう方が、照合を難しくする。
私は質問の紙を持ち帰り、店の古い箱を一つずつ調べた。
夕方、ソランジュから返事が来た。
字は帳面の下にあったものと似ている。
『明日の水曜日、娘の家でお待ちしています。帳面も持ってきてください』
住所をマルタに見せる。
彼女は、祭りで見た女性に間違いないだろうと頷いた。
「一緒に来てもらえますか」
私が尋ねると、マルタの目が少し赤くなった。
「もちろん。でも、私が話しすぎたら止めてね。あなたが聞くための日だから」
私は頷いた。
誰かに頼んでも、主人公の座を渡すわけではない。
そう思えるまで、随分かかった。
夜、二階で旅の用意をする。
レシピ帳の青いリボンへ、指を置いた。
明日は母の味を尋ねに行く。
母の知らなかった私の店の話も、持っていこう。




