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婚約者に店を売られたので、従業員全員と向かいに新しい店を開きます  作者: 渋谷 爽月


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35/50

第35話 助けを求めるのも、店主の仕事

 朝の打ち合わせで、全員へ資料を見せた。

 分かっていることと、まだ確かめていないことを、別の紙にする。


「店を続けることには、今のところ支障はありません。ただ、二日ほど外へ出る時間が必要です」


 ポールが配達表を直す。

 ニナは問い合わせの返事をまとめ、テオは仕込み量をマルタと確かめた。


「私がいない間、無理な注文は受けないでください」

「店長がいる時も、受けませんよ」


 ニナに言われ、皆が笑った。

 私も笑えた。


 午後、契約の照合を頼んだ文書士が来た。

 彼女は書類を読み、質問を細かく分けた。


「共同経営を終えたことと、創作した配合の扱いは、別に確認しましょう。お二人の間に残した書面があるか。承諾した相手と範囲はどこまでか」


 母の娘だから全部私のもの、とも、共同制作だから使えない、とも決めつけなかった。

 私は知りたいことを、少しずつ正確な言葉へ直せた。


 文書士は、私へ昔の連絡を思い出せる範囲で尋ねた。母が亡くなった後、父から預かった紙。セドリックに見せた帳簿。私が署名したもの。

 私は思い出せない日付を、正確なように答えかけてやめた。


「時期は分かります。でも、その日だったかは、記録を見ないと」


 彼女は、その答えでよいと言った。分からない欄を空けておけば、後から資料を探せる。曖昧な記憶を確定させてしまう方が、照合を難しくする。

 私は質問の紙を持ち帰り、店の古い箱を一つずつ調べた。


 夕方、ソランジュから返事が来た。

 字は帳面の下にあったものと似ている。


『明日の水曜日、娘の家でお待ちしています。帳面も持ってきてください』


 住所をマルタに見せる。

 彼女は、祭りで見た女性に間違いないだろうと頷いた。


「一緒に来てもらえますか」


 私が尋ねると、マルタの目が少し赤くなった。


「もちろん。でも、私が話しすぎたら止めてね。あなたが聞くための日だから」


 私は頷いた。

 誰かに頼んでも、主人公の座を渡すわけではない。

 そう思えるまで、随分かかった。


 夜、二階で旅の用意をする。

 レシピ帳の青いリボンへ、指を置いた。

 明日は母の味を尋ねに行く。

 母の知らなかった私の店の話も、持っていこう。

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